過剰な糖質、インスリンと、がんの関係
ピックアップ

bw_manami

2019/06/11

 

◆がん細胞は糖質好き

 

現在、がんの死亡率は医療の進歩により減少傾向にあるが、罹患率はどんどん増えている。

 

よく、寿命が延びたからがんが増えたと言う人もいるが、75歳未満のがん患者もどんどん増えているのである。

 

がんのエサは糖質である。

 

ただ、がん細胞によっては、糖質がなくなると他のものをエネルギーにできるようになるがん細胞もあるようで、全てのがんを最終的に完全に殲滅(せんめつ)することは難しいかもしれないが、糖質をできる限り減らせれば、がん細胞はかなり弱ると考えられ、かなりの長期間がんと共存できる可能性がある。

 

場合によっては他の治療との併用で、がん細胞が消えることも期待できる。

 

しかし、なにより、がんを発症しないようにすることが最も大切である。

 

がん細胞は、ブドウ糖を使って、「嫌気的解糖」という非常に効率の悪いエネルギー生産を行っている。

 

それでいて、がん細胞はどんどん増殖するので、通常の細胞の何倍ものブドウ糖を必要とする。だから、糖質過剰摂取はがん細胞から見ると大歓迎なのである。

 

がんを早期発見するための検査でもあるPET検査というものがある。この検査は、がん細胞がブドウ糖を好んで大量に取り込むことを利用した検査である。がん細胞の糖質好きは医療では常識である。

 

高血糖や高インスリン血症、HDLコレステロール値の低下は、発がんリスクを増加させる。これらはすべて糖質過剰摂取で起きる。
(Jafri,H. et al. Baseline and on-treatment high-density lipoprotein cholesterol and the risk of cancer in randomized controlled trials of lipid-altering therapy. J Am Coll Cardiol. 2010,Jun 22;55(25):2846-54.)

 

症例報告ではあるものの、ケトン食によりがんの進行をコントロールすることが可能だといういくつもの報告がある。ケトン食は糖質制限食の糖質をさらに少なくし、極端に高脂肪食にした食事だと考えればよい。

 

ケトン食を食べると、体の中に大量のケトン体(脂肪が分解されてできる物質)が合成される。人間の正常細胞はケトン体を十分にエネルギーにできるが、がん細胞は通常ではケトン体を使えないのである。

 

◆高血糖による免疫機能の低下ががんを暴走させる

 

ご存じの方も多いと思うが、2018年のノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑(ほんじょたすく)・京都大学特別教授が発見した、免疫を担うT細胞の表面にある「PD‐1」というタンパク質がある。

 

このPD‐1と、がん細胞の表面にある「PD‐L1」がくっつくと、免疫にブレーキがかかり、免疫機能が抑制される。

 

この発見により開発されたニボルマブ(商品名:オプジーボ)は、このPD‐1の働きを阻害する免疫チェックポイント阻害薬と言われる薬の一種である。

 

PD‐1とくっつくPD‐L1は、がん細胞以外にも、体の多くの免疫を担う細胞表面にも存在している。正常な状態でもPD‐1やPD‐L1は存在しているが、細胞表面にPD‐L1がたくさん存在すれば、PD‐1とくっつきやすいと思われる。

 

つまり、がん細胞は多くのPD‐L1を発現するメカニズムを持っていると考えられる。

 

がん細胞の代謝の調節の中心的な役割の一つを担っていると考えられるのは、解糖系(ブドウ糖からピルビン酸となる過程でエネルギーを作り出す代謝)で最終的な反応に必要な、ピルビン酸キナーゼM2(PKM2)という酵素である。このPKM2は高血糖に曝されると活性が低下する。

 

一方、免疫のマクロファージという細胞にも、PD‐L1は存在している。マクロファージは細菌やウイルス、死んだ細胞などの異物を取り込む食作用を示すだけでなく、抗原提示という機能を持つ。抗原提示とは、取り込んだ異物を分解した一部を細胞の表面に提示し、それを免疫反応の司令塔であるT細胞などが認識して、免疫機能を活性化させる仕組みである。

 

T細胞のPD‐1とマクロファージのPD‐L1がくっついてしまうと、T細胞は活性化せずに免疫機能を示さない。そして、PKM2はPD‐L1発現量を調節している。PKM2の活性低下はPD‐L1発現を増加させるのである。

 

アテローム性動脈硬化症のプラークに存在するマクロファージも、このPD‐L1を多く発現しているので、アテローム性動脈硬化症にも免疫機能低下が関連している可能性が考えられる。

 

つまり、高血糖によりPKM2活性の低下が起こり、それによりマクロファージのPD‐L1の発現量が増加し、そのPD‐L1とT細胞のPD‐1がくっついてしまい免疫機能が妨げられるのである。

 

◆がんと帯状疱疹、糖尿病と帯状疱疹の共通点

 

帯状疱疹という病気がある。子どもの頃に感染した水痘(水ぼうそう)のウイルスがそのまま体の中に潜んでおり、大人になってから、体調や免疫力の低下により、皮膚に痛みを伴う皮疹を起こす病気だ。

 

その背景となる免疫機能の低下も、このPD‐L1の過剰な発現がT細胞の免疫機能を低下させることに関連していると考えられる。

 

T細胞の力でウイルスは休眠状態になっていたが、PD‐L1の発現増加に伴い、T細胞の力が低下してしまい、解き放たれてしまうのである。PD‐L1の過剰な発現は、糖質過剰摂取による高血糖により起こる。
(Watanabe,R. et al. Pyruvate controls the checkpoint inhibitor PD-L1 and suppresses T cell immunity. J Clin Invest. 2017,Jun 30;127(7):2725-2738.)

