聖書の世界が再現されるアメリカの「創造博物館」
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bw_manami

2019/06/05

 

新聞社の科学記者として、生命科学や環境問題、科学技術政策などの取材を担当してきた三井誠さん。2015年からは、科学の新たな地平を切り開いてきたアメリカで、特派員として科学取材をスタートさせます。米航空宇宙局(NASA)の宇宙開発など、科学技術の最先端に触れることはできたものの、そこで実感したのは、意外なほどに広がる「科学への不信」でした。では、アメリカの科学不信の現場とは、いったいどんな様子なのでしょうか。

 

創造博物館

 

アメリカ滞在中にどうしても行きたいと思っていた「博物館」が二つありました。

 

一つは、首都ワシントンにある、スミソニアン国立航空宇宙博物館です。こちらは、「インテリの言うことなんて聞きたくない――アメリカに広がる『科学不信』の底流」で触れましたが、ライト兄弟が人類で初めて飛行に成功したエンジン付きの飛行機が展示されているほか、アポロ計画の詳しい解説もあります。ワシントン郊外の別館では、引退したスペースシャトルを見ることができます。まさに、アメリカの航空と宇宙の開発史を本物を見ながら実感できる場所です。

 

そして、もう一つの「博物館」は、南部ケンタッキー州にある「創造博物館(creation museum)」です。博物館と名前は付いているものの、実際はちょっと違います。神が生物を創り出したとする「創造論」の世界を紹介するテーマパークのような施設なのです。

 

そこに行って、進化論を認めない人たちに実際に会って話を聞いてみたかったのです。

 

アメリカでは、進化論を否定する人がいっぱいいるということはよく聞いていました。

 

しかし、にわかに実感できなくて、自分の目と耳で確かめたかったのです。

 

この「博物館」は、キリスト教団体「アンサーズ・イン・ジェネシス」が2007年にオープンさせたもので、10年間で300万人以上が訪れたそうです。

 

「博物館」の入り口のドアを開けて中に入る時、未知の世界に出会えるような不思議と高揚した気分になりました。

 

そこで真っ先に目に飛び込んできたのは、絶滅したゾウの仲間マストドンの化石(複製)でした。(写真を参照)

 

創造博物館で真っ先に目に飛び込むマストドンの化石(複製)。迫力満点で自然史博物館ではおなじみの展示だが、その解説を読むと……(2017年7月、ケンタッキー州ピーターズバーグ)

 

迫力のある牙を持つマストドンは自然史博物館ではおなじみの展示で、ふと普通の博物館に来たような錯覚を覚えました。

 

しかし、その解説を読んで違いに驚きました。

 

そこにはこうありました。

 

「マストドンは現代のゾウに関連がある動物だ。すべてのゾウの仲間は、約6000年前に神が創造したオリジナルのゾウの子孫である」

 

通常の博物館では、マストドンは数千万年前から約1万年前までの間に生きていたとされています。つまり、約6000年前にはマストドンは絶滅していたはずで、解説を読みながら「違う世界」に来たことを実感しました。

 

「God Created(神が創造した)」(写真を参照)という直球ど真ん中の表現を見て、私は「ここに来て良かった」と思いました。

マストドンの解説では、「God created(神が創造した)」(写真の中央付近)との記載があった

 

先に進むと、初期人類(猿人)の化石(複製)がありました。

 

この化石は、「ルーシー」という愛称で呼ばれる有名な猿人化石です。約320万年前の化石とされます。

 

当時の人類化石のほとんどが歯や手足の一部など断片的なのに対し、ルーシーは全身の骨がまとまって見つかっています。ですから、猿人の姿を復元する時にはいつも活躍しています。

 

エチオピアで1974年に発掘され、大発見を祝う宴会のバックミュージックがビートルズの「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイヤモンズ」だったことから、ルーシーと命名されました。

 

現代科学を徹底的に否定する

 

さて、同じ化石をもとに作った復元像を、創造博物館とスミソニアン国立自然史博物館とで比べると違いが際立って面白いので写真を見ていただきたい。

 

 

創造博物館のルーシーの復元像(上)はまさにサルだが、スミソニアン国立自然史博物館の復元像(下)は二本足で立ち、私たちの祖先として紹介されていた

 

写真を見ていただければわかるように、スミソニアンでは二本足で立ち、ホモ・サピエンスへの進化の途上にある「人類」として復元されていました。一方、創造博物館では、見るからに「サル」という感じです。

 

恐竜も展示されていました。

 

通常の博物館と異なるのは、恐竜のわきに人間がいて、時代を共有していることです。(写真を参照)

 

創造博物館の展示では、人類(中央)と恐竜(左)が共存している。一人の少年が興味深そうに展示を眺めていた

 

子どもたちに人気のティラノサウルスも展示されていました。

 

その年代は「紀元前2348年」とありました。

 

現代科学の定説では、恐竜は約6600万年前の白亜紀末に絶滅したとされています。メキシコ・ユカタン半島沖に巨大な隕石が落ち、環境がひどく変わったことが原因のようです。

 

恐竜が絶滅した後、哺乳類が多様な進化を遂げ、700万~600万年前に人類が誕生したとされています。

 

つまり、恐竜と人類の年代は大きく異なるのです。

 

しかし、この施設の展示説明では、世界ができたのは約6000年前ということになっていました。それが、聖書に書かれたことだというのです。

 

現代科学が示す、恐竜が絶滅した年代や人類が誕生した年代は受け入れられず、恐竜と人類が共存する結果になっています。

 

すなわち、この「創造博物館」では、現代科学は徹底的に否定され、聖書の世界が再現されていたのです。

 

(つづく)

 

※本稿は、三井誠『ルポ 人は科学が苦手』(光文社新書)の内容の一部を再編集したものです。

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ルポ 人は科学が苦手

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三井誠(みついまこと)

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