【刊行記念対談】『みどり町の怪人』彩坂美月と『掃除屋 プロレス始末伝』黒木あるじが読みどころを語り尽くす〈第3回〉
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gimahiromi

2019/07/12

山形在住でデビューもほぼ同時期。
以前から交流のあるおふたりの新刊が立て続けに刊行されます。
青春ミステリーを多く書いてきた彩坂さんが、都市伝説をモチーフにしたミステリーを発表し、怪談実話作家として多くの著作を刊行している黒木さんが、本格プロレス活劇に挑むという、それぞれ、今までの作風とは一線を画した野心作となりました。
お互いの作品の感想と読みどころを存分に語ってもらいました。
平日毎日更新、全4回でお届けします!

 

(第2回はこちら

「ホラーっぽい表情をしてくださいというリクエストをして、撮影しました」

 

──「みどり町の怪人」の都市伝説は、どう読まれましたか?

 

黒木 この本、ある意味で日本初だと気づいたんですよ。
昭和、平成、令和の三時代をまたいで都市伝説を交差させた作品は、タイミング的にこれが最初ですよね。
それを象徴するように、「みどり町の怪人」って、口裂け女、赤マント、カシマさんとか、昭和平成それぞれの時代で、どの世代も触れたことのある都市伝説の要素をすごく巧みに織り交ぜているんですよ。
そうすることによって、どこにでもある「みどり町」という町の都市伝説が、より際立つ「怪談」ではなく「都市伝説」としてまとめたのも、すごいと思います。
あと、これは彩坂さんに直接お聞きしたかったんですけど、作品内の主要な舞台設定が25年前になっているのには、どんな理由があったんですか?

 

彩坂 やっぱり、今と違って、ネットが普及していない時代という理由が大きいですね。
そのほうが、閉塞的な地方都市の空間に「あやしい存在がいるかもしれない」っていう生々しい空気感が出せるかなって。
今だとパァッとデジタルに拡散されてしまうけど。
昔って「心霊写真特集」的な本やムックがたくさんあったじゃないですか。

 

黒木 もちろん、山ほど読みました。

 

彩坂 減ったなあ、って。
写真の加工が簡単にできてしまうというイメージが普及しているので。
今、怪談を語るのって、すごく難しいんじゃないかな、と思います。

 

黒木 とりわけ心霊写真は難しい時代になりましたね。
写真が加工しやすいということは、それだけでは怪談として認知されない。
他の超常的な要素がないと認められなくなってしまった。
かといって、「LINE怪談」なんて言われても、それはそれでまだちょっと難しい。
知らない人物から女子高生のアドレスにメッセージがあった……
なんて話は、みんな犯罪がらみの事象としか思わないですからね。
個人的には、どこかノスタルジックさを有するテクノロジー……
例えばスマホよりは電話ボックス、電子書籍よりは紙の本のほうが、怪談の萌芽となりやすいように思います。
そう考えると、『みどり町の怪人』の1990年代というのは絶妙なんですよ。

 

文化人類学者のジャン・ハロルド・ブルンヴァンが提唱したアーバンフォークロアという単語、これを訳したのが都市伝説という言葉なんですけれど、その言葉が生きていた、そして死んでいった最後の10年なのではないかと思います。
ネットもまだ黎明期で、情報の伝播がもう少し緩やかで、真偽を確かめるにも一手間二手間かかる。
それを前提にして、得た情報を鵜呑みにもしないけれど全否定もしない……
そんな、あわいのところで楽しめた時代でもあり、楽しめなくなって排除された時代でもあるんですね。
’95年にオウム真理教事件がありましたから。
あやふやでいい加減な情報に遊び半分、面白半分で触れるべきではない、という空気になってしまった。
都市伝説が活き活きとしていた’90年代を舞台にこういう物語が書かれるということは、象徴的だなあと思います。
しかも、令和になった年に刊行されるという意味でも、印象的な一冊ですね。

 

──ミステリーとしての彩坂さんの企みはどのあたりにあったのでしょうか。

 

彩坂 もともと、一つの町を舞台にして、そこで囁かれている不穏な噂を軸にしたミステリーにしようという考えが最初にあったんです。
一話ごとに語り手が変わって、話が進むごとに怪人という謎の存在がいろんな角度から明らかになっていく過程を、ミステリーとして楽しんでいただければ、と思っています。

 

 

──ホラー要素との兼ね合いはどう考えていましたか?

