クレーマーは実は常習犯だった!
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サービスは、おもてなしにあらず。サービスは「商品」であり、お店や企業の「営業ツール」であり、「ブランドの源泉」でもある――。ジョエル・ロブションなど一流レストランで、サービス部門のトップを務め、2012年にはサービスの世界選手権で世界一に輝いた男・宮崎辰さんが、新時代のサービスを詳らかにした新書『利益を生むサービス思考』を上梓されました。その刊行を記念して、本書の一部を5回に分けて公開します。

 

 

レストランで起こるトラブルの処理に関しては、書き切れないくらい多くのケースがあります。

 

調理場とダイニングのスタッフのチェックミス、予約をとる際にメモを忘れてしまうミス、予約されたお客様の秘書の確認ミス、料理のお皿に髪の毛が入っていたトラブル……などなど、レストラン業とはトラブル処理業ではないかと思うほど、日々いろいろなトラブルが起きます。

 

それらに対してどう対応すればいいのか。

 

本当にケースバイケースなのですが、一つはチェックを何重にもすることです。

 

調理場内のスタッフの身だしなみから始まって、お店全体の掃除、片づけ等のチェック。お客様のアレルギーや宗教上の理由で食べられない食材のチェック。満員のダイニングでの料理の出し方、料理を待っているお客様の感情のチェック。

 

それらを何重にもすることで、ミスをなんとか防ぐ。それ以外に方法はありません。

 

そしてもう一つ大切なのは、タイミングです。

 

決してあってはならないことですが、たとえばお皿に髪の毛が入っていたという場合。各テーブルを常に注視していて、お客様が「あれっ?」と気付いた瞬間、サービススタッフもそれに気付いてテーブルまで飛んでいって「どうされましたか?」と声をかければ、お客様が怒り始める前に「大変申し訳ございません。すぐに料理を取り替えます」と対応できる。

 

このタイミングを逃さなければ、お客様の怒りはなんとか未然に防ぐことができます。そのタイミングの差はコンマ5秒程度のこと。一瞬のタイミングを逃さないことも、サービススタッフの鉄則です。

 

とはいえそこまで注意していても、現実にトラブルはあります。たとえば、こんなお客様がいました。

 

ある日、肉料理に髪の毛が入っているとクレームをつけてくる方がいました。ほとんど食べ終わっている段階で、「髪の毛が入っていた」とおっしゃるのです。すぐに「申し訳ございませんでした」と謝ったのですが、「気分が悪い」と言ってトイレに入ったままずっと戻ってきません。

 

戻るとデザートは普通に食べて、またトイレに行ってなかなか戻ってこない。ようやく戻ってきても「気分が悪くなって吐いたよ」と言い張って、食事代を支払おうとしない。それだけでなく「千葉県内の自宅までのタクシー代を出せ」と言ってくる。すごく高圧的な人でした。

 

その時、私たちスタッフは、すでにそのお客様の情報を得ていました。最上級のレストランを「グランメゾン」と呼びますが、こうしたレストランにはグランメゾン・ネットワークというものがあって、他のレストランの支配人から「手配状」のようなファックスが来ていたのです。

 

「こんな風貌の人で手口はこれこれ。帰路のタクシー代を請求してくる」というふうに、この人の特徴や手口が細かく書いてありました。

 

そのファックスを見せて、「お客様ではないですか?」とぶつけると、すーっと帰っていった。やはり常習犯だったのです。

 

グランメゾンでは、横の連携をつくってお互いに情報を流しあい、自衛のために横暴なお客様から身を守る取り組みを始めています。

 

同様のケースはスタッフ側にもあります。

 

たとえば、グランメゾンの転職を繰り返し、置いてある高級ワインを横領するケース。入社して1カ月程度で目当てのワインが手に入ると横領し、足がつく前に辞めていく。

 

だから警察沙汰にはなかなかならない。被害総額は数百万円にもなるはずです。ワインの知識にやたら詳しいし、レストラン事情も知り尽くしているので、なかなか面接でも見破ることができない。

 

結局このケースでも、「この人だけは採用してはいけない」と情報が流れました。そうやって被害を防ぐしか、方法がないケースもあるのです。

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宮崎辰(みやざきたつ)

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