社会のインフラに影響を与える「変化する太陽」の発見
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2019/06/21

11年ぶりの大爆発

 

2017年9月、太陽を専門とする研究者は慌ただしい時を過ごしていました。8月末から太陽面上に現れていた小さな黒点が急激に大きくなり、頻繁に「フレア」と呼ばれる爆発を起こし始めたのです。

 

2017年9月に大フレアを起こした黒点の、9月2日(左)・5日(中)・8日(右)の姿。 2日と5日の間に急激に大きくなっていることが分かる。(国立天文台)

 

そして6日には、日本時間では夜になってから、実に11年ぶりの規模となる大きな爆発が発生しました。

 

NASAのSDOという衛星に搭載された紫外線望遠鏡でとらえられた、9月6日のフレア。明るく輝いている部分がフレアである。(NASA/GSFC/SDO)

 

マスコミでも「通常の1000倍の大型太陽フレアが発生」と報じられ、人工衛星や通信、送電などへの影響が生じる恐れがあるということで注意が喚起されました。

 

その後9日に至るまで、規模の大きいフレアが頻発し、警戒すべき状況が続きました。しかし、黒点は太陽の自転とともに動いていきます。この大黒点も、10日には太陽の向こう側へと消えていきました。

 

ところが、その後、日本時間の深夜に、6日のものに匹敵するほどの大フレアが再び発生します。

 

NASAのSDO衛星に搭載された紫外線望遠鏡で見た9月10日のフレア(左)とHα線という水素の出す光で見た、フレア後に冷えて落ちて来るプラズマの姿(右)。(NASA/GSFC/SDO、国立天文台)

 

黒点そのものは見えませんでしたが、そのはるか上空まで達した1000万度にもなる高温のプラズマ(高温のために原子から電子が分離した状態)が放つ光をとらえたのです。

 

このフレアはだんだん暗くなりつつも、十数時間の間輝き続け、翌11日の朝には輝いていたプラズマが冷えて落ちて来る姿がとらえられました。

 

太陽は、地球から見ると約27日で1回転するので、太陽の向こう側へ消えていった黒点は約2週間後に再びこちら側に現れます。

 

9月の下旬になって目にしたのは、巨大なフレアを起こすような黒点ではなく、9月初めと同じような、平凡で小さな黒点でした。

 

社会のインフラに影響を与える

 

このような黒点やフレアの様子は、日本の国立天文台の望遠鏡でも、さらに日本を含む各国の人工衛星の望遠鏡でもとらえられていました。

 

太陽は天文学の研究対象です。

 

したがって、望遠鏡でとらえられるのは何ら不思議なことではありませんが、では、なぜ、世間一般から最もかけ離れているように見られている天文学上の出来事がマスコミで大きく報じられたのでしょうか。

 

それは、太陽は私たち人類に恵みをもたらす存在ではありますが、ただ単にいつも同じように光っているというだけでなく、「太陽嵐」と表現されるような大きな爆発を起こした時には、文明社会に災害をもたらす面を持っているからです。

 

今は各国で、太陽の活動状況に「太陽嵐の発生」といったような異変があれば、それを分析して報じる「宇宙天気予報」の取り組みが進んでいて、日本では情報通信研究機構がそれを担っています。2017年9月のフレアでも、いち早く「通常の1000倍のフレア」という最初のプレスリリースを7日に出したのを始め、続報を次々と発表し、注意喚起をしています。

 

太陽フレアでは、フレアの強烈な輝きだけでなく、太陽から惑星間空間へ噴出するプラズマ塊が地球に飛んで来ることによって、文明社会に重大な影響が発生します。

 

9月7日にはすでに、6日のフレアで噴出したプラズマが8日には地球をかすめるという予測が発表されていました。

 

気象の天気予報とは異なり、このような宇宙天気予報を注視しているのは、特に電力や通信を中心とする社会インフラの関係者です。さらに現在では、災害という観点から保険会社もそこに加わっています。