 

彩坂 その辺のさじ加減は、手探りでしたね。
完全に「あれはなんだったのか?」を明かさないままだとミステリーとして成立しないし、合理的にすべてを解決してしまって白日のもとにさらしてしまうと、都市伝説の不穏さという作品の持ち味が消えてしまうので、書きながら何度も調整して、このかたちにまとまったという感じです。

 

黒木 怪談実話で、いろいろ怪異があったことを語った後に、「ここには昔墓場があったんだそうです」というようなオチがつくのは、やや合理的すぎて白けるケースも多いんですが、小説の場合は、謎の解明に合理性を伴ったからといって、それで怖さを損ねるということはないと思います。
人間の不確かさであったりだとか、垣間見える狂気だったりとか、そういったものにも怖さはあるわけで。
そういえば僕、この作品の第一話の語り手、奈緒がすっごく怖かったんですよ。
最後まで読んで展開がわかっても。

 

彩坂 え、なんでですか!?

 

黒木 未読の方のために詳しくは言いませんが、彼女の行動力に、そこはかとない狂気を感じると言いますか。
アクティブさもピュアさも、うっすらとした狂気をおぼえてしまう……って、なんだか僕自身にそういう経験がありそうな言い方をしてしまいましたが(笑)。
ところが第二話以降、奈緒をはじめとする前話までのメインキャラクターがサブ的に登場すると、大分印象が変わっているんですね。
自身の体験した事件をふまえて、少しずつ変化したり成長したりしている。
そこが非常にうまい。
僕はお化けの成仏は書いても、人間の成長を書く機会があまりなかったもので(笑)、読んでいて楽しかったですね。

 

彩坂 雑誌掲載時は短編として一編ごとで楽しめるようにと考えていたんですけど、単行本にまとめるにあたって、事件の本筋とは関係ないところでも、登場人物の行動が全体をとおしてわかったり、小さな謎が解かれたりするので、そういうところも見つけてもらえたら嬉しいです。

 

この話って、「みどり町の怪人」という噂を、登場人物それぞれが自分を反映させて受け止めていて、結局自分の心の中を見ているという側面があるんですけど。
私、この作品、四話目を書いているあたりで、書くのが楽しくなってきたんです。

 

──遅くないですか(笑)?

 

彩坂 最初の三話はほんとに手探り状態で。
その頃に、担当さんから、「この話は未解決の殺人事件の話じゃないんです。
この話は、『みどり町の怪人』の話なんです」と言われて、自分の中で腑に落ちたというか。
それから、第四話以降は、はっきりと作品の指針が見えました。

 

黒木 『みどり町の怪人』はホラー好きならわかる細かいくすぐりがたくさん仕込まれているんで、それも探して楽しんでもらいたいですね。

 

彩坂 読者サービスでもなんでもなくて、単なる自己満足なんですけど(笑)。

 

黒木 いやでも、僕、そういうの好きですよ。
「細部に宿る神」を見つけた感じがして。

 

──この作品を通じて、彩坂さんは、ますますホラーが書きたくなったのか、
それともやっぱりミステリーのほうがいいと思ったのか。

 

彩坂 それは、やっぱりホラー書きたいですよ(笑)!
もちろん、どっちも書いていきたいです。

 

〈第4回につづく〉

 

〈イベント情報〉彩坂美月さんと黒木あるじさんのトークイベントが開催されます!

『みどり町の怪人』『掃除屋』の刊行を記念してトークイベント&サイン会が開催されます。
この対談を読んでご興味をもたれた方、ぜひ足を運んでみて下さい!

日時 2019年7月20日(土)15時開始
戸田書店山形店にて 入場無料・予約不要
詳細はこちら

 

 

【発売中】『みどり町の怪人』光文社
彩坂美月/著

 

埼玉県のローカルな田舎町・みどり町。この町には怪人が出ると噂されている。未解決の殺人事件も、深夜、墓地に出没するのも、自分を追いかけてくるあやしい陰も、みんな、怪人なのかもしれない……。都市伝説×コージーミステリーの野心作。

 

彩坂美月

 

山形県生まれ。早稲田大学第二文学部卒。2007年、『未成年儀式』で第7回富士見ヤングミステリー大賞準入選。2009年、同作が単行本として刊行され、デビュー。近著は『僕らの世界が終わる頃』『金木犀と彼女の時間』。

 

『掃除屋(クリーナー) プロレス始末伝』集英社文庫
黒木あるじ/著
2019年7月19日(金)発売

 

ピューマ藤戸は50歳のロートルレスラー。あちこちの団体の興業に参加するが、前座やコミックマッチが主の、地味な存在だ。しかし、彼には、「掃除屋(クリーナー)」という裏の顔があった……。プロレスとプロレスラーへの愛に溢れた、傑作人情活劇!

 

黒木あるじ

 

1976年、青森県生まれ。東北芸術工科大学卒。2009年、「おまもり」で第7回ビーケーワン怪談大賞佳作入選。「ささやき」で第1回『幽』怪談実話コンテストブンまわし賞を受賞。2010年、『怪談実話 震(ふるえ)』が竹書房文庫より刊行され、デビュー。近著は『怪談実話 終(しまい)』『黒木魔記録』。

 

2019年6月25日 文翔館(山形県郷土館)にて撮影、山形貸し会議室にて収録
撮影=藤山武

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