【刊行記念対談】『みどり町の怪人』彩坂美月と『掃除屋 プロレス始末伝』黒木あるじが読みどころを語り尽くす〈第1回〉
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山形在住でデビューもほぼ同時期。
以前から交流のあるおふたりの新刊が立て続けに刊行されます。
青春ミステリーを多く書いてきた彩坂さんが、都市伝説をモチーフにしたミステリーを発表し、怪談実話作家として多くの著作を刊行している黒木さんが、本格プロレス活劇に挑むという、それぞれ、今までの作風とは一線を画した野心作となりました。
お互いの作品の感想と読みどころを存分に語ってもらいました。
平日毎日更新、全4回でお届けします!

 

「ホラーっぽい表情をしてくださいというリクエストをして、撮影しました」

 

──おふたりは、いつごろからお知り合いなんですか?

 

黒木 最初いつでしたっけ。

 

彩坂 私も考えていたんですけど、正確に思い出せなくて。
山形在住のホラー好きの作家というところからご縁ができたと思うんですけど。
山形新聞主催の懇親会かなにかでお会いしたのが最初ですよね。

 

黒木 山形出身の作家さん、深町秋生さん、柚月裕子さん、高橋義夫さんたち何名かでお会いする機会があって、そこで面識ができて、お話しをするうちに、「あれ? なんだかヘンだぞ、この人」と(笑)。

 

彩坂 なんてこと言うんですか(笑)。

 

──彩坂さんは山形ご出身なんですよね。

 

彩坂 はい。大学から東京に行って、就職も向こうで、デビューしたときもそうでした。
専業作家になったのをきっかけにこちらに戻ってきました。
黒木さんにお会いしたのはこちらに戻ってきてすぐくらいだったと思います。
ただ、私、お目にかかる前から一方的に存じ上げていて。

 

黒木 ええっ!?

 

彩坂 戸田書店という本屋さんに「怪談店長」と呼ばれている方がいて。
すごく怪談が好きな店長さんで、品揃えも民俗学から「怖い話」系の書籍まで幅広く取りそろえている書店なんです。
「ダ・ヴィンチ」でも紹介されたことのある名物店長で、その方が黒木さんをすごく推してるんです。
デビューされてすぐくらいから黒木さんのコーナーがあったのを帰省したときに見ていたので。

 

黒木 僕がデビューして半年経ったころには、すでに黒木コーナーがありましたね。

 

彩坂 お着物を着た黒木さんの等身大パネルが正面入り口にあったのをおぼえています(笑)。

 

──黒木さんは山形出身ではないんですね。

 

黒木 僕は青森の弘前市出身です。
東北芸術工科大学という山形の大学に受かって、こっちに来ました。
在学中に自主制作の映画にカブれて、民俗学も好きだったもので、卒業してからはそういうものを撮影できる仕事をさがして、フラフラ山形に居着いてしまったという。
気づけば、人生の半分以上を山形で過ごしていますね。

 

──黒木さんが「ホラー好き」なのは、デビューの経緯や怪談作家としての実績から違和感がないんですけど、彩坂さんは、作品からはあんまり窺えませんよね。ミステリーと青春小説の印象が強くて。

 

彩坂 わりとキラキラしたものを書いていますからね(笑)。
でも、ミステリーと同じくらいホラーが好きで、子どもの頃から読んでいたんです。
たまたまデビューがミステリーだっただけで。
機会があればホラーも書かせていただきたいとは、日頃から思っています。

 

 

──黒木さんが映画好きから怪談作家になっていった経緯は、どういうものだったんですか?

 

黒木 僕はもともとラブ・ロマンスとかヒューマンドラマとか呼ばれるジャンルには、あまり食指が動かないんです。
けがれなき愛だの前向きな人生だのが主成分のものは受け付けないといいますか。
それというのも、小さいころに小児ぜんそくを患っていて、運動ができなかったんですよ。
外に出るのもままならなくて。
そうすると昭和50年代の子どもにとっては本しか娯楽がないんですよね。
でも、運動もできない自分にとっては、ベーブ・ルースの伝記なんて糞食らえなわけですよ。
そこで「これがいい!」と親にねだって買ってもらったのが、ケイブンシャの「世界の怪獣大百科」だったり、水木しげる先生の「妖怪なんでも入門」だったんです。
世の中のエグみがあるところばかりを好んで食べていた結果、そういうものしか口にできなくなったような気がします。
そんなわけで、本は山ほど読んでいたんですけど、自分で書くとはまったく考えていませんでした。
それこそ、デビューする直前まで。

 

ただ、僕はデビュー前に山形の映像制作会社に就職していたんです。
小さな会社なので、全部自分でやらなくてはいけない。
それこそ、企画書からシナリオからコピーライティング、コマーシャルのナレーション原稿まで、映像に変換される文章のすべてを書いていました。
そうやって仕事をこなしていくなかで、いつのまにか、文章を書く力が身についていったんだと思っています。

