アマゾン、ウーバーに潜入 「プラットフォーマー」の搾取を暴く
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時価総額1兆円を超える世界最大の企業でありながら、低賃金や重労働、劣悪な環境が激しく批判を浴びてきたアマゾンは昨秋、米国と英国で働く数十万人の従業員の最低時給を引き上げた。

 

アマゾン批判の急先鋒で、独占的に儲ける大企業への課税法案を提出した米民主党上院議員のバーニー・サンダース氏はCEOジェフ・ベゾス氏の賃上げ決定に他の企業トップも続くべきだと呼びかけている。

 

そのサンダース氏が共鳴し、発言の中でしばしば触れる英国のジャーナリストがいる。自国で賃金が底辺とされる労働に就き、過酷な現場をルポしたジェームズ・ブラッドワース氏だ。その一つとして彼はイングランド中部の田舎町にあるアマゾンの倉庫、フルフィルメントセンターでオーダー・ピッカーを務めた。利用者の注文品を探して狭い通路を行き来し、2mを超える棚から商品を下ろして整理する仕事である。

 

働く前はアマゾンに良い印象を持っていたというブラッドワース氏は、スタッフたちの尊厳が踏みにじられる強制収容所さながらの現場を目の当たりにし衝撃を受けた。まず、出退勤、休憩時間、トイレに行く時でさえも出入り時は常に身体検査があり、通過には十数分かかった。この時間は無給であり、長引いたために遅刻することも許されない。一人ひとりの行動も常に監視下にある。

 

倉庫はサッカーのピッチ10面ほどの巨大な広さで、1日10時間半のシフトの中では計24㎞も歩き回ったという。帰宅する頃には足がパンパンに腫れていた。これで当時の最低時給7ポンドが支払われた。

 

さらに懲罰ポイント制なるものが存在し、アイドルタイム(働いていない時間)、ノルマ未達成、遅刻、私語などに対してポイントが与えられた。合計6ポイントに達するとクビになる。驚くべきことに、医師から診断書を取った病気による欠勤にも1ポイントが課せられた。アイドルタイムは計測され、超過による懲罰ポイントを恐れてスタッフはトイレ休憩さえ躊躇するため、倉庫の棚の所々に尿の入ったペットボトルが置かれていたという。

 

18時頃にやっと取れる”ランチ”休憩は30分与えられるが、離れた食堂との移動があるために食事は十数分で掻き込まねばならない。また、メニューはすぐに品切れになるため恥じも外聞もない争奪戦になるという。

 

他方、アマゾン側の声明には、当社は安全かつ心地いい労働環境を提供し、他社よりも高い賃金を払い、アソシエイト(従業員)一人ひとりを敬意とともに処遇し、適切な休憩時間を設けているとある。ちなみに、アマゾンでは従業員を「アソシエイト」、クビにすることを「リリース」と呼ぶような婉曲用語が使われている。

 

また、ブラッドワース氏はスマホアプリによる配車サービス「ウーバー」でもドライバーとして働いた。好きな時に自分の車で乗客を運ぶという、まさにフリーランスの柔軟な働き方で盛り上がる経済「ギグ・エコノミー」を象徴する仕事である。

 

この経済を先導する巨大IT企業は「プラットフォーマー」と呼ばれ、「すべてはあなた自身の利益のため」「あなた自身が社長」といったキャッチフレーズで訴えかける。しかし現実は、次々に乗客の予約を取るように仕向けられる結果、自由と選択権を失い、アプリを通じた常時監視による支配が待ち受ける。

 

乗客からの配車依頼を断ればサービスから排除されてしまうため、実質的にすべての仕事を断れなくなってしまう。また乗客が利用後に、サービスに対する満足度を5段階で「★」を入力する評価システムがあり、それをもとに会社はドライバーを査定する。皮肉なことに、長く働けば働くほど★の平均値は必ず低くなった。渋滞での遅れや待ち合わせ場所が違うなど、客のどんな不満もドライバーの過失になるためだ。さらに車内では乗客の話にとにかく耳を傾け、自分の発言をすることは許されず、絶対服従が強いられた。そして獲得した★の平均値が低いドライバーは「研修」を受けさせられ、時にはアプリを停止されてしまう。

 

さらに残酷なのは「ウーバーPOOL」というプレミアムサービスだ。これは10回以上乗車した客が利用できるもので、同じ方向を目指す客と「相乗り」が可能になる。ほとんどの場合、運賃は通常利用よりも安くなり、乗客同士のトラブルにもしばしば巻き込まれてしまう。この悲惨なサービスを、ドライバーたちは内輪で「ウーバーPOOR」と呼ぶ。

 

このようにドライバーが疲弊している現状にウーバー側は配慮せず、それぞれを従業員ではなくあくまで個別の会社、つまり顧客として扱っている。これに対しブラッドワース氏は、ドライバーにも労働者としての地位と権利を認める法律が不可欠だと主張する。実際、ドライバーらがウーバーを相手に次々と訴訟を起こし、有給休暇をはじめ労働者の権利を勝ち取るようになってきた。

 

日本で「潜入取材」という言葉を生み出し、アマゾンはじめユニクロ、ヤマト運輸などの過酷労働の体験記を出版してきたジャーナリスト横田増生氏は、ロンドンでブラッドワース氏に取材している。彼は「真面目な文学青年」という印象で、労働者階級の家庭に育ち、唯一の大学卒業者であるという。

 

「潜入記者」というと日本では怪しい人のように聞こえるが、欧米では多く行われ認知度も高い。ただし履歴書等に虚偽があった場合、ルポ出版後などに名誉棄損で訴えられて負けるため、提出書類はあくまでも正直に、かつ当たり障りなく記入する。ある日、アマゾン側が全従業員に対して行う機密保持契約の締結を持ちかけられたことを機に、ブラッドワース氏は辞職を願い出た。ジャーナリストのこうしたやり方は日本でも同じだと横田氏は共感する。同氏は、アマゾンジャパンの労働者が置かれた現状についてこう語る。

 

「日本のアマゾンでピッカーとして働く人たちは、本社の下請けと契約している。組合もないので声を上げられない。翻ってヨーロッパでは、ドイツのアマゾンには組合があるし、イギリスにはアマゾンボイコットの市民運動などが行われ、また各国政府はプラットフォーマーに対して既に数年前から『デジタル課税』を実施している。日本には労働運動も政治家の働きかけもなく、ようやく公取がプラットフォーマー規制の検討を始めたという周回遅れの状況だ」

 

「ギグ・エコノミーという言葉や周辺で語られるキャッチフレーズは全て美辞麗句で、その実態は不安定雇用につけこんだ搾取。企業側の論理と、便利で分かりやすい言葉を求めるメディアの結託が生んだ現象であるのは明らか。一般消費者のほうも反省しなければならない。私たちは消費者であると同時に労働者。どちらの人格も等しく尊重されなければ、社会・経済は行き詰まってしまう。それが今は、まるで消費生活しか存在しないかのように顧客ばかりが重視される風潮になっている。労働者への敬意を欠いた企業は早晩、消え去るだろう」

 

私たちは新技術の利便性を当たり前のように享受し、それが少しでも損なわれることに耐えられない。結果、巨大企業はサービスのさらなる拡大に走る。現代人の身勝手な振る舞いに、無数の労働者が翻弄され、疲弊している。発売されたばかりのブラッドワース氏の著書『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した』(光文社)は、普段は見えない場所で働く人々の存在に気づかせてくれる。

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アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した

アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した潜入・最低賃金労働の現場

ジェームズ・ブラッドワース

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