 

台湾の50歳以上の帯状疱疹の患者3万9743人と、帯状疱疹のない1万6229人を比較した研究では、帯状疱疹と診断された後、1年以内にがんに罹患するリスクは、58%増加した。帯状疱疹もがんも、背景にPD‐L1の発現増加に伴ったT細胞の免疫機能の低下がある。
(Chiu,HF. et al. Herpes zoster and subsequent risk of cancer: a population-based study. J Epidemiol. 2013,23(3):205-10.)

 

38万401人の糖尿病患者と152万1604人の対照群とを比較した研究では、糖尿病患者の帯状疱疹のリスクは3倍以上であった。
(Guignard,AP. et al. Risk of herpes zoster among diabetics: a matched cohort study in a US insurance claim database before introduction of vaccination, 1997-2006. Infection. 2014,Aug;42(4):729-35.)

 

結局、糖質過剰摂取が免疫機能を低下させているのである。

 

そう考えると、ケトン食ががんに効果がある可能性は十分に納得できる。ケトン食で徹底的に糖質を減らし、がん細胞などへの糖質供給量を可能な限り少なくすれば、PD‐L1の発現量が低下し、免疫機能が高まると考えられる。

 

高額で、ときに非常に強い副作用を示す免疫チェックポイント阻害薬を使うよりも、副作用が非常に少ないケトン食をまずは行うべきではないだろうか。

 

◆インスリンとがん

 

よく引き合いに出されるイヌイットという北極圏に住む先住民族は、以前、アザラシやクジラ、トナカイなどの高タンパク質高脂肪食を食べており、糖質はほとんど摂っていなかった。

 

その頃は非常にがんが少なかったが、食事が西欧化すると、がんの発症が急激に増加したのである。

 

食事の変化で起きたことは、3大栄養素の中の糖質の増加だけである。

 

もちろん、脂質の質が悪くなったり、その他ビタミンなどの摂取量が低下した可能性も否定はできない。

 

非糖尿病の人と比べた場合の、糖尿病と主ながんの相対的なリスクを調べた研究がある。
(糖尿病と癌に関する委員会、糖尿病と癌に関する委員会報告、『糖尿病』2013;56:374-90)

 

それによると、前立腺がん以外のがんでは、全て、糖尿病の方がリスクが高いのである。
(Sasazuki,S. et al. Diabetes mellitus and cancer risk: Pooled analysis of eight cohort studies in Japan. Cancer Sci. 2013,Nov;104(11):1499-507.)

 

インスリンとIGF‐1(インスリン様成長因子1)は、がん細胞の増殖を促進する。糖尿病でインスリンの注射をしている人にがん発生が多いのは当然である。インスリン使用でのがん関連の死亡率は約2倍にもなる。
(Bowker,SL. et al. Increased cancer-related mortality for patients with type 2 diabetes who use sulfonylureas or insulin. Diabetes Care. 2006,Feb;29(2):254-8.)

 

また、前立腺がんや乳がんなどのいくつかのがんでは、IGF‐1が増加していることがわかっている。
(Chan,JM. et al. Insulin-like growth factor-I (IGF-I) and IGF binding protein-3 as predictors of advanced-stage prostate cancer. J Natl Cancer Inst. 2002,Jul 17;94(14):1099-106.)
(Hankinson,SE. et al. Circulating concentrations of insulin-like growth factor-I and risk of breast cancer. Lancet. 1998,May 9;351(9113):1393-6.)
(Ma,J. et al. Prospective study of colorectal cancer risk in men and plasma levels of insulin-like growth factor (IGF)-I and IGF-binding protein-3. J Natl Cancer Inst. 1999,Apr 7;91(7):620-5.)

 

当然、肥満もがんと強く結びついている。

 

過体重や肥満は、少なくとも13種類のがんのリスク増加と関連している(13種類とは、髄膜腫、多発性骨髄腫、食道腺がん、甲状腺、閉経後の乳房、胆嚢、胃、肝臓、すい臓、腎臓、卵巣、子宮および大腸直腸である)。

 

がんによる死亡リスクは、男性の肝臓がんは、高度の肥満があると4・52倍にもなり、女性でも、腎臓がんで4・75倍、子宮がんで6・25倍である。
(Calle,EE. Overweight, Obesity, and Mortality from Cancer in a Prospectively Studied Cohort of U.S. Adults. N Engl J Med.2003,348:1625-1638.)

 

アメリカでの全てのがんの40%は、過体重および肥満関連のがんであり、男性で24%、女性で55%である。2014年に新規に発症した過体重および肥満関連がんのうち、子宮内膜がん、卵巣がん、および閉経後の女性乳がんが42%を占めているため、女性のパーセンテージが高い。
(https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/66/wr/mm6639e1.htm?s_cid=mm6639e1_e)

 

…………

 

以上、『「糖質過剰」症候群――あらゆる病に共通する原因』(清水泰行著、光文社新書刊)から抜粋・引用して構成しました。

関連記事

この記事の書籍

「糖質過剰」症候群

「糖質過剰」症候群あらゆる病に共通する原因

清水泰行(しみずやすゆき)

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を

この記事の書籍

「糖質過剰」症候群

「糖質過剰」症候群あらゆる病に共通する原因

清水泰行(しみずやすゆき)

RANKINGランキング