『旅は道づれ きりきり舞い』著者新刊エッセイ 諸田玲子
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2019/06/20

エネルギッシュな江戸庶民の暮らし

 

江戸の人気戯作者(げさくしや)・十返舎一九(じつぺんしやいつく)の娘の舞を主人公にした「きりきり舞い」も本作で第3シリーズ目になりました。破天荒な言動で知られる一九を初め、他人のことなどおかまいなし、父親譲りの酔狂ぶりを発揮する葛飾北斎の娘のお栄など、右を見ても左を見ても奇人ばかり。そんな中であたふたしてきた舞も一九の弟子の今井尚武という夫を得て、本作では人妻です。でもしっとりと落ち着いた暮らしができるかと思いきや、ますます磨きのかかった奇人たちにかこまれて、やっぱり毎日、きりきり舞いの連続。

 

そもそもこのシリーズを書き始めたきっかけは、一九という人物に興味を抱いていたからです。私は静岡の生まれですが一九も同郷人。武家の生まれながらその出生はいわくつきで幕府要人の落とし子とも。若き日は江戸から大坂、そしてまた江戸へと流転して、武士を捨てて日本初の作家になったと伝わる人生はまるでドラマを見るようです。大酒呑みで年中借金取りに追われ、滑稽な逸話にも事欠きません。そんな一九を真正面から取り上げるのではなく斜めから眺めながら、エネルギッシュな江戸庶民の暮らしを描きたいと思って書き始めたのが本シリーズです。舞の恋の行方に一九の生い立ちの謎がからむ第1シリーズは、田中麗奈さん主演で明治座で芝居になり、また第1・第2シリーズ共にNHKラジオの新日曜名作座で竹下景子さんと西田敏行さんの愉(たの)しい掛け合いによる連続ドラマになりました。

 

十返舎一九といえば、なんといっても弥次さん喜多さんの珍道中記『東海道中膝栗毛』です。本作では一家がうちそろって一九の郷里の駿府(すんぷ)まで旅をします。もちろん奇人の一行ですから道中も騒動つづき、舞はここでもきりきり舞いです。さらに駿府では過去の亡霊のごとき偽(にせ)一九も登場しててんやわんや……。笑って泣いて、読者の皆様も舞一行と共に、日頃の憂さを忘れてにぎやかに旅をしていただければと願っています。

 

『旅は道づれ きりきり舞い』
諸田玲子/著

 

戯作者、十返舎一九の娘、舞。葛飾北斎の娘、お栄ら奇人変人に囲まれて、いつも彼らの後始末ばかり。ひょんなことから、一家総出で江戸から駿府へ四十四里。これぞ本家本元『東海道中膝栗毛』。弥次さん喜多さんに成り代わり、涙と笑いの人生をたどる旅路。

 

PROFILE
もろた・れいこ
1954年静岡県生まれ。1996年『眩惑』でデビュー。2003年『其の一日』で吉川英治文学新人賞、’07年『奸婦にあらず』で新田次郎文学賞、’18年『今ひとたびの、和泉式部』で親鸞賞を受賞。

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