「地球は平ら」と考える人たち
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bw_manami

2019/05/28

 

アメリカには、「フラット・アース国際会議」と呼ばれる、「地球が平ら」だと考える人たちの集まりがあります。この国際会議は2017年11月、南部ノースカロライナ州で初めて開かれ、約500人が参加しました。このコラムでは、テキサス工科大学で「フラット・アーサーズ=Flat Earthers(「地球が平ら」と考える人たち)」の研究をしているアシュリー・ランドラム博士の話から、フラット・アーサーズの世界を垣間見てみましょう。

 

人の心が科学を拒む背景

 

『ルポ 人は科学が苦手』(光文社新書)を上梓した三井誠さんは2018年2月、世界最大の科学者団体とされる「米国科学振興協会(AAAS)」の年次大会のシンポジウムで、ランドラムさんの講演を聞きました。

 

AAASは科学と社会の橋渡しの役割を担い、世界で最も権威のある科学雑誌の一つ『サイエンス』を発行しています。AAASの年次大会では最先端の科学の成果だけでなく、科学と社会にかかわる課題についても広く議論されています。2018年の大会はテキサス州オースティンで開かれ、約1万人が参加しました。

 

ランドラムさんの発表によると、フラット・アース国際会議の参加者は白人男性が多く、聖書の記述を言葉通りに受け止める傾向が強かったそうです。多くの人が地球の歴史は6000年と考えていて、一方で、教会などの組織的な宗教活動への不信感があったそうです。

 

フラット・アーサーズになった人は、ユーチューブのビデオ(Eric Dubay:200 Proofs Earth is Not a Spining Ball)を見て、という人が多かったそうです。一部の人の間で、フラット・アースを主張するビデオが流行しているらしいのです。

 

2019年の4月時点で、このユーチューブが再生された回数は80万回を超えていました。映像は2時間に及び、「水平線や地平線はどこで見ても常に平らだ」という1番目の「証拠」から始まり、「地球が平ら」である「証拠」をあらゆる視点から200個も紹介しています。2時間を見るのは大変ですが、フラット・アーサーズの想像力と意欲に凄味を感じます。

 

フラット・アース国際会議の参加者の一人は、「自分がこれまで行ったところはどこも平らだった。それに、自分たちがものすごい速さで動いているなんてことはありえない」と話していました。自分の感覚が第一で、「地球の自転や公転を感じられなければ、それは存在しない」という結論になります。

 

ほかの一人は、「私が頼れるのは自分の目だ。その目で、はるか100キロメートル先の平原を見渡すことができる。これこそが地球が平らである証拠だ」と話していました。そうした感覚あるいは直感を信じる心が、ユーチューブをきっかけに呼び覚まされたのかもしれません。

 

一方、フラット・アース国際会議を主催したロビー・デビッドソン氏は、科学全般に不信感を持ち、「『科学』は、科学的な用語で作られた信仰のシステムだ。物事をその信仰にうまくあてはめるように解釈しているのだ」と主張しています。

 

「陰謀論」を信じやすい

 

ランドラムさんたちの研究によると、フラット・アーサーズは一般の人よりも「自分は論理的だ」と考える傾向が強かったという。政府や公的機関への不信感も強く、疑り深い性格でした。「自分は公式見解にだまされるほど、愚かではない」といった感じです。「政府などが共謀して事実を一般市民から隠している」という「陰謀論」を信じやすい特徴もあったそうです。

 

「ケネディ暗殺では、米中央情報局(CIA)が背後で動いていた」など様々な陰謀論が今も人気のアメリカ――。フラット・アーサーズのお気に入りの陰謀論は次のものです。

 

「アポロ計画は、NASAが旧ソ連との宇宙開発競争に勝つためにでっちあげたものだ」――。この陰謀論では、「月面着陸の映像は、NASAが映画会社をまき込んで巧妙に作り出したフィクション」ということになっています。

 

しかし、アポロ計画がでっちあげだったとしたら、大勢のNASA職員は半世紀にわたって秘密を守り続けているということになります。ランドラムさんたちのインタビューに答えた一人は「秘密を知っているのは上層部の一部だけで、ほかの大半の職員は、自分の仕事の本当の意味を知らされていない。彼らもだまされているのだ」と説明したそうです。

 

いかなる批判があろうとも、常に、その反論を作り出していくのが陰謀論の特徴です。

 

「地球が丸い」ことを疑うフラット・アーサーズの視点で見れば、宇宙から撮った丸い地球の写真も、そうした写真撮影を可能にした宇宙開発も、すべて「でっちあげ」という結論になってしまいます。「アポロ計画陰謀論」を信じるのはある意味、必然なのです。科学を疑う人たちの中でも、かなり極端なグループといえそうです。

 

人間心理の深層を探る窓

 

ところで、フラット・アーサーズは社会に何か問題をもたらしているのでしょうか。

 

科学的に正しいかどうかは別にして、「地球は平ら」と思うのは個人の自由でしょう。

 

地球が丸くても平らでも、日常生活には関係なく、得も損もないように思えます。

 

「地球が平ら」と思いたければ「どうぞご自由に」ということではないでしょうか。

 

そのことを疑問に思って、ランドラムさんに聞いてみました。「『フラット・アーサーズ』の何が問題なのですか」と。

 

ランドラムさんは次のように答えました。

 

「私たちは、『地球が平ら』という問題そのものに興味があるというよりも、ユーチューブなどのメディアが、人々の科学的な考え方に与えている影響に関心があるのです。誤った情報が広がる仕組みは、地球温暖化の懐疑論などにも共通する問題だと思います」

 

そして、核心に触れました。

 

「より大きな問題の徴候が、フラット・アーサーズに表れていると思うのです」

 

フラット・アーサーズは、社会に広がる科学不信が、私たちに見える形で顔を出した一つの現象なのでしょう。その背後には、より深刻で奥深い人間心理の闇があるのかもしれません。

 

数えきれないほどの人工衛星が地球を回る時代にあっても、「地球が平ら」という直感を信じている人たちの考え方を調べることは、たしかに人間心理を掘り下げる格好の切り口になるように思えました。

 

「トランプ現象」も同様に、人間心理の深層を探る窓になりえるのではないでしょうか。

 

こうした研究はまだ始まったばかりだそうですが、今後の研究で、「科学が苦手」な私たちの真相がさらに明らかにされるのかもしれません。

 

※本稿は、三井誠『ルポ 人は科学が苦手』(光文社新書)の内容の一部を再編集したものです。

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ルポ 人は科学が苦手

ルポ 人は科学が苦手アメリカ「科学不信」の現場から

三井誠(みついまこと)

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