【神を喰らう者たち 刊行】新堂冬樹インタビュー「ゴッドファーザーに近づきたかった」
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二〇〇二年の『悪の華』、それに続く二〇〇五年の『聖殺人者』から十四年。スタートから十七年という歳月を経て、遂にシリーズが完結した。新堂ワールドの代表作と言っても過言ではない。

 

 

「ゴッドファーザー」に近づきたかった

 

ーー今回の『神を喰らう者たち』のアピールポイントは、どんなところでしょうか?

 

新堂 一マフィオソから政財界のフィクサーにまで上り詰め、いまや誰も手が出せない、アンタッチャブルな存在となったマイケル。『聖殺人者』から十四年の歳月を経たガルシアは、果たして生きているのか? ガルシアが生きているとしたら復讐を果たせるのか?

 

『悪の華』から読んでいただいている方々は、その二人の直接対決を期待されると思います。
初めて『悪の華』に登場したガルシアやマイケルも、その当時は若かったわけです。若い頃はとにかく待つことができないものです。そして、若いときにしかない勢いや荒々しさ、エネルギーのようなものは、ずっと持続するものではありません。長い時間を経ていることを表現するためにも、あえてガルシアとマイケルは脇役に回しました。
 

ガルシアを脇役に据えることで、客観視することができます。十七年もの間には、刺客も多く放たれ、最初の憎悪や怒りといったものは薄まってはいません。むしろ熟成されたものになっているはずです。熟成したワインのような、コクのある〈怒り〉の像がガルシアだ、とでもいえばいいでしょうか。

 

ですから、『神を喰らう者たち』はガルシアの視点ではなく、新しい二人の登場人物の視点で描きました。

 

ガルシアとマイケルを殺すためだけに生きる主人公、氷の瞳を持つ女暗殺者(アサシーナ)のサリヤ。

 

目の前で犯される妹を助けられずに死なせ、生ける屍となったもう一人の主人公、元総合格闘技チャンピオンの長瀬。

 

それに加え、サリヤを支える心優しき暗殺者(アサシーノ)のケンタと、マイケルの守護神であるシリーズ史上最強で十八歳の天才アサシーノのディアボロ……。

 

マイケルとガルシアの運命の最終章に引き寄せられる個性豊かなニューキャスト達は、シリーズ一番の層の厚さと自負しています。

 

 

ーー多彩な登場人物について思い入れや、モデルがあれば教えてください。

 

新堂 私にとって、映画「ゴッドファーザー」シリーズはバイブルでもあり、とてもリスペクトしています。だから、どうしてもあの世界に近づきたいと思ったのです。「ゴッドファーザー」はマフィアものを超越したところにあり、〈友情もの〉でも〈家族もの〉でもあると考えています。あの映画にインスパイアされた作品は、ほかにもたくさんありますが、それら以上のものを目指したかったというのが『悪の華』のはじまりだったわけです。マフィアものなので、残忍で血なまぐさいシーンもありますが、それよりも男の美しい色気のようなものを描きたかったわけです。

 

では、それぞれの登場人物への思いを挙げてみましょう。

 

ガルシア――モデルはいませんが、「男の哀切な色気」を意識しました。壮大な世界観に負けない主人公を生み出すために、全作品の中でも、キャラクター作りに時間をかけたことでは三指に入ります。

 

マイケル――まさに、「ゴッドファーザー」シリーズのアル・パチーノ演じるマイケル・コルレオーネですね。

 

サリヤ――両親を殺したマフィアに、復讐するためだけに生きているアサシーナ。飛び抜けて非情な殺人マシーン。「ニキータ」が、さらに非情に、冷徹に、美しくなったイメージで作り上げました。

 

長瀬――完璧な登場人物=超人たちが揃う「悪の華」シリーズでは、ダメダメな人間臭い男に、敢えて主人公の大役を担わせました。総合格闘技の元チャンピオンですから、一般的には遠い世界の男です。ところがマフィアの世界に投げ込まれると、まったく通用しません。読む側から感情移入しやすい、完璧ではない等身大の人間の代表として登場させました。

