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美雪はその後、新しい事業を次々と立ち上げ、着実に成果を収めていった。やがてその事業のひとつが別会社として独立することになり、美雪が社長に抜擢されることが決まった。

 

そのニュースを耳にして、私はずいぶん久しぶりに資料室へと足を運んだ。

 

鏡は変わらず神秘的な雰囲気を放ちながら、そこにあった。

 

私はおもむろに尋ねてみた。

 

「鏡よ鏡、同期で一番仕事ができるのは、だぁれ?」

 

鏡はすかさず返してくる。

 

「同期で一番仕事ができる……それはあなた」

 

たしかに私は努力をして、それなりに大事な仕事を任されるようにはなった。同期の中でもがんばっている自負はある。

 

しかし、どれだけ鏡に言われようとも、以前のように気持ちが満たされることはない。そもそも自分との比較対象に、美雪はいまや入っていないのだから。もう美雪は同期ではなく、元同期だ。

 

私は鏡を箱の中に戻して蓋を閉じた。

 

もう二度と、この場所には来ないだろうなと思った。

 

あるとき私は経済誌で、若手女社長として美雪が特集されている記事を偶然目にした。

 

人生の転機を尋ねる質問に、美雪はこう答えていた。

 

――もともとは、当時の社長に見出してもらったことがきっかけでした。いま考えると肝を冷やす思いですが、私、社長にプレゼンをしないといけない大事な会議で、なんだか眠くなっちゃって寝てしまったんです。当時は目を覚ましたあとに頭が真っ白になりましたが、社長はそれで名前を覚えてくださったみたいで。改めて、じっくり話を聞いてもらうことができたんです。本当に幸運としか言えません。

 

余談ですが、と、美雪はつづける。

 

――その転機となった会議のとき、同期の子がアップルティーを淹れてくれたのがすごく印象に残っていて。じつはそのアップルティーが幸運を運んでくれたんじゃないかって、ひそかに思っているんです。

 

そして記事は、こう結ばれていた。

 

――だからいまでもここぞというとき、私は決まってアップルティーを口にするのが習慣ですね。それで験を担いで、大一番に臨んでいるわけなんです。

 

 

著者:田丸雅智(たまるまさとも)
1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。2011年、『物語のルミナリエ』(光文社文庫)に「桜」が掲載され作家デビュー。2012年、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。「海酒」は、ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化され、カンヌ国際映画祭などで上映された。2015年からは自らが発起人となり立ちあがった「ショートショート大賞」において審査員長を務め、また、全国各地でショートショートの書き方講座を開催するなど、新世代ショートショートの旗手として幅広く活動している。2017年には400字作品の投稿サイト「ショートショートガーデン」を立ち上げ、さらなる普及に努めている。著書に代表作『海色の壜』など多数。

 

田丸雅智 公式サイト:http://masatomotamaru.com/

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