 

幸い、この時は心配されたほど重大な影響は出ずに済みました。

 

しかし過去には、フレアがインフラ関係などで深刻な事態を引き起こすという例が現実にあったのです。

 

太陽物理学

 

宇宙の天気を予報するからには、まず、フレアそのもの、そしてフレアに至る過程の物理的なしくみを知ることが重要です。これを担うのが、天文学の一分野としての「太陽物理学」です。その研究は着々と進んでいて、フレアや、「コロナ質量放出」といった現象の物理過程の理解が大きく進歩しています。

 

日本の研究者も、観測・理論ともに顕著な貢献をしています。

 

このたび、『太陽は地球と人類にどう影響を与えているか』(光文社新書)を上梓した国立天文台の花岡庸一郎氏は、フレアを起こしている磁場構造の研究から、自ら観測装置を作って太陽磁場が示す様々な様相をとらえる研究を進めています。そして、フレアやコロナ質量放出に至る磁場の変化を直接とらえることに挑んでいます。

 

花岡氏によると、今回の黒点・大フレアは、私たちにはまだ知らないことが多いという事実を痛感させるものとなったと語っています。

 

その理由を次に述べましょう。

 

太陽の黒点は11年の周期で増減しています。そして2017年というのは、その前に黒点数がピークとなった2014年から3年も経っていて、黒点が大きく減っていた時期にあたっていました。黒点がまったく見えない日も珍しくないほどになっていたそうです。

 

フレアは、たいてい黒点の周辺で起こります。したがって、しばらくの間、フレアの活溌な活動は想定できない状況でした。しかも、フレアを起こした黒点は、8月以降、ずっと小さな黒点としてとらえられていたのです。つまり、大フレアの起きそうな気配は窺えなかったということです。

 

しかし、太陽はその表面下で、11年ぶりの巨大さとなったものも含む大フレアを連発するほどの磁場を蓄えていたのです。

 

太陽の磁場が地球に影響を与える

 

実は、最近40年ほどの間、黒点活動はだんだんと衰えています。ここで紹介した2017年の大フレアは11年ぶりという最近では珍しい大きさでしたが、これを超える規模のフレアは、2000年頃に黒点が増えた時期には7個も発生しています。

 

この、最近の太陽活動の変化は、地球の気候に影響するものなのでしょうか。

 

そして、今後、太陽活動は長期的に見ると、どのようになっていくのでしょうか。

 

地球の気候変動というものを考えるうえで、現在、こうした問いが大きな関心を持たれています。

 

地球上のエネルギーは、ほとんど太陽からもたらされています。

 

したがって、当然、太陽が変動すれば地球の環境に様々な影響を与えることになります。

 

そして、その変化は、太陽の磁場が引き起こすものです。

 

アメリカの天文学者ロバート・レイトンは、「もし磁場がなかったら、太陽は、多くの天文学者がそう考えているように退屈な星であっただろう」という有名な言葉を残しています。

 

太陽が退屈な星というのは、逆にいえば太陽は変わらない恵みをもたらす存在ということであって、地球上に暮らし、それを享受している私たち人類にとっては本質的に重要なことです。

 

一方で、太陽は磁場を持つ存在です。

 

それが今、太陽の変動を引き起こし、天文学者にとって退屈ではない星になっているのにとどまらず、人類の文明、地球の環境に大きな影響を及ぼしているという面が、いま、社会の中で注目され始めているのです。

 

前述の書籍では、一見、いつも同じように輝いている太陽が、実は変動するものであることを人類はどのように知っていったのか、また、その変動が地球と人類にどのように影響するものなのかを紹介しています。

 

※本稿は、花岡庸一郎『太陽は地球と人類にどう影響を与えているか』(光文社新書)の内容の一部を再編集したものです。

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太陽は地球と人類にどう影響を与えているか

太陽は地球と人類にどう影響を与えているか

花岡庸一郎(はなおかよういちろう)

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