西野カナ『トリセツ』に習う 人を動かす文章術
ピックアップ

ryomiyagi

2019/10/23

 

家電の取扱説明書、パッケージの注意書き、Q&Aの問答集、申込書、ルールブック……現代社会はさまざまな「マニュアル」で溢れている。しかしそれは、人間を混乱させミスを誘発する、読んでも分からない「ダメなマニュアル」になってはいないだろうか? 「正しいマニュアル」の作り方から明快な文章術・デザイン法・作業手順の組み方・心理学を学ぶ、心理編です。

 

※本稿は、中田亨『「マニュアル」をナメるな!~職場のミスの本当の原因~』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

 

■「受け身の対応」から「自発的行動」へ

 

マニュアルは、いつ、どこの、誰に、何のために、どう読ませるかを考えて作らねばならない。単に言語表現だけを気にすれば事足りるわけではない。読み手との関わりの観点から、マニュアルが備えるべき工夫の一つに、「センス・オブ・コントロールを与える」ことが挙げられる。

 

センス・オブ・コントロールとは、自分は事態を掌握できているという感覚である。現在の状況を知ることができて、将来の状況も見通すことができ、自分が主導権をとってコントロールできることへの自信を言う。

 

センス・オブ・コントロールは、自分が主導権をとれていることが大事であり、単に状況が苦しくないということではない。

 

自動車のドライブを楽しむなら、行き先は気ままに決め、天気のいい日に、見通しがよくて空いている高速道路を運転したい。整備された道路だから、やっかいな出来事はまず起きそうになく、仮に起きたとしても道が広いからよけることができる。これならばセンス・オブ・コントロールを強く感じる。

 

同じ運転であっても、他人から急にルートの変更を命じられたり、ごちゃごちゃした道をおっかなびっくり運転しているのでは、センス・オブ・コントロールをほとんど感じない。

 

会社における仕事でも、センス・オブ・コントロールが一番大事なのである。

 

たぶん成功できるぞと見通しがつく仕事は、たとえ労力がかかるものであっても、気分的には楽である。逆に、成否が天候に左右されるとか、客の反応が予想できないとか、あるいは社内で摩擦があって上司や他部署から思わぬ横やりが入る恐れのある仕事は、神経を使う。

 

マニュアルは雑に作ると、作業の指示だけで終わってしまう。作業者は、マニュアルに命じられるまま手を動かすだけであり、主導権を感じることができない。

 

ごく短時間でこなすべき単純明快な作業に対しては、作業者はマニュアルに言われるままに行動するだけでよい。災害時の避難のように、速くかつ例外なく実行する必要がある行動は、むしろ読者は自分で考えない方がよい。

 

状況が複雑で手順の長い作業では、作業者が何も考えず唯々諾々と動くだけでは危険である。全ての場合をマニュアルに書ききれるわけはなく、マニュアルにない想定外の事態が必ず生じるからである。

 

いざという時は、マニュアルが役に立たなくとも、作業者が自力で解決せねばならない。日々の仕事を漫然とこなすだけでは、臨機応変な対処能力は身につかない。

 

よって、仕事の性質に応じて、マニュアルと人間との主導権のバランスを調整する必要がある。主導権の配分の仕方には、下の表に示す4つの段階がある。

 

 

最も素朴なマニュアルは、状況に対して受け身の行動を説明しているが、レベルが上がるに従い、徐々に作業者が先を読むことへの支援を提供し、最終的には状況変革の主導権を握るように仕向ける。

 

西野カナの曲、『トリセツ』の歌詞は、序盤はトラブル発生時の受け身な対応策を指示しているが、終盤に近づくにつれ、自発的な行動を提案してくる。バランス調整がうまくできている。

 

今後、職場のマニュアルは続々と電子化されていき、タブレット端末やスマートフォンで読むことが増えるだろう。これらの機器はコンピューターであるから、作業状態を認識し、事態を先読みすることもできる。すでに現在でも、カーナビは「まもなく、交差点です。右折してください」という風に予告できているが、前もって言ってくれる分、運転者は心の余裕ができる。

 

先読み能力をさらに増強し、はるか将来を見越して作業の実現を手助けする、プレディクティブ支援レベルのシステムが、産業の現場では増えている。

 

予測能力だけでなく、紙の節約や検索の便利さという長所を鑑みても、マニュアルの電子化の利はかなり大きい。そして電子マニュアルの能力を最大限に使うため、職場のIoT化が叫ばれている。

 

IoTのことを、「もののインターネット」だと捉えると意味が曖昧だが、実際的なインパクトは、仕事や人や道具が今どこで何をしているかをスマートフォンで見えるようにし、さらには操作したり調整できるようにすることにある。

 

職場の全ての状況を即時に把握できるようになれば、目先の対症療法の域から脱し、大所高所から仕事の改善を自発的に考えられるようになる。

 

これぞセンス・オブ・コントロールであり、プロアクティブ支援のレベルである。

関連記事

この記事の書籍

「マニュアル」をナメるな!

「マニュアル」をナメるな!職場のミスの本当の原因

中田亨(なかたとおる)

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を

この記事の書籍

「マニュアル」をナメるな!

「マニュアル」をナメるな!職場のミスの本当の原因

中田亨(なかたとおる)

RANKINGランキング