「シスパーレは15年かけて登った山」登山家・平出和也×作家・馳星周(2)
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2019/02/14

撮影・馳星周氏

 

「吸収する人生から還元する人生へ」

 

――2度目のピオレドールを受賞されたシスパーレ登攀では中島健郎さんがパートナーでしたが、一緒に登る仲間はどのように決められますか?

 

平出 いま僕がやっているやり方の登山だと候補が限られてくるのでメンバーはわりと簡単に決められますけど、それが本当にベストパートナーかというとそれはたぶん一生に1人か2人出会えればいいぐらいだと思うんです。以前は谷口けいさん(初めてのピオレドールを受賞したカメット峰登頂の際のパートナー)とずっと一緒に登ってましたけど、亡くなってしまいました。彼女はよく「40までは吸収する人生で、40からは還元する人生にしたい」と言ってたんです。僕より7歳上でやはり大人だったんでしょうね。僕はそんなこと関係なしに、ずっと好きなことやってられたらいいやと思ってたんですけど、40近くになってきて還元する人生になりつつあるなと思うようになりました。そんな時に目の前に現れたのが中島健郎で、彼はやっぱりセンスはいいし、すごい高いパフォーマンスを示すんですけど、もうイケイケで、それは10年前の自分を見ているかのようなんですね。その彼がイケイケのパートナーと山に行ってたらけっこう簡単に死んでしまうんじゃないかと。僕は山に登るたびに山が恐くなって慎重になってきて、登れない山が多くはなったんですけど、逆に生きて帰ってくることの重要さを考えるようになってきました。そんな僕の行動から山で生き延びる術みたいなものを学んでほしいなと思って、ひと世代若い彼を育てたいというので一緒に行くようになったんです。僕の還元する人生の……。

 

 

 始まりですね。

 

平出 はい。だから彼をベストパートナーと思っていなくもないんですけど(笑)、彼にはそう思ってほしくないというか、僕を踏み台にして違うパートナーと1ステップ上に行ってほしい。生活している中で冒険を続けていくのは大変じゃないですか。学生の時は「一生山登りして遊んで生活できるんじゃないか」って勘違いしてましたけど。やっぱり就職して冒険を続ける環境を作るのは難しかったし。応援してくれる人を増やすのが重要じゃないかと。

 

 そうですね。経験を積み重ねて気づいてもらうしかないですよね。

 

平出 同じ山を何回も登ってると分かると思うんですけど、1回目に気づかなかったことに2回目3回目に気づくことがあるわけじゃないですか。経験すればするほど視野が広くなるんです。

 

 同じ山に2回も3回も登ってると「こんな岩あったっけ」て気づくことがあります。それまではいっぱいいっぱいで気づけなかったこと。

 

平出 シスパーレは、最終的に登れたから言えることかもしれませんが、やっぱり過去3回の失敗があってより良かったな、という感じはあります。1回目2回目3回目は僕にとって雲の上の目標だったのが、いつの間にか挑戦している中で僕も成長して4回目でやっと登頂できた。自然に自分が成長させてもらったと言いますか、山に育ててもらったような。1回の挑戦で登れるような山はいまは全然魅力を感じないです。苦労した分しっかり記憶として残る。そんな活動をしていきたいと思っています。K2の未踏ルートとかいまいろいろと第2の登山人生を始める場所を考えています。シスパーレは15年かけて登ったので、次は20年くらいかけて登れるような山じゃないといまは頑張れないという気持ちです。

 

【ネパール・アピ登山動画】

 

 

平出和也・ひらいでかずや
1979年長野県生まれ。アルパインクライマー、山岳カメラマン。2008年インド・カメット峰に新ルートから登頂し、登山界のアカデミー賞といわれるピオレドール(金のピッケル賞)をパートナーの谷口けいとともに日本人として初受賞。2017年植村直己冒険賞受賞。2018年、前年に達成したパキスタン・シスパーレ北東壁未踏ルート登攀の功績でパートナーの中島健郎とともに2度目のピオレドール受賞。現在、(株)ICI石井スポーツ登山本店所属。

 

馳星周・はせせいしゅう
1965年北海道生まれ。編集者、フリーライターを経て、1996年『不夜城』(KADOKAWA)で小説家としてデビュー。翌年に同作品で吉川英治文学新人賞、日本冒険小説大賞を受賞。’98年『鎮魂歌 不夜城Ⅱ(KADOKAWA)』で日本推理作家協会賞、’99年『漂流街』(徳間書店)で大藪春彦賞を受賞。ノワール小説の旗手としてベストセラーを連発する。近年は歴史小説『比ぶ者なき』(中央公論新社)や犬をテーマにした『ソウルメイト』(集英社)など作品の幅を広げ、山岳冒険小説『蒼き山嶺』(光文社)も好評。軽井沢在住。

 

蒼き山嶺』馳星周/著
警察から追われ、刺客に命を狙われながら、白馬岳を越えて日本海を目指す――。
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