日本はこれから何を作るべきか
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bw_manami

2019/04/11

 

重要かつ深刻な課題

 

日本企業はプラズマテレビや液晶テレビなどの、いわゆる薄型テレビで、イノベーションを先導しながらアジア新興国にキャッチアップされたという苦い経験を持ちます。

 

パナソニックは2011年11月に、尼崎のプラズマパネル工場の一つを閉鎖し、薄型テレビ事業の縮小を発表しました。当時の新聞報道によると、パナソニックの大坪文雄社長(当時)は記者会見で、「テレビは世界中のメーカーが参入してコモディティ化した」と語りました。パナソニックがプラズマテレビを戦略商品として定め、世界同時発売を開始したのは2003年。プラズマテレビは8年に経たずに陳腐化し、その後、パナソニックは周知のようにプラズマテレビ事業から撤退しています。

 

液晶テレビを先導したシャープも同様です。

 

世界で初めて液晶テレビを開発したシャープですが、その後のアジア新興国との激しい競争と、液晶事業に過剰に依存した一本足打法で、2015年3月期には約2000億円超の巨額の損失を計上し、深刻な業績不振に陥りました。

 

救済策を巡る紆余曲折の後、最終的に2016年に台湾の企業である鴻海(ホンハイ)精密工業に買収されます。2018年末の時点で、シャープは業績のV字回復を遂げたとマスコミは報道していたようですが、しかし、そのシャープは、私たちが知っているシャープではありません。あくまでも、鴻海に買収され、その支配下でのV字回復でしかないのです。

 

プラズマテレビも液晶テレビも日本発のイノベーションですが、いずれもアジア新興国との激しい競争の中で競争力を失い、苦境に陥りました。技術がアジア新興国にまで浸透し、平準化するスピードには驚かざるをえません。特に、要素部品を市場から購入して組み合わせると一定の水準の完成品ができるような市場環境が生まれると、技術と製品が平準化するスピードは急速に高まるのです。

 

したがって、日本はこれからいったい何を作ればいいのかが、重要かつ深刻な課題になります。

 

産業生態系の補完財に着目する

 

このような問いかけに対しては、将来有望になる産業や技術はいったい何だろうかという観点から議論されるケースは多いのではないでしょうか。

 

例えば、日本はこれから超高齢化社会を迎えるのだから医療産業が有望だというのが、この種類の典型的な答えです。あるいは、日本は人工知能技術にもっと投資すべきだというのも、有望技術に着目した類似の答えです。

 

しかし、ここでよく考えてみてください。

 

どうあがいても、人間は将来の有望な産業や技術を確実に予見する能力は持ち合わせていないのではないでしょうか。

 

今から20年前、グーグルやフェイスブックのような新しい産業の到来を、いったいどれほどの人間が予見できたでしょうか。

 

また、仮に予見できたとしても、新興国の急速な成長の中で、有望な産業の強さを持続することは容易ではありません。半導体産業しかり、テレビ産業もまたしかりです。

 

ですから、前述の問いかけに対しては、将来の有望な産業や技術への問いかけとは異なる別の観点からの議論もまた必要になってくるのではないでしょうか。

 

それは最終完成品、部品、補完財等の産業生態系の位置づけに着目する観点です。この観点は、産業や技術には依存しないはずです。

 

ここから、いったい何が見えてくるでしょうか。

 

共存共栄の構造を作り出す

 

その一つは、最終完成品の技術レベルをさらに向上させて、アジア諸国が容易に模倣できないハイエンド製品を作るという方向で、まさに高級な自動車などがそれに相当するでしょう。

 

もう一つは、新興国が容易に模倣できないコア部品を作るという方向で、例えばこのコラムで綴ってきた、インテルのMPUや村田製作所のコンデンサなどがそれに相当するでしょう。

 

中国企業のパソコンやスマホが売れれば売れるほど、MPUとコンデンサの需要は高まります。これらハイエンド完成品とコア部品に関しては、実はこれまでも多く議論されてきた内容です。

 

それに対して私は、完成品に付加されることでその価値を高める補完財に着目する意義を述べました。完成品と補完財は、お互いに足りないものを補いあう関係になっていて、両者がそろって初めて価値が高まるものです。

 

それは、一方が売れると他方も売れる関係でもあります。

 

いわば、目的を共有した運命共同体のようなものです。

 

関係品にこだわれば、市場の成長につれて日本にキャッチアップしてくるアジア諸国との直接対決を避けることはできません。それに対して補完財に着目することで、最終製品を作るアジア諸国が台頭すればするほど、補完財の需要が増加するという、いわば共存共栄の構造を作り出すことができるのです。中国地場産業の工作機械の生産高が増えれば増えるほど、補完財としてのCNC装置の需要が増えるのが、まさにそれに相当します。

 

勝負の分かれ目

 

さらに技術進化の観点から考えると、補完財は完成品との間で相互促進的に価値を高めあう共進化のサイクルを作ることが可能です。それが形成されると完成品メーカーの持つノウハウや潜在ニーズ、あるいは直面する先端的な課題などが補完財メーカーに流れ込み、その結果、補完財メーカーの技術優位は持続することになります。

 

ファナックのCNC装置には、世界中の工作機械メーカーの持つノウハウ、潜在ニーズ、先端的課題などが流れ込みました。このように、補完財は共進化のメカニズムが働くことで技術集積装置になりうるという点が特徴的です。

 

ただし、ここで注意しなければならないのは、補完財は技術集積装置にはなりうるものの、補完財でありさえすれば必ず技術集積装置になるというわけではないということです。

 

補完財を技術集積装置にまで進化させるためには、最終完成品と補完財との関係をどう認識して、どう設計するのかという点が重要になります。両者をすり合わせの関係として設計するのか、あるいはモジュール化として設計するのかということです。

 

最終完成品に最適な補完財が欲しいという要望に対し、顧客のいわれた通りにそのまま特注品として作り込むのではなく、その要望に応えるものをいかにして標準化の考え方を採用して設計できるのかということが、勝負の分かれ目となります。個別の最終完成品に最適設計された補完財としてではなく、できるだけ標準化を狙った補完財を作るという方向です。これは最終完成品と補完財とのインターフェイスをルール化する、いわゆるモジュラー戦略に他なりません。これは、日本の工作機械産業が辿った道です。

 

日本はこれからいったい何を作るべきなのか――。

 

それは、最終完成品でもなく部品でもない「第三の道」としての補完財へ着目することの意義と可能性です。

 

※以上、『日本のものづくりを支えた ファナックとインテルの戦略』(柴田友厚著、光文社新書)から抜粋し、一部改変してお届けしました。

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柴田友厚(しばたともあつ)

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