 

あと、実は大学時代から、山形県下の過疎の村の子ども芝居の脚本を八年くらい書いていたんです。
その村のお祭りに行く機会があったんですが、演し物が全部大人主導で、子どもたちはみんな死んだ目をして、お仕着せのつまらない演目をやらされていました。
しかも、その村の子は、よそに出たときに出身地を訊かれると、嘘をつくらしいんです。
「村生まれじゃ恥ずかしい」とか言って。
それを聞いて、「そんな哀しいことがあるかよ」って頭にきちゃって、村の人たちと大喧嘩になったんです。
で、「だったらお前がなんかやれ」って。
こっちも二十歳かそこらの若造ですから、「やってやらぁ」と。
その村には烏兎沼宏之(うとぬまひろし)さんという民俗学者が発掘した民話が大量に残っていたんで、それを現代版にアレンジして、子どもたちの身の上に落として、お芝居に仕立てていました。
もしかしたらあれも、知らず知らずのうちに活きていたのかなあ、と思います。

 

ただまあ、デビューは偶然の産物みたいなものでしたから。
残業中にネットを眺めていたところ、怪談専門誌『幽』が怪談実話の文学賞を始める、という記事を見つけたんです。
「これは面白い」と半ば喧嘩を売るように書いて送ったら、その喧嘩を買ってくれた審査員がいたという話なので。
特別賞をもらったんですが、その時点でも、作家なんて頭の片隅にもなかった。
ちゃんと書いていこうと思ったのは、僕の喧嘩を買ってくれた平山夢明さんが、「お前にやる気があるなら、一冊、俺の責任で出す」と言ってくれた、あの瞬間からでしょうね。

 

──おふたりが山形に住み続けているのには、なにか理由がありますか?

 

彩坂 私の場合、特に山形にこだわっているわけではないんです。
どこに住んでいても、きっと同じように小説を書いていると思います。
でも、山形という土地には物語を作る土壌みたいなものがある気がします。
とにかく、作家がやたらと多いんですよ(笑)。

 

黒木 僕自身は、怪談にしても土着的な題材にしても、書きたいもののタネが山のようにある場所なんです。
手つかずの鉱脈がある山を一個、独占しているようなものなので、とりあえずここにいようかな、と。
この山は、僕が持っているツルハシじゃないと掘れないような気もしますし。
あとね、とにかくコメが旨い(笑)。
おにぎりが本当に美味しいんです。

 

彩坂 私も、山形を意識しているわけではないと言いつつ、自分の作品を振り返ってみると、「都会の小説ではないなあ」と思うんですよね。
地方の空気感がどの作品にも、意識していなくても滲むな、という自覚があります。
『みどり町の怪人』も地方の田舎町が舞台ですし。

 

〈第2回につづく〉

 

〈イベント情報〉彩坂美月さんと黒木あるじさんのトークイベントが開催されます!

『みどり町の怪人』『掃除屋』の刊行を記念してトークイベント&サイン会が開催されます。
この対談を読んでご興味をもたれた方、ぜひ足を運んでみて下さい!

日時 2019年7月20日(土)15時開始
戸田書店山形店にて 入場無料・予約不要
詳細はこちら

 

 

【発売中】『みどり町の怪人』光文社
彩坂美月/著

 

埼玉県のローカルな田舎町・みどり町。この町には怪人が出ると噂されている。未解決の殺人事件も、深夜、墓地に出没するのも、自分を追いかけてくるあやしい陰も、みんな、怪人なのかもしれない……。都市伝説×コージーミステリーの野心作。

 

彩坂美月

 

山形県生まれ。早稲田大学第二文学部卒。2007年、『未成年儀式』で第7回富士見ヤングミステリー大賞準入選。2009年、同作が単行本として刊行され、デビュー。近著は『僕らの世界が終わる頃』『金木犀と彼女の時間』。

 

『掃除屋(クリーナー) プロレス始末伝』集英社文庫
黒木あるじ/著
2019年7月19日(金)発売

 

ピューマ藤戸は50歳のロートルレスラー。あちこちの団体の興業に参加するが、前座やコミックマッチが主の、地味な存在だ。しかし、彼には、「掃除屋(クリーナー)」という裏の顔があった……。プロレスとプロレスラーへの愛に溢れた、傑作人情活劇!

 

黒木あるじ

 

1976年、青森県生まれ。東北芸術工科大学卒。2009年、「おまもり」で第7回ビーケーワン怪談大賞佳作入選。「ささやき」で第1回『幽』怪談実話コンテストブンまわし賞を受賞。2010年、『怪談実話 震(ふるえ)』が竹書房文庫より刊行され、デビュー。近著は『怪談実話 終(しまい)』『黒木魔記録』。

 

2019年6月25日 文翔館(山形県郷土館)にて撮影、山形貸し会議室にて収録
撮影=藤山武

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