木下昌輝の歴史を操る時代小説イノベーション!『戦国十二刻』インタビュー
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歴史時代小説の旗手、木下昌輝氏の『戦国十二刻 始まりのとき』が発売されました。前作『戦国十二刻 終わりのとき』に続く、戦国の世の一日を切り取った大胆で斬新な物語です。この二作にも通ずる、歴史小説への挑戦について、熱く語っていただきました。

 

 

———本日は『戦国十二刻 終りのとき』『戦国十二刻 始まりのとき』についてお聞きします。まず『終りのとき』ですが、発想の原点は何だったのでしょう?

 

木下 もともとは、『人魚ノ肉』の「竜馬ノ夢」で、竜馬が死ぬときに「人魚の肉を食べた」と告白するシチュエーションが、個人的にすごく気に入っていたので、ああいうのを戦国時代でもやりたいなと。終わりがわかっているからこそ面白いというか。そういう結末がわかったドラマをやりたいなと思ったのが最初ですね。それで打ち合わせをしていたら、時間を一週間とか一日とか区切ったほうが面白いのではないかと言われて、じゃあ、一日でやってみようかなと。

 

———取り上げる人物は、どのように決めたのでしょう。

 

木下 結構、適当ですね(笑)。最初に思いついたのが豊臣秀頼かな。ちょっと順番は覚えていませんけど、やっていって半分ぐらいきたら、みんな死んでいる話ばかりで、『終わりのとき』みたいなアイデアが出てきた。最初は『戦国24時 さいごの刻』という題名だったので、『幕末24時』とか『南北朝24時』とか、できたらいいなと思った。まだその頃は僕もキャリアがなかったので、いろいろ練習というか、稽古というか、自分が不得意なところもやろうかなと。足利義輝とか全然知らなかったし。そういうのに挑戦しようと思って、人選をやっていった感じですね。

 

 

———この作品で自分の世界を広げようという意識があった。

 

木下 どれぐらい変化球ができるか、どれぐらい攻めても大丈夫なのか。例えば、「さいごの一日」って、徳川家康が幽霊の自分と会話する。それがどこまで受け入れてもらえるか。そういうのを実験するような場所かなと、勝手に思ってやっています。

 

———二冊を読んで強く感じるのですが、木下さんは、歴史に対するフレームと同時に、物語のフレームも意識しているんじゃないかと思うんですよ。

 

木下 フレームというのは、枠組みということですか。

 

———そうですね。歴史小説は歴史を切り取った枠組みがあるわけですが、一日という切り取りにより、さらに物語のフレームを作ったというイメージがあります。

 

木下 枠組みというか、切り口ですね。信長をどういう方向から見るかによって、いくらでも物語が作れるので、そういうのはすごく気にしています。もともと僕は建築学科卒業で、例えば、「博物館を建てろ」と言われたら、ただ建てるわけじゃなくて、どういう切り口でやるかによってデザインが変わる。僕の切り口のやり方は、史実の空白にどういうフィクションを入れるかというので、そこで幽霊を出したり、人魚の肉を出したり、いろいろやっています。結局、切り口のつけ方が歴史作家の個性なので。

 

 

———歴史小説は山のように書かれているので、切り口を新しくしないといけない。

 

木下 そうですね。僕は、切り口はビリヤードみたいだと思っています。「織田信長」というボールがあって、それをどちらに突くかという。あとは、自分がこう突いたらどうなるかは、もう僕の手には負えないところがすごく面白い。(「山本勘助の正体」は)「山本勘助が実は××だ」というので突いたら、どう行くのかなと。そこがすごく面白くて、自分も読者として楽しめる。

 

———『終わりのとき』は、最後で上手くまとめましたが、それまでは一つ一つ独立した感じの話になっています。『始まりのとき』になると、かなり統一性が取れていますね。

 

木下 統一性を取ってしまったというか、「さいごの一日」を書いたときに、(『始まりのとき』収録の)「国士無双」の話を書きたいと思った。僕は大阪に住んでいるので、大阪はあのとき(大坂の陣)、徹底的に焦土にされて、そこから復活してくる。負けてから、どうやって立ち上がるかが大阪人の本質だと思うので、その風景は絶対ここに入れたいと思った。そうすると、『終わりのとき』の最初と最後の話とモロにかぶるので、じゃあ、何か連作短編的な統一感が出たらいいと。そのときに、応仁の乱で(戦国)オールスターのお父ちゃんやお祖父ちゃんをいっぱい出して、それがいろいろな短編で最後に収束してくれたらいいなと。でも、なかなか難しかったですね。『終わりのとき』だと、「この人が死ぬ」と決めてやるというコンセプトがあったので、やりやすかったけれども。

 

———『始まりのとき』を読んで感じたのが、何かが始まるときというのは何かが終わるんだなと。

 

木下 そうなんですよ。それは一つの真理ですが、書くとなると、カウントダウンの終わりと始まりがミックスした題材を見つけるのが結構難しかったですね。

 

 

———『始まりのとき』は、二十四時間で物語が終わるということは最初からわかっていますが、どういう決着をつけるかわからない。そこは読んでいて非常に面白かったです。

 

