酒向正春×津田大介【対談】「健康寿命」を長くするために必要なことーー超高齢化時代の患者論
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いま1冊の本が話題になっています。タイトルは『患者の心がけ 早く治る人は何が違う?』。超高齢社会で需要が高まる「回復期リハビリテーション医療」と、それを受けるわれわれ=患者の心構えを説いた本書は、医療者から見た医療論であり、患者はどういう心がけをすべきかというプロ患者論でもあり、医師と患者のコミュニケーション論でもあるという多層的な内容で、最近よく目にする「健康寿命」を少しでも長くする方法への回答でもあります。今回は、著者でねりま健育会病院院長の酒向正春さんをゲストに、超高齢化時代における患者の心構えや病院の選び方についてお話を伺いました。

 

(2018年4月9日 J-WAVE『JAM THE WORLD』「UP CLOSE」より)
出演:酒向正春(ねりま健育会病院 院長)、津田大介 構成:阿部雄一

 

津田:最近、よく耳にする「健康寿命」という言葉。健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことですが、では、この健康寿命を少しでも長くするにはどうすればいいのでしょうか。本日はこの方をゲストにお話を伺います。
話題の書籍『患者の心がけ 早く治る人は何が違う?』の著者で、ねりま健育会病院院長の酒向正春さんです。

 

酒向:よろしくお願いします。

 

津田:『患者の心がけ 早く治る人は何が違う?』は、超高齢化社会で需要が高まるリハビリテーション医療と、それを受ける患者の心構えを説いた本です。僕も読ませていただいて、すごくおもしろかったのですが、書名からは想像できない多層的な内容であることに驚いてしまいました。

 

医療者から見た医療論であり、患者はどういう心がけをすべきかというプロ患者論でもあり、医師と患者のコミュニケーション論でもある。そして、人生論でもあり、仕事論でもあり、組織論でもある。このように、あえてテーマをひとつに絞らず、いろいろな読み方ができる本を書くことになったきっかけから教えていただいていいでしょうか。

 

酒向:私はいま脳リハビリ医として働いています。救急病院のICUで治療するような医療ではなく、たとえば病気によって障害が出てリハビリをするような場合、患者さん自身が「回復したい」という意志をもっているかどうかが非常に大切になります。そういった患者さんやご家族を含めたチーム医療の必要性を1冊の本にまとめたいと思ったのが執筆のきっかけです。

 

津田:患者自身はもちろん、家族も医療チームの一員という考えにならないといけない。酒向さんは本のなかでそう書かれていましたね。

 

酒向:そうです。家族も医療チームの大切なひとりです。

 

津田:酒向さんはNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」で紹介されるほど高名な医師ですが、変わったキャリアの持ち主でもありますよね。もともとはバリバリの脳神経外科医だったのが、途中で脳リハビリ医に転向された。どんな経緯でそうなったのでしょうか。

 

酒向:脳神経外科医は、脳にさまざまな病気を抱える患者さんを治療します。原因は交通事故であれ、脳卒中であれ、脳外科手術だけで完全に治療できればいいのですが、重症の場合、手術だけでは治らずに障害が残ってしまうこともある。そうなると、患者さんは障害を抱えて生きていかなければなりません。

 

いくら有能な脳神経外科医でも壊れた脳組織は治せませんから、手術だけで治せないのは仕方のないことです。しかし医師としては「治せなかった」という無力感に苛まれてしまう。重症になった患者さんを蘇らせるために、ほかになにか手段はないかーー私の場合、そう考えて思い至ったのが「リハビリ」でした。

 

酒向正春氏

 

津田:重症患者さんにとっては、手術と同様にリハビリが重要であるーーそう気づかれたと。酒向さんがそう思うに至った直接のきっかけってありました?

 

酒向:いろいろなことがありました。やはり直接のきっかけは、脳神経外科医の自分には、寝たきりに近くなった患者さんを治すことができなかったことです。

 

それと、海外で仕事をしていたときに、ハンディキャップを抱えた方を病院の外へ連れ出して、元気にする文化を直接見たことも大きいと思います。そういった文化はまだ日本にないので、それならば私にできることがあるんじゃないか。そんな考えからリハビリ医になりました。

 

津田:なるほど。酒向さんのお気持ちはよく理解できる一方で、脳神経外科医というと、医師の花形じゃないですか。医療ドラマでも華々しく描かれることが多いですし、ドキュメンタリーでも「神の手をもつ男」なんて取り上げられ方をよくしています。

 

そういったスポットライトを浴びる脳神経外科医に比べて、リハビリ医はーー誤解を恐れずに言えば、やや地味な仕事だという印象が拭えません。転向を決断するには大きな葛藤があったのではないかと想像しますが、実際のところはいかがでした?

 

酒向:おっしゃるとおり、脳神経外科医になる前は「かっこいいドクター像」のようなものがあり、その仕事を選びました。実際に脳神経外科医になって一生懸命やってきたわけですが、脳神経外科医にやれることは、やはり病気を診ることなんですね。

 

もちろん病気を診るのはとても重要なことですが、先ほども申し上げたとおり、重症の患者さんの障害を完全に治療することはできません。患者さんの人間力を回復させるのは、脳神経外科医ではなくリハビリの仕事だーー。そう思うようになってからは、比較的ためらいなく転向することができました。

 

津田:リハビリ医になって、患者さんが回復していくのを見るのには、脳神経外科医だったときとは違うよろこびがあるのではないですか?

 

酒向:はい。患者さんが人間力を回復することを、私たちは「人間回復」と呼んでいます。特に超高齢化社会を迎えるいま、そういった医療の重要性の高さを実感しているところです。

 

というのも、人間は80歳以上になると、病気も障害もなかなか治りません。その後の人生でも続いていくわけですね。その場合、スーパードクターがいかに良い手術をしても、どんなに良い薬を出しても完治することはできない。その治療を底上げするのはなにかというと、やはりリハビリテーションだということになります。

 

津田QOL をつねに高くして、うまく病気と付き合っていくためには、リハビリテーションが重要だということですね。

 

酒向:そうです。身体も脳も元気にしていくという意味で、非常に重要だと考えています。

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