世界一のサービスマンが語る、「俺のフレンチ」が飲食界の「革命」であるワケ
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サービスは、おもてなしにあらず。サービスは「商品」であり、お店や企業の「営業ツール」であり、「ブランドの源泉」でもある――。ジョエル・ロブションなど一流レストランで、サービス部門のトップを務め、2012年にはサービスの世界選手権で世界一に輝いた男・宮崎辰さんが、新時代のサービスを詳らかにした新書『利益を生むサービス思考』を上梓されました。その刊行を記念して、本書の一部を5回に分けて公開します。

 

 

サービスの本質とは「付加価値を上げること」にあります。

 

市場で売っている原価50円で仕入れたパイナップルを、手間をかけて一皿数百円の「商品」にする。高級フレンチレストランでは、それをお客様の目の前でデクパージュして、一皿数千円の高級デザートにする。あるいは銀座の高級クラブのフルーツ盛りは、一皿で数万円にもなります。こうやって、原価に対して何倍の価格をつけられるかを競ってきたのがこれまでのサービスでした。

 

ところが最近では、このサービスの原理に「革命」が起きています。

 

全国に出店している「俺のフレンチ」や「俺のイタリアン」といった「俺の~」グループのレストランをご存知でしょうか。フレンチ、イタリアンだけではなく、和食、蕎麦、焼き肉など、さまざまなジャンルに進出していますが、周知のようにそのサービスは業界の常識を覆す「原価率50~60パーセント」と言われています。一般的なレストランの原価率が25~30パーセントくらいと聞けば、いかに驚くべきことかわかるでしょう。つまり、同じ原価のフォアグラを使った料理でも、一般のフレンチ店では一皿4000円~5000円という値段をつけるのに対して、「俺のフレンチ」は1500円~2000円で提供しているのです。

 

美味しい料理をリーズナブルに食べられると聞いてたくさんのお客さんがやってきますから、その分お客さんの回転率を上げて、多くの方に入ってもらうことで利益を確保する。

 

もちろん「俺の~」は店内のしつらえは簡素です。雰囲気は活気があって賑やかで楽しいのですが、落ち着いた雰囲気が好きな方にはくつろげないという声もちらほら聞こえます。それでも、料理自体は素材がいいからある程度の味は担保できるし、他のレストランと比べれば明らかに安い。

 

お客様の側も、高級レストランの雰囲気や上質感、本物感を求めるのか、美味しいものを安くというコストパフォーマンスを求めるのか、はっきりと二手に分かれているのです。

 

「コスパ派」に徹してマーケティングをし、ひたすら回転率を上げて利益を出していく。それが「俺の~」が生み出したサービス革命なのです。

 

「俺の~」は時に応じてサービス体制やシステムも微調整しています。

 

たとえば、最初は「立食」に徹していましたが、しばらくしてお客様から「やっぱりフレンチで立って食べるのはちょっと……」「座って食べたい」という希望が多数寄せられたので、全て着席にして、その分料理をスピードアップして提供するように努めました。一組の滞在時間を短くすることで、一晩で4回転、5回転にする。さらに、今までは16時頃からだった営業開始時間を12時のランチタイムからに早めて、夜まで通して営業することで一日に6回転、7回転を目指しています。さらに最近では「俺の~」ブランドが確立されたので、飛行機の機内食の分野にも進出したりしています。

 

また、料理人やサービスマンの質もアップしました。以前は有名店で働いていた人が活躍している例も少なくありません。やはり、給料がいいのです。自分の腕を正当な対価で買ってもらいたいというプロ意識をくすぐって、能力のあるスタッフを集めている。アルバイトも時給1500円には達しているようです。普通のレストランならばどんなに頑張ってもせいぜい1000円~1200円程度ですから、優秀な若者アルバイターも「俺の~」に流れています。

 

新卒の初任給も25万円程度にまでなっていると聞きました。既存の高級店では「新卒は見習いだ」という感覚で、いまだに月給12万円といった店もあります。それに比べたら「俺の~」は各種保険も整っているし、年4回の分配金(ボーナス)も確保されている。圧倒的に条件がいいのです。各地の調理師学校にも、大量の求人が出ていますので、そうなると優秀な若者たちも店やシェフの「ブランド」よりも「条件」で、「俺の~」を選びます。そういう人たちが高級食材を扱って調理して、サービスするのですからお客様は喜ぶわけです。

 

メニューにも「原価率150パーセント!」と書かれたメニューがあります。つまり、実質赤字で提供しているのです。

 

そのひとつが、フォアグラと牛ヒレ肉のトリュフソースがけ。「ロッシーニ」と呼ばれる、高級フランス料理の定番中の定番です。一流ホテルでもスペシャリテとして提供されている一品ですが、それを2000円程度の値段で出している! ただでさえ異常な原価率に、調理やサービスの手間も考えれば完全に赤字のはずです。それでも個数限定で提供することによって目玉商品となり、初来店してもらうための宣伝効果があります。こうしたメニューもあることで、お昼過ぎの早い時間にもファンを集客し、回転数アップに繫げています。それを目当てに来店するお客様は絶えませんし、オードブルやワインで利益を出せば、トータルではコストに見合います。「俺の~」グループのとある店の支配人と話したら、ロッシーニだけで、1カ月にグループ全体で1万食は出ているのではないか、ということでした。

 

私も知り合いのシェフやサービスマンがいる「俺の~」に行くことがありますが、二人で行ってワインを飲んでも、1万円でお釣りがくる。雰囲気は賑やかでゆっくり話ができるわけではないのですが、料理の内容は悪くありません。むしろ、客の立場では嬉しい限りです。

 

しかも、働く側のモチベーションもアップさせています。シェフになると、チェーン店であってもメニュー構成を任せられて、自分で工夫したレシピを出して構わないそうです。料理内容と値決めまでシェフと店長に任されているので、シェフたちにとってもやり甲斐があります。

 

またサービススタッフも、調理場で仕込みを手伝うそうです。夕方からの営業を始める店でも、サービススタッフは朝10時頃に出社して、オマール海老などの下処理をする。そうしないと4回転、5回転するには間に合わないからです。「なんでサービススタッフがこんな仕事をするんだ」と愚痴る以前に、4回転以上しないと利益が出ない。利益が出たら給料で返す、というポリシーが徹底しているので、働き甲斐がある。将来は自分の店を持ちたいと考える若手などは、資金を稼ぐ意味でもここで働いてみたいと思うはずです。そうやって人材も好循環させるシステムができています。

 

これまでフランス料理といえば、美味しさ、雰囲気、くつろぎ、高級感を提供して利益を確保するビジネスモデルしかありませんでした。そこへコスパに徹し、回転数で利益を出すモデルが現れたことは、ある意味で「革命」だと言っていいと思います。そのおかげでレストラン業界、サービス業界にも活気が出てきた。既成のビジネスモデルに安住せず、まだまだ新しいサービスが生まれるニューフロンティアの可能性がある。

 

そのことが業界に周知されただけでも、業界にとっては朗報だったと思います。

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宮崎辰(みやざきたつ)

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