ベジタリアンを超えたブレサリアン、それをも超えた「光合成人間」を目指す人々
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bw_manami

2019/06/04

私たちがふだん何気なく食べているごはん。そこには、壮大な物語が眠っている――。
気鋭の分子調理学者・石川伸一先生が、アウストラロピテクスの誕生からSFが現実化する未来までを見据え、人間と食の密接なかかわりあいを描きだす光文社新書『「食べること」の進化史』が刊行されました。発売を記念して本書の一部を特別に公開致します。

 

 

 

◆人類は植物に憧れている?

 

肉類を食べるのをやめ、野菜を中心とした食事をする人はベジタリアン、動物性のものをすべて避ける人はヴィーガン、果物しか食べない人はフルータリアン、スープやジュースなどの液体しかとらない人はリキッダリアンとよばれています。

 

水以外、一切の食事をやめることを実践している人もおり、ブレサリアン、すなわちブレス=呼吸だけで生きる人と名づけられています。

 

現代の栄養学の観点で考えれば、食べものの摂取量がゼロになると、身体は、通常グリコーゲン、体脂肪、そして筋肉の蓄えを燃やし、生きるためのエネルギー源とします。絶食によって、身体の基礎代謝が落ちて消費エネルギーは極端に減り、腸内細菌も栄養素を最大限活用するような細菌叢へと変化していきます。ブレサリアンという行為は、致命的な活動であり、その実践者には、飢餓と脱水症で死亡する人もいます。また、ブレサリアンの主張のひとつに、呼吸法や日光浴の重要性があります。

 

ブレサリアンのライフスタイルを支持する人からかいま見えるのは、“不食”という「食べないこと」への憧れと、陽の光を浴びて生きる「植物になりたい」という感情です。葉緑体による光合成の機能を獲得し、「光合成人間」になりたいという願望を暗に感じます。

 

SFの世界には、光合成人間がよく登場します。米国の作家マイクル・ビショップ氏の『樹海伝説』をはじめ、映画や漫画にも光合成する人間はよく描かれます。

 

◆光合成人間への道は遠いのか

 

現実の世界でも、光合成は必ずしも植物だけの特権ではありません。自然界には「光合成を利用する動物」も存在します。たとえば、葉っぱのように見えるエリシア・クロロティカというウミウシの一種は、藻を食べて葉緑体を吸収し、藻の遺伝子を利用して光合成を行います。藻類の光合成遺伝子がウミウシに水平伝播(親から子ではなく個体間で起こる遺伝子の取り込み)している可能性が示唆されています。

 

また、脊椎動物であるサンショウウオの一種にも、光合成をする生物が存在します。背中に黄色い斑点のあるキボシサンショウウオは、緑藻と共生関係にあることが1950年代からわかっていました。さらに2010年に、この緑藻は、サンショウウオの胚の細胞の中にまで侵入していることがわかりました。

 

細胞内に入った緑藻は、ミトコンドリアに接して存在することが多く、これは、緑藻が光合成によって作りだした酸素と炭水化物をミトコンドリアが即座に利用するためと考えられています。キボシサンショウウオは、自己認識のプロセス、すなわち免疫系が他の脊椎動物と異なるので、光合成できる藻を細胞内に収容することができるようです。

 

「光合成ウミウシ」や「光合成サンショウウオ」のように、ヒトの体の中に光合成システムを何らかの“技”で導入することができれば、太陽エネルギーを利用する“光を食べる人間”となるのでしょう。

 

光合成人間には、今の私たちの食風景は、どのように映るのでしょうか。

 

SF作家の橋元淳一郎氏は、光合成人間が誕生すれば、飲食産業はすべて消滅して、食文化の終焉を迎え、人間の価値観は激変するといっています。光合成人間からすれば、今の私たちの食生活は、人の脳みそを食べたり、心臓をくりぬくような行為に対して私たちが覚える感覚と似た野蛮さを感じるものかもしれません。

 

光合成人間の存在は、食のもつ残虐性や攻撃性といった側面を浮き彫りにするでしょう。不食に憧れる要因のひとつは、この残虐性の回避なのかもしれません。

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「食べること」の進化史

「食べること」の進化史培養肉・昆虫食・3Dフードプリンタ

石川伸一(いしかわしんいち)

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