アインシュタインは「定常宇宙論」を信じていた! ――宇宙はなぜブラックホールを造ったのか(9)
ピックアップ

bw_manami

2019/03/04

 

ビッグバン宇宙論と定常宇宙論

 

前回、超大質量ブラックホール説が檜舞台に出てくるまでに、さまざまなアイデアが提案されたと述べました。ここで、まず5つのアイデアを復習しておくことにしましょう。

 

1 物質の新たな創生
2 物質と反物質の相互作用
3 恒星集団の中での恒星衝突
4 恒星集団の中での超新星爆発
5 超大質量星

 

最初のアイデアは、当時の宇宙論モデルの解釈が背景にあると述べました。

それについて考えてみることにしましょう。

 

現在受け入れられている宇宙論は、皆さんご存知の「ビッグバン宇宙論」です。ロシア生まれの米国の物理学者ジョージ・ガモフ(1904-1968)らが1948年に提唱したファイアー・ボール(火の玉)モデルが元になっています。

 

ファイアー・ボール(火の玉)モデル以前は、宇宙は時間的にも空間的にも変化しないという「定常宇宙論」が受け入れられていました。定常宇宙論の信奉者であった英国のフレッド・ホイル(1915-2001)は英国のラジオ番組に出演した際、「ファイアー・ボール(火の玉)モデルは嘘っぱちだ」と言い放ちました。

 

じつは、ビッグバンは英語のスラングでは〝大嘘つき〟という意味があるのです。

 

ところが、皮肉にもホイルの発言がガモフらのモデルに「ビッグバン宇宙論」という名前を与えることになってしまったのです。

 

ビッグバン宇宙論は1927年にベルギーの物理学者ジョルジュ・ルメートル(1894-1966)が、そして1929年に米国のエドウイン・ハッブル(1889-1953)が宇宙膨張の観測的証拠を発見したことに端を発します。

 

宇宙が膨張しているということは、時間を遡っていくと、宇宙は点のような状態から出発したことになります。実のところ、ルメートルは1927年に宇宙は原初原子から生まれたという説を提唱していました。

 

ガモフらのファイアー・ボール(火の玉)モデルでは宇宙膨張と共に宇宙が冷えて、電離ガス状態から中性化した時、宇宙は晴れ上がるので、そのときの熱放射がマイクロ波で観測されることが予言されていました。

 

実際、この宇宙マイクロ波背景放射は1964年に観測され、モデルが正しいことが立証されたのです。このような経緯で現在では「ビッグバン宇宙論」が受け入れられています。

 

しかし、しばらくの間は「定常宇宙論」も根強く信じられていました。アインシュタインでさえ、一般相対性理論を構築した当時は「定常宇宙論」を信じていたのです。

 

当時は宇宙が膨張していることは知られていなかったので当然といえば当然ですが、信条として「定常宇宙論」を信じる人が多かったのです。

 

だが、宇宙は膨張している。これは観測事実なので、つじつま合わせが必要になります。

 

宇宙が膨張するには、何かしらのエネルギーが湧き出てくることが望ましくなります。その場所こそがクェーサーなのではないか?そういう考えも許される雰囲気の時代だったのです。

 

英国の物理学者ジェームズ・ジーンズ卿(1877-1946)は1929年に出版した教科書『天文学と宇宙進化論(Astronomy and Cosmogony)』の中で述べています。

 

〝星雲(銀河)の中心では物質が連続的に創られているのかもしれない〟

 

また、宇宙膨張に取り残された超高密度の核のような場所が爆発するモデルなども提案されていました。これは「遅延核モデル」と呼ばれルものですが、今の時代なら思いつきそうもないアイデアです。

 

2番目の、物質と反物質の相互作用説も苦し紛れという感を否めません。確かに物理学で取り扱う真空は真の空ではなく、エネルギーを持ち、物質(粒子)と反物質(反粒子)が生まれたり消えたりしている世界です。

 

あるエネルギーを持つ電磁波は粒子と反粒子を生み出すことができます(対生成と呼ばれる現象)。また、粒子と反粒子は反応して質量の総和に応じたエネルギーを持つ電磁波になることもできます(対消滅)。銀河の中心領域で対生成と対消滅が頻繁に起これば、クェーサーとして観測されるというアイデアになります。しかし、膨大なエネルギーをある程度定常的にこのプロセスで担うのは難しいでしょう。

 

3番目と4番目は、銀河の中心にあると考えられる恒星の集団に原因を求めるアイデアです。しかし、銀河の中心領域といえども、恒星の個数密度はそれほど高くはありません。

 

そのため、頻繁に恒星同士の衝突は起こりません。超新星爆発も連続的に発生させることは難しいでしょう。

 

確かに、太陽質量の数十倍の質量を持つ大質量星は、1個だけで太陽の1万倍の光度を稼げます。したがって、このような大質量星が1億個あれば、全体として太陽光度の1兆倍の光度になるので、クェーサーの明るさを説明することはできます。しかも、それらの大質量星は1000万年程度で超新星爆発を起こします。

 

ところが1億個もの恒星を太陽系程度のエリアに閉じ込めておくことはできません。超高密度になり、それこそ重力崩壊を起こしてしまうでしょう。

 

5番目のアイデアは、単体の超大質量星です。このような恒星の運命は、やはり重力崩壊です。しかし、このような超大質量星がうまくできたとしても、崩壊は一瞬で終わってしまうので、クェーサーのようにある程度長い期間にわたって輝くことはできません。

 

また、超大質量星にはもう一つ本質的な問題があります。それは力学的に安定性を保てないことです。特に半径(動径)方向に振動し始めると手に負えなくなります。細かなガス雲に分裂し、超大質量星は壊れてしまうことが理論的に予想されているのです。

 

ただし、超大質量星が強力な磁場を持っていると、力学的な不安定性は軽減されます。そのため、超大質量星の自転を利用してエネルギーを取り出すことができる可能性があります。回転エネルギーを電子などの粒子の加速に使えるからです。

 

これは「マグネトイド・モデル」と呼ばれるものです。電波ジェットの形成には都合がよさそうです。だが、果たしてそんな恒星が存在するかどうかは自明ではありません。

 

かくして、いろいろなモデが提案されたものの、「これは」といえるものはありませんでした。

 

そして、超大質量ブラックホール説が出てくるのです。

 

(次回に続く)

 

 

以上、『宇宙はなぜブラックホールを造ったのか』(谷口義明著、光文社新書)から抜粋し、一部改変してお届けしました。

関連記事

この記事の書籍

宇宙はなぜブラックホールを造ったのか

宇宙はなぜブラックホールを造ったのか

谷口義明(たにぐちよしあき)

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を

この記事の書籍

宇宙はなぜブラックホールを造ったのか

宇宙はなぜブラックホールを造ったのか

谷口義明(たにぐちよしあき)

RANKINGランキング