【秘話 小澤征爾】指揮直前の独特の「間」は、少年時代にマウンドで見せた長さと同じ
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2019/07/18

世界のマエストロ・小澤征爾さんの素顔を、実弟でありエッセイストの小澤幹雄さんが描く『やわらかな兄征爾』(6月12日発売・光文社刊)より、マエストロの指揮台での「間」について、幼少期を知る兄弟ならではのエピソードをご紹介します。

 

 

指揮台の上でジーッと……「あ、むかしのアレだ!」

 

征爾は、ステージに登場すると、指揮台にのる前に台のわきで客席に一礼してから指揮台にのる。

 

そして、オーケストラと向かいあって指揮をはじめる前に、体をダランとして、かなり長いあいだジーッとしていることがある。

 

客席からは、背中しか見えないが、舞台のそでから見ると、ときにはうすく目をつぶって、座頭市みたいな顔をしていることがある。

 

僕は、演奏前のその「長い間」がくると、

 

「あ、むかしのあれと同じことをやってるな」

 

と、思うのだ。

 

立川の柴崎小学校のころ、征爾は野球部のエースピッチャーだった。敗戦直後のことだから、スポーツといえば野球しかなかったが、征爾は担任の吉田先生が野球部の監督だったせいか、同級生の何人かと一緒に野球部に入り、五年生のときには、早くもエースになっていた。

 

マウンド上の征爾のクセ

 

僕はよく、おやじさんにつれられて、征爾たちの試合を見に行ったものだが、マウンド上の征爾には、あるクセがあった。

 

それは、ボール・カウントがワンストライク・スリーボールなどのピンチのとき、つまり、どうしても次はストライクを投げなければならない、というときになると、マウンド上で征爾は、ホームに向かって両足をひろげ、両ひざのところに手をついて、ジーッとキャッチャーのミットを長いあいだにらみつけるのだ。

 

見ていた僕には、とても長く感じられたが、実際には十五秒ぐらいだったかもしれない。とにかく、その動作をしたあとは、必ずストライクが入った。

 

征爾はいつだったか、指揮者になってからだが、

 

「オレは、集中力だけはあると思う」

 

と、言っていたが、小学校のときのピッチングのクセも、指揮台の上の「長い間」も、要するにあれは気持を「集中」しているのだと思う。

 

指揮する前の「間」と、むかしの野球の「間」が、僕にはまったく同じ長さに思える。

 

征爾の集中力

 

征爾が朝五時に起きて、スコアを勉強するのも、そのときがいちばん頭がさえて集中できるからだろうと思う。

 

「以前は、そのときは集中してるつもりで勉強しても、終わってみると集中できてなかったりしたが、最近では自分をコントロールするのがうまくなって、今集中してないなと思ったら、そのときは勉強をやめて、あとでまたやるようにしてるんだ」

 

と、征爾は言う。

 

オーケストラとの練習を見ていても、いざ練習がはじまると、全神経を練習に集中して、まわりはぜんぜん気にならないみたいで、カメラを持った人がオーケストラの中に入り込んで、パチパチ撮っていても、あるいは、成城の講堂を借りて公開練習するときなどは、客席で子供が声を出しても、まったく気にしてないようだ。

 

この記事は『やわらかな兄 征爾』(小澤幹雄・著)より、一部を抜粋・要約して作成しています。

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小澤幹雄(おざわ みきお)

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