木下 これは先ほどのビリヤードで言うと、打つまでの一日を書いている。あとは読者に、そのあとの物語を想像してもらう。(「小便の城」だと)竹中半兵衛がこれからどういうふうに軍師として成長するか。(「乱世の庭」だと)応仁の乱で戦国武将の祖先たちが帰って、どういうことをするのだろう。(「因果の籤」だと)厳島神社の合戦で勝ったけれども、天下取りの夢が潰えた毛利家はどういう動きをするのか。そういう突くまでの物語で、突いたあとの軌道は読者に楽しんで考えてもらえたらと思いますね。

 

———史実は知っているけれども、この物語があることによって史実の見方が変わる。

 

木下 そうなんです。毛利が天下取りを諦めるというのは知っているけれども、この物語を読んで、何かちょっと違う色がついたら。そういう、読者の史観の色が変わってくれたらいいかなと思います。

 

———「小便の城」の稲葉山城奪取も、史実だと非常にカッコいい話ですが、もしかしてこっちのほうが本当じゃないかみたいな(笑)。

 

木下 カッコわるいですからね(笑)。でも、竹中半兵衛ファンにはイマイチかもしれませんが、カッコわるいほうがカッコいいんじゃないかな。僕は大阪人なので勝手にそう思っている。本当に、みんな、そこまで考えてやっていたのかと。案外、行き当たりばったりで、そのとき、そのとき、一秒、一秒を全力で生きた結果、そうなったんじゃないのかな。

 

 

———「惟新の退き口」は、戦国と幕末を結び付けていますね。この発想も凄い。

 

木下 一日だから、逆に数百年延びたら面白いなと思う。僕が素人のときに初めて小説を書いたのが、信長が三国志の時代にタイムスリップしたというものなので、何かそういうことをやりたいんですかね。やはり色を変えないと意味がない。「惟新の退き口」は戦国の色は変わらないですが、こうすることで幕末の色が少し変わるじゃないですか。そういうことをしたいというのがあります。これは「一日」という枠でやっていますが、だからこそ広げられるところがあって、幕末とかも枠に入れられる。

 

———話は戻りますが、「乱世の庭」は一休宗純が出てきて、さらに聖徳太子の予言『未来記』も出てきます。随分ネタを入れてくるなと(笑)。

 

木下 そうですね、めちゃくちゃ入れています。まず、聖徳太子が実在したのかどうかもありますよね。山本勘助もそうですが、みんなで「聖徳太子」というフィクションを作ってノンフィクションにしているというのが、ものすごく面白い。それは人間の愚かさでもありますよね。いまの日本人に聞いたら、みんな神様はいないと九割九分言うだろうけれど、鳥居のマークがあれば、そこで立ちションはしなくなりますよね(笑)。そういう神様みたいなものを創り出して、創り出したものに支配される。それは何なのか。

 

———歴史上で人気のある人たちも、当然、ある程度作られているわけですよね。

 

木下 そうなんですよ。信長とか、竜馬とか。みんな結局、そういうのを作っている。そこで僕は目標がある。僕の小説が百年後、二百年後に残ってほしいというのもありますが、それはなかなか難しいんじゃないか。ただ、桶狭間の合戦って、義元が上洛したところを信長が奇襲したとあって、いまは否定されている。でも、あのフィクションを考えた人はすごいなと思います。ああいう、定説になるようなフィクションを作りたいというのがあります。それは、歴史小説としてもそうだし、小説としてもそうです。歴史小説であれば、司馬遼太郎がやったように、竜馬のイメージをガラッと変えちゃうみたいな、すごく大胆な人物の塗り替えみたいなものをしたい。

 

 

———なるほど。

 

木下 物語であれば、大きなフレームとして、そういうのができると思っています。講談師の玉田玉秀斎さんという人と最近知り合って、百年前の先代が、真田十勇士を思いついた人です。それまで、忍者は敵役でしかなくて、猿飛佐助もいたけれど、大人の忍者だった。それを少年忍者にかえて善玉にしたら、大ヒットした。そのフレームを漫画の『NARUTO』なんかが使っているわけです。先代が作った真田十勇士は、いま語り継がれていないけれども、作ったフレームは生き残って、いろいろな作家に影響を与えている。

 

———いまではもう、世界のNINJAですからね。

 

木下 それはすごいことだなと。僕の物語は残らないかもしれないけれど、僕の物語のフレームが定説として残ってくれたらいいかな。それは目標としてありますね。

 

インタビュー 細谷正充

 


『戦国十二刻 始まりのとき』(定価1600円+税)
新たな時代へとつながる、合戦その24時間
足利義政・斎藤道三・毛利元就・竹中半兵衛・島津惟新・長宗我部盛親

 

『戦国十二刻 終わりのとき』(定価600円+税)
名高き武将たちの、その死まで24時間
豊臣秀頼・伊達政宗・今川義元・山本勘助・足利義輝・徳川家康

 

木下昌輝(きのした・まさき)
1974年奈良県生まれ。ハウスメーカー勤務後、フリーライターとなる。2012年「宇喜多の捨て嫁」で第92回オール讀物新人賞を受賞。2014年『宇喜多の捨て嫁』が刊行され、直木賞候補となり、第4回歴史時代作家クラブ賞新人賞、第9回舟橋聖一文学賞、第2回高校生直木賞を受賞。2019年『天下一の軽口男』が第7回大阪ほんま本大賞を受賞。ほかに『人魚ノ肉』『敵の名は、宮本武蔵』『炯眼に候』『金剛の塔』など。

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