 

モニカ――彼女もまた、マフィアに両親を殺されていますが、サリヤとコインの表裏となるようなキャラクターを作りたかったのです。

 

ケンタ――日本のヤクザ映画にはあまり出てこないであろうキャラクターだと思います。かつての凄腕アサシーノが、人を殺すことに倦んでマフィアの組織を抜けるのですが、愛する人のためにすべてをなげうって闘う、献身愛に満ちた男。そして、最後には鬼神のような男に変貌します。ある意味、私が一番好きなキャラクターです。彼のおかげで、ほかの作品ときちんと差別化ができたように感じています。

 

ディアボロ――とにかく、圧倒的に凄い男、異次元の戦闘術、悪魔のように強い男……「悪の華」シリーズの全アサシーノの中で、善悪を超越した、最強の刺客を登場させました。言ってみれば、裏の主役です。男は、とにかく強いものに憧れるものですからね。

 

 

ーー作品のイメージをふくらませるうえで、どんな苦労がありましたか?

 

新堂 ヨーロッパは好きで、何度も訪れています。ですから国々を回ることで空気感や匂いといったものは意識できていました。ただ、そこで何か大きな事件が起こった直後のような、生々しい現場に出合うこともないでしょう。小説における臨場感というものは、舞台となる場所を見ることだけでは、生みだしにくいものだと思っています。

 

また、私は新宿や六本木などの夜の街でヤクザが登場するものもたくさん書いていますが、ヤクザとマフィアは大きくメンタリティが異なると思います。

 

「ゴッドファーザー」と同じように、「仁義なき戦い」シリーズも大好きです。この巨大なふたつのシリーズは比較するようなものではありませんが、ヤクザ映画に美しさや明確なカタルシスを加えたものが「ゴッドファーザー」だったと、私なりに解釈しています。

 

マフィアものでは人間関係などが冷徹なイメージが強いのですが、ヤクザものでは男同士の友情や上下関係に、焦点が当たりがちです。そのうえ女性がどちらかというと添え物のように描かれます。

 

差別化を図る意味でも、本作では人間としての女性像を色濃く描き、ヨーロッパの上質な恋愛映画にも似た雰囲気も出せたと思います。

 

そういう意味では、ノワール作品の〈黒新堂〉と静謐で美しい恋愛を描く〈白新堂〉を、うまく融合できていると言ってもいいのではないでしょうか。

 

ーー最後に、読者へのメッセージをお願いします。

 

新堂 マイケルに止めを刺すのは誰なのか? はたまた、マイケルが返り討ちにしてしまうのか?

 

「悪の華」シリーズ完結編、その最終章に相応しい苛烈で美しい戦いを、しっかりと瞳に焼きつけてください。

 

おまえのすべてを奪った
神を殺せ。
神こそ悪魔だ!!

 


『神を喰らう者たち』光文社
新堂冬樹/著

 

【あらすじ】マフィアの首領だった父と家族を殺され、日本に逃れたガルシア。死んだと囁かれる一方、シチリアではガルシア帰国の噂は絶えない。怨敵のマイケルは、いまや政財界を表と裏から牛耳る大実業家だ。眼前でレイプされる妹を救えなかった元総合格闘家でフリージャーナリスト・長瀬は、シチリアで二人の因縁に巻き込まれる。そして氷の瞳を持つ女暗殺者・サリヤに遭遇。「ガルシアとマイケル、二人を殺す」――彼女は言う。だが、その前に立ちはだかるのは、マイケルの守護神で18歳、最強の天才暗殺者・ディアボロだった。

 

新堂冬樹(しんどう・ふゆき)
1998年『血塗られた神話』で第7回メフィスト賞を受賞。『無間地獄』『忘れ雪』『黒い太陽』『不倫純愛』など、映像化作品多数。近著に『少年は死になさい…美しく』『カリスマvs.溝鼠』『極限の婚約者たち』などがある。本作は『悪の華』『聖殺人者』に続くシリーズ完結編である。

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