始まりは19歳浪人生のSNS……現役女医が振り返る東京医大入試不正事件
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bw_manami

2019/07/05

2018年7月――東京医大の入試不正事件をきっかけに明るみに出た、女性の医学部受験者への減点操作。フリーランス麻酔科医として政治家・プロスポーツ選手・AV女優など様々な患者の手術を行い、ドラマ『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)
など医療ドラマの制作協力にも携わる著者が、今まで誰も公言できなかった女医問題の真実を語る光文社新書『女医問題ぶった斬り!~女性減点入試の真犯人~』が刊行!これを記念して、本書の一部を公開します。東京医大事件は何を世に問うたのか? 第1回です。

 

 

◆ツイッターで合格宣言

 

2018年7月、文部科学省の前局長である佐野太(ふとし)氏が、私立大学支援事業の対象校選定に便宜を図った見返りに、東京医科大学の入試で息子を不正に合格させてもらっていたとして、受託収賄容疑で逮捕された。

 

学長や理事長も絡む大規模な不正だったようで、新聞テレビともにトップニュースとして扱った。高級官僚の贈収賄が、現金・株・土地などで行われる事件は昭和時代から存在していたが、「医大入試で加点」というのは目新しい。

 

この事件、さらに目新しいのは、インターネット上に佐野元局長の息子とおぼしきツイッターアカウントが存在し、事件に関するツイートが複数存在したことである。

 

ツイッターによると、2017年5月に「浪人して良かったー!!!!!!」という歓喜の書き込み(パパに裏口合格を教えてもらった日?)があり、2017年12月28日には大学入試センター試験の16日前にもかかわらず「セブ島で年を越す」という浪人生とは思えない海外バカンスの報告がある。

 

さらに、医大受験が終わった直後の2018年3月3日には「受験おわったー!!!!(中略)たぶん東京医科大行きます」と、すでに合格宣言をしている。

 

事件発覚後、元のアカウントは閲覧不可能になったが、スクリーンショットなどに残された情報はSNSで拡散され炎上した。

 

2015年の電通新人女性社員過労自殺事件では、会社側が「私生活における恋愛関係のもつれによる自殺」として処理しようとしたのを、女子社員がSNSに残した長時間労働やパワハラ・セクハラに苦しむツイートが発見されて、世論を動かしたが、この事件もSNSが世論を動かした事件とも言える。

 

◆ニュースがもたらした驚き

 

そもそも、東京医科大学とは東京都新宿区にある私立医大の一つであるが、一般人に広く知られている有名校とは言い難い。

 

本件に関しても、案の定、TBSやニューズウィーク誌など複数のメディアが東京医科歯科大学の写真を誤使用してしまい、東京医科歯科大学が公式ホームページで異例の抗議文を掲載した。

 

東京医大卒業生としては、先にも紹介した、日本人初の国際機関トップとなった元世界保健機関事務局長の中嶋宏氏や、人気テレビドラマシリーズ『医龍』の原案を担当した内科医兼医療ジャーナリストの永井明氏、精神科医の香山リカ氏などが挙げられる。

 

新宿駅から徒歩圏内の都心部に立地しており、その雰囲気は永井明氏の自伝的小説『新宿医科大学』に詳しい。

 

このニュースに、私を含む50代医師の多くは驚いた。

 

1980年代の受験常識では、東京医大を含む中堅私立医大の入試偏差値は50~55程度、学力的には東大京大はおろか早慶にも及ばないイメージだった。

 

「開業医の跡継ぎ向けの特殊な学校」「面接試験では寄付金の交渉をする」「加点1点ごとに100万円」などと、当時の週刊誌ではまことしやかに報道されていた。

 

医師国家試験の合格率も高くはなかったので、新宿区には同校や同様の私立医大を対象にした、医大生や医師国家試験浪人生向けの予備校が存在し、年数百万円という学費にもかかわらず繁盛していた。

 

つまり、当時の常識では「一般家庭では高額学費(+寄付金+国家試験予備校学費)を捻出できないし、卒業しても国家試験合格率は低いし、それを突破して医者になっても勤務医じゃ学費の元を取れない」とされていたので、同校に入学希望者が殺到することはなかったのである。

 

しかし、NHKの報道によると、2018年の東京医大の一般受験枠は75名、受験者約2600名、一次合格者451名、最終合格者171名、進学者85名だそうである。

 

そして、佐野ジュニアは「一次試験が合格ラインに達していなかったので、学長・理事長の指示で大幅加点」したそうである。

 

◆変わる私立医大入試の裏事情

 

ここからは私の推測だが、2018年頃の私立医大入試では、コネによる加点と言っても「小論文・面接」でごまかせる範囲のレベルが主流で、一次の学力試験は基本的には自力突破が要求された(らしい)。

 

1980~1990年代、私立医大では寄付金と引き換えに学力イマイチ学生を入学させたが、「学力不足で留年や国家試験浪人を繰り返した挙句、30代無職」のような悲惨な事例が相次いだ。

 

医師国家試験はマークシート方式の純粋な学力試験でカネ・コネの効かない世界なので、本人の基礎学力や意欲が乏しい場合には結局のところ突破できないのである。

 

そして、医師免許取得を諦めてキャリアチェンジを検討する年頃になると、新卒や若さが重視される日本社会では、人生の選択肢が限りなく少なくなっている。

 

こうした元ベテラン医大生たちは高い確率でメンタルを病み、中には性犯罪で逮捕されるなど、保護者も医大側も事後処理に苦慮させられたので、近年の医学部人気もあって学力試験の大幅加点は下火になった(らしい)。

 

佐野パパは、文科省の中でも旧科学技術庁の出身であり、このような私立医大入試の裏常識(?)に疎く、よくある一般私立大のAO入試のように解釈してしまったのではないか。

 

また、医大理事長側も「有名高校の学生だし、面接でチョロッと加点すれば大丈夫だろう」と忖度して、合格を安請け合いしてしまったのではないだろうか。

 

そして、佐野パパはAO入試やら就活内定の感覚で息子に医大合格の内定を告げてしまい、息子もそれをSNSで全世界に発信してしまった。

 

親子で医大入試をナメて、直前に海外リゾートでバカンスを楽しむなどした挙句、勉強に身が入らなくなって一次試験の自力合格も果たせなかった。

 

その結果、医大理事長は「一次試験の大幅加点」という悪目立ちする行為に手を出さざるを得なかった。

 

また、SNSでの息子のはしゃぎっぷりから推測するに、現実社会でも周囲に「オレのオヤジは文科省局長だから、コネで医大入学決まったぜ!」のような自慢話を繰り返していたのではないだろうか。

 

やがて周囲の受験生から疑問視されるようになり、しかるべき筋へ告発する者が出現したのではないだろうか。あくまでも私の想像だが。

 

医学部人気は知っていたが、「文科省高官がイリーガルな手段を使ってまで、息子を私立医大に入学させたがる時代なのか」と、私は驚かされた。

 

そして、「文科省高等教育局」やら「国立大学副学長」を経験して、日本の高等教育を知り尽くした人材が、不正手段を講じてまで息子に与えたかった学歴が、慶応義塾大学や早稲田大学のような既存名門校ではなく、中堅私立医大というライセンススクールという事実に、現代日本の大学教育や科学研究の行き詰まりをヒシヒシと思い知らされたのだった。

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