スーパースターがまわりに及ぼす驚くべき効果とは?
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bw_manami

2019/06/25

世界的な理論物理学者でネットワーク理論の権威、アルバート=ラズロ・バラバシ。複雑な世界をハブやノードといった用語で解き明かしてきた彼は、「人の成功」という最も身近な現象について、ありとあらゆる分野の膨大なデータを10年以上の年月をかけて析し、とうとう成功者に共通するパターンを見出しました。それをわかりやすく、解説した新著『ザ・フォーミュラ 科学が解き明かした「成功の普遍的法則」』が全米ベストセラーとなっています。本コラムでは、『ザ・フォーミュラ』の中から一部を抜粋して、内容を紹介します。

 

 

タイガー・ウッズが真剣な目つきで遠くを見つめ、小さな白いボールとカップとのあいだの距離を測る。彼の長くシャープな影がグリーンに落ちる。ライバルが遠巻きにして、伝説を見逃すまいとする。みな、奇跡の瞬間を待っているのだ。ウッズの強さのひとつは抜群の安定感だ。プロ転向後の10年間に出場した279試合のうち、優勝回数は実に54回。93試合で3位以内に入り、132試合でトップテン入りした。すなわち、出場試合の半数以上で優秀な成績を残したことになる。彼のパフォーマンスには上限があるにもかかわらず、ウッズは高いハードルを設定し、ライバルはその基準に何とか追いつこうとする。ウッズの強さに触発され、誰もが努力する。

 

あなたはそう思うだろう。切磋琢磨は素晴らしいことだと教わる。もっと強くなれるし、鍛えられる。強いライバルと競い合うと誰でも成績が上がる、と。

 

だが、その競争相手がスーパースターの場合はどうだろうか。その輝きは周囲の選手によい影響を与えるのだろうか。

 

あなたを萎縮させる「タイガーウッズ効果」

 

そうとは言えない。スーパースターとの戦いが逆効果を生み、周囲の選手のパフォーマンスを下げてしまうことがわかっている。経済学者のジェニファー・ブラウンは、スーパースターが周囲に及ぼす影響について調査を行なった。そして、PGAの10年間の試合データを分析して、スーパースターがほかの選手を威圧する劇的なパターンを突き止めた。たとえば、ウッズと同じ試合に出場している時のヴィジェイ・シン[訳注 2004年に世界ランキング1位に輝いたこともある、フィジー出身の選手]の成績はどうか。ウッズが欠場している時の成績はどうか。

 

すると、ウッズとはとても張り合えないランキング下位の選手の場合、ウッズがいようがいまいが、成績にほとんど変化はなかった。ところが、ゴルフのベル型曲線の上限付近に位置して、優勝争いを演じるようなライバルに対しては、ウッズは強い精神的プレッシャーを与えていた。ウッズが発するスーパースターの威光は、ほかのどんな要素よりもトップランクのライバルを威圧して、彼らのパフォーマンスにネガティブな影響を与えていたのである。

 

ブラウンが集めたデータを詳しく見てみよう。決勝ラウンドに進むために、選手はまず予選を通過しなければならない。ランキング上位の選手の予選のスコアは、ウッズが欠場している時よりも出場している時のほうが、平均して0.6打多かった(つまり成績が悪い)。上位の選手のあいだで、予選ラウンドのスコアがさほど大きく変わらないことを考えれば、これだけでも驚くような発見である。

 

だが、その影響は大きな試合ではさらに顕著に現れていた。ライバルたちの最終スコアが、0.7~1.3打増えていたのだ。首位と2位とは、たいてい2打差以内で決まる場合が多いことを考えれば、最終スコアに表れたその影響は、基本的に優勝できるかできないかを分ける。その著しい影響には、「タイガー・ウッズ効果」という名前さえついている。スーパースターを前にすると、周囲の人間は実力を存分に発揮できなくなってしまうのだ。

 

あなたも例外ではないはずだ。タイガー・ウッズ効果は、ビジネスやアカデミックな世界、政治やアートなどの幅広い世界にもあると考えて間違いない。もちろん、健全な競争は素晴らしい。みなのパフォーマンスを底上げしてくれる。だが、戦う相手がスーパースターとなると話は別だ。あなたには、英雄かメンターの前で失敗して、タイヤがパンクするように自信が萎んでしまった経験はないだろうか。

 

優秀な人には知恵でも能力でも勝てないと思い込み、相手の意見に合わせてしまったことは?

 

あるいはスーパースターを崇めるあまり、つい自分の能力を客観的に判断できなくなってしまうことは?

 

まばゆい存在を前にした時、精神的プレッシャーは強く働く。そしてそれは、すでに成功をほしいままにする相手に有利に働くが、当のあなたはおそらくそのことに気づいてもいない。ウッズに強い精神的プレッシャーをかけられて、本来の実力を発揮できなかったと知ったら、ヴィジェイ・シンはさぞかし震え上がったに違いない。

 

ただし戦う者には勝ち目もある

 

 

もうひとつ忘れてはならないのは、どんなスーパースターにもパフォーマンスの上限があることだ。彼らが並外れて優秀であることは間違いない。だが、「成功の第二の法則」によれば、彼らのパフォーマンスもライバルと比べてほんの少し優れているだけに過ぎない。そうであれば、こちらにもスーパースターとうまく張り合える可能性がある。スーパースターがこちらを脅威とみなさないように、こちらも彼らを脅威とみなさなければいいのだ。タイガー・ウッズがライバルを、2歳当時の自分自身のように小さくて無害な存在とみなしているように思えたとしても、そのライバルは実際、スーパースターのすぐ後ろに、わずかスイングひとつの差でつけているのだ。

 

これは誰にとっても朗報だ。パフォーマンスには上限があると知っていれば、自分にもスーパースターを打ち負かせると言い聞かせられる。彼らの前に出ると本来のパフォーマンスが発揮できないという、目に見えないプレッシャーの威力を弱めたいのなら、スーパースターについてよく知り、彼らも自分と同じように失敗すると肝に銘じておけばいい。威圧感を覚えた瞬間にも、その英雄を自分と同じレベルに引き降ろせるのだ。

 

ブラウンの調査で最も興味をそそられるのは、タイガー・ウッズが“絶好調”の時と“絶不調”の時とで、ゴルフ界全体のスコアに大きな差が見られたことだ。ウッズが絶好調の時には、スーパースター効果はとりわけ大きな影響を発揮し、ランキング上位の選手のスコアが2打ほど増えていた。だが絶不調の時には、彼のパフォーマンスがほかの選手の自信を高めていた。スランプの時には、ウッズのいつもの威圧感は消えていた。ウッズが最後に勝つという神話はもはや崩れてしまったのだ。

 

敗北をもたらすのは、スーパースターではなく絶望や諦めである。自分が応援する候補者に勝ち目がないと見ると、人は投票所へ足を運ばなくなる。本命候補がいると思うと、その仕事に応募しなくなる。ほかの出席者のほうがその問題に精通していると勝手に決めつけて、つい押し黙ってしまう。だが、相手と自分は対等な立場で戦うのだと考えて勝負に臨めば、勝ち目はずっと高まる。

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ザ・フォーミュラ――科学が解き明かした「成功の普遍的法則」

ザ・フォーミュラ――科学が解き明かした「成功の普遍的法則」

アルバート=ラズロ・バラバシ(Albert-László Barabási)

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