「遺伝子の差は1.2%」ヒトとチンパンジーを分ける“協力”
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血縁関係がない個体どうしが協力できるのは、どうもヒトに備わる稀有な性質のようです。例えば、チンパンジーはヒトと遺伝子にしてわずか1.2%しか違わず、知能もヒトの幼児よりも高いくらいで、そのふるまいも人間じみています。しかし、人間であれば当たり前にすることをチンパンジーは決してしません。交換と助け合いです。

 

チンパンジーは食物の交換をしません。たとえ自分が食べきれないほどたくさんの食べ物を持っていて、もっとおいしいものとの交換を持ちかけられたとしても応じません。チンパンジーは、一瞬であっても今持っている食べ物を失うことを嫌うのです。

 

ところが、ヒトはそうではありません。人間の社会は交換にあふれています。ものを買うときは必ず商品とお金を交換します。クレジットカードを使えば、先に商品だけを手に入れて後で支払うこともできます。最近ではネットオークションで、個人どうしがもののやり取りも行います。ほとんどの人はちょろまかすようなことはしませんし、交換することになんの抵抗も感じません。このヒトがなんの苦もなく行っている交換を、チンパンジーはできないのです。

 

チンパンジーは助け合いもしないことが知られています。ただ、他のチンパンジーを助けることはあります。他のチンパンジーのために檻を開けてあげたり、人間を助けるようなふるまいも観察されています。まれにではありますが、食物を他のチンパンジーに分け与えることもあるようです。

 

しかし、チンパンジーが他の個体を助けた場合、助けられたほうのふるまいは人間の場合とは大きく異なります。チンパンジーはたとえ助けてもらってもお返しをしないのです。助けたほうもお返しを期待しないようです。つまり、「助ける」という行為はあっても、それは「助け合い」にまで発展しないのです。

 

これに対して、ヒトは助け合います。ヒトが大昔から行っていた助け合いの習慣は、現在も主に狩猟採集生活を送っている民族を見るとよくわかります。ナミビアのサン民族やアラスカ・カナダのイヌイットです。 サン民族は、1から20の家族からなる50から100人程度の集団で狩猟採集生活をして暮らしています。男たちが狩猟で得た肉は一族全体で分かち合います。実際に獲物を仕留めた者でも、獲物を仕留めそこなった者でも取り分は平等です。平等主義の原則を達成するためにサン民族は並々ならぬ努力をしています。

 

例えばルールとして獲物の所有権は仕留めた者ではなく、矢など狩猟具を作った者に与えられます。狩猟具は共有品です。誰でも矢を作ることはできるので、狩りの上手い下手にかかわらず平等に獲物を手に入れることができるしくみになっています。イヌイットも同様で、漁でとれた獲物は他の家族とも分け合います。食料の分かち合いは狩猟生活社会に見られる共通の特徴のひとつです。

 

このような助け合いの精神は現在でもそこら中に見られます。困っている人を見かけたら、たいていの人は助けようとするでしょう。そして、助けられた人はお礼をしようとするでしょう。チンパンジーとは違ってヒトは進んで助け合う生き物です。もちろん個人差はあるでしょうが、どんな冷淡な人でもチンパンジーに比べればよっぽど親切なはずです。

 

こうした他人を信頼して思いやって助け合うというヒトの稀有な性質が、血縁のない個体間での協力を可能にしたと考えられています。

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