青山七恵さんが描く人が幸せになるための「家」のこと。|新刊『私の家』
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ryomiyagi

2019/11/23

 

 

繊細な筆致で編まれた作品を発表するたびに世の本読みたちを虜とりこにする青山七恵さん。新作は「母方の親族の家系図を書いてもらったのがきっかけで誕生した家と家族の物語」と、青山さんの作品に込めた思いを語ります。読後、自分にとっての「家」とは何か思いをはせるはずです。

 

「‶家″について考えることは、生きることそのものを考えることでした」

 

私の家』集英社
青山 七恵 /著

 

青山七恵さんの新作は家と家族をモチーフに描いた作品です。

 

物語は、娘の梓、母の祥子、父の滋彦、結婚して家を出た梓の姉・灯里らが祖母の法要に集うシーンから始まります。梓は同棲していた恋人と別れ、突然実家に戻ってきてしまいました。灯里は法要なのに喪服用の靴を忘れてくるようなマイペースさ。母は年の離れたシングルマザーに親身になり、父は幼いころに住んでいた家と似た家を見つけ、そこに通っています。

 

大叔母の道世はアレコレといろいろな人と関わりながら生きていて、一方、伯父の博和は長い間音信不通だったのでした。そんな一族一人一人と家との関わりを、それぞれの視点からすくい上げて紡いだのが長編『私の家』です。

 

「3~4年前のことなのですが、母に母方の親戚の家系図を書いてもらったことがありました。母方のほうは人数も多く、名前だけ知っているという人が複数いて、私自身、親戚全体がよくわかっていなかったんです。それぞれエピソードを聞いたりはしていたんですが、漠然としていてつながっていませんでした。ところが、家系図を見て自分はこの人たちの作る連鎖の中で生まれてきたのかとしみじみ感じたんです。一人暮らしが長くなると、最初から自分が一人で存在していたような錯覚に陥ってしまいますが、決してそうではないのだと」

 

家系図から今の自分が連綿と続く歴史の中に在ったと気づいた青山さんは、そこから「人と家の話を書けないか」と考えたそうです。

 

「日本語では“家族” “家”と書く。“家族”のなかには“家”という漢字があります。たとえば英語なら家族はfamily(ファミリー)ですし家はhouse(ハウス)とかhome(ホーム)です。フランス語なら家族はfamille(ファミーユ)で家はmaison(メゾン)。つまり、もともと日本では家と家族が独自に強く結び付けられていたのかもしれないと思いまして……」

 

青山さんは“家についていろんな方向から考えてみたかった”と続けます。

 

「たとえば、家族から逃れるための家もあれば家族の余韻のある家もあるでしょう。家族と一緒に住んでいるからといってその家を“私の家”と思えるとは限りません。同じ家でも別の時間を生きていることもありますから。世代によっても家の捉え方は変わると思います。また、家は帰る場所なのか? 帰る場所ではない家などありえるのか? そんなことを考えていくうちに、改めて家は特別な場所だと実感しました。それで家と人の結び付きや結ばれなさを書きたいと思うようになったんです」

 

作中、恋人と別れ実家に舞い戻った梓は家を模索している真っ最中。一方、結婚して自分の家族を作った灯里はすでに自分の家を持っていて、帰るべき家はその自分が持っている家のほうです。かように登場人物たちを通して、読み手も“家”について思索を巡らすようになっていきます。

 

「フランスの小説家パスカル・キニャール氏とお話しした際、彼が『自分には家が3つある。1つは仕事をする家、もう1つは音楽を奏でる家、そして最後は幸せになるための家だ』と言っていました。私も、本当に欲しい家は家族と結びついているかどうかではなく幸せになるための家ではないかと思うんです。家という場所が必要な人もいますが、心の中の家でもいいし、屋根がない家でもいい。結局、家のことを考えることは生きることそのものを考えることなのかもしれません」

 

読後、脳裏に浮かぶのは今の“家”? それとも? 記憶を刺激される快作です。

 

■青山さんの本棚から

 

おすすめの1冊

四人の交差点』新潮社
トンミ・キンヌネン/著
古市真由美/訳

 

「4人の声で語られる100年の物語。助産師として強く生きた祖母が自分の力で家を増築していくのですが……。やがてある秘密が明らかになります。家について考えるきっかけになったフィンランドの小説です」

 

PROFILE
あおやま・ななえ◎’83年、埼玉県生まれ。筑波大学図書館情報専門学群卒業。’05年、「窓の灯」で文藝賞を受賞し、デビュー。’07年「ひとり日和」で第136回芥川龍之介賞、’09年「かけら」で第35回川端康成文学賞を最年少で受賞。’19年4月より、東海大学の文芸創作学科で教鞭を執っている。

 

聞き手/品川裕香
しながわ・ゆか◎フリー編集者・教育ジャーナリスト。’03年より『女性自身』の書評欄担当。著書は「若い人に贈る読書のすすめ2014」(読書推進運動協議会)の一冊に選ばれた『「働く」ために必要なこと』(筑摩書房)ほか多数。

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