毛利元就って? 『天命』岩井三四二
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bw_manami

2019/01/31

悲しいことに、毛利元就(もうりもとなり)はさほど有名ではない。

 

戦国大名として中国地方の十カ国を支配した、というだけでも日本史上まれにみる英傑として語られる資格があるはずだが、現代では知名度はいまひとつ。「三本の矢」の逸話は年配の方々には常識でも、若年層には浸透していない。毛利元就? 名前は聞いたことがあるけど何をした人か知らない、というのが一般的な反応ではなかろうか。

 

それも無理もない。大河ドラマでとりあげられたのは二十一年も前のことだし、司馬遼太郎(しばりようたろう)氏も小説にしていない。

 

私は今般、そんな人を主人公にして小説を書いてしまったが、果たしてこの本、売れるだろうか。

 

と愚痴ばかりならべると、あきれる方もおられるだろう。いったい何を言いたいのかと。

 

じつは毛利元就も、かなり愚痴っぽい人だったのである。自筆の手紙が数多く残っているが、これが愚痴のオンパレードで、やれ妻が早く死んだので家庭内のこともすべて自分でやらねばならぬ、とか、息子の嫁の手紙が短すぎる、とか、いつもぶつぶつ言っている。英雄のイメージからほど遠い感じである。

 

とはいえひとたび合戦に出ると、自軍の三倍以上の敵軍を打ち破ったり、奇策で城を落としたりと、変幻自在の活躍をしてほとんど負けたことがなかった。一方で健康に気をつかい、酒を飲まずに節制して七十五歳まで長生きをした。最後に子供をもうけたのが七十一歳のときと、びっくりするほどの精力漢でもあった。

 

英雄は英雄だが、まことに人間くさい面を隠さず、記録として後世に残した人でもあったのだ。こういう人は描き甲斐がある。毛利元就七十五年の生涯につきあって、いまは脱力感ばかりを感じている。

 

 

『天命』
本体1900円+税

 

大内、尼子(あまご)の二大勢力に翻弄される小国人・毛利家の次男に生まれた元就。いつ敵方に寝返るとも知れぬ家臣たちをまとめ、戦国を生き抜くために必死で足掻き、策を極めた逞しい武将となっていく。その戦いの生涯を描く傑作歴史小説。

 

PROFILE

いわい・みよじ 1958年、岐阜県生まれ。第64回小説現代新人賞受賞の『一所懸命』で’96年デビュー。『難儀でござる』『光秀曜変』『三成の不思議なる条々』『家康の遠き道』など著書多数。

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