いま大注目の作家がバレエ『白鳥の湖』にヒントを得た、人間の悪意に圧倒される傑作|呉勝浩さん『スワン』
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ryomiyagi

2019/11/30

 

4年前に江戸川乱歩賞を受賞してデビューして以来、著書のほとんどが主要文学賞の候補になった呉勝浩さん。今、出版界が大注目する新進気鋭のミステリー作家です。新作は「理不尽な悪意と悲劇から逃げない主人公を描きたかった」と呉さん。とにもかくにも面白い、傑作です。

 

事件に抱く嫌悪感から心理戦まで、小説を“体験”してもらいたいんです

 

スワン』角川書店
呉 勝浩/著

 

今、日本ミステリー界が最も注目する新進気鋭の作家・呉勝浩さん。新作は長編ミステリー『スワン』です。巨大ショッピングモール「スワン」で無差別銃殺事件が起こります。犯人は最上階のスカイラウンジに取り残された人々を射殺。バレエに夢中の女子高生いずみは生き残ったうちの一人でした。事件後、いずみの同級生で撃たれて入院中の小梢が「犯人は次に殺す人間をいずみに指名させた」と週刊誌に暴露し、いずみは世間から集中砲火を浴びることに。そんなある日、いずみのもとに招待状が届きます。事件関係者5人を集め、事件のなかの「ある死」の真相を明らかにしたいと……。

 

ラグビー選手のようにがっちりとした体軀に大きく通る声で呉さんは執筆のきっかけを語ります。

 

「根が臆病だからだと思うんですが、僕は極端に理不尽な事柄を恐れていまして……。自然災害や病気も怖いですけれど、いちばん恐ろしいのは人の悪意。悪意に直面したとき、自分がどういう対応を取るのか。そんなときに自分が見せるであろう本性も恐ろしい(笑)。そういうものに抗う人間の話を書きたかったんです」

 

豪快に自らのことを笑い飛ばしながら、「インスピレーションを受けた映画がある」と続けます。

 

「1つはドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『静かなる叫び』。実際にあった無差別銃乱射事件を題材にした作品で、最初に悲惨な出来事を描き、その後、複数の視点で物語が進みます。もう1つがケネス・ロナーガン監督の『マンチェスター・バイ・ザ・シー』で主人公が過去の悲劇を乗り越えようとする物語でした。でも、普通に生きていたら悲劇なんて簡単に乗り越えられるものではないと思う。だからといって“屈したっていいじゃん”と開き直るのも嫌で……」

 

悲劇を受け止め、抗い、乗り越える人の話が書きたい――。そう決まったのが2年前。しかし、そこから呉さんは苦しみました。

 

「僕はプロットを作らず、直観で書き始めます。事件は書けると思いましたが、悲劇が終わった後の人生をどう書こうか、と。苦しんでいる最中、あるショッピングモールに取材で行ったんですが、そのそばに大きな貯水池があった。そこから“スワン”というモチーフや、主人公がバレエを習っているという設定が生まれました」

 

執筆のため3大バレエの原作を読んだ呉さんは『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『くるみ割り人形』のいずれも残酷で理不尽な悲劇だと知り、自身が書きたい話とリンクすると気づいたのでした。

 

「現代は何もかもがものすごいスピードで情報化され、一億総論客化し、邪推と推測ごっこが蔓延っています。誰もが断片的な情報だけで事の真偽をジャッジする。でも情報過多の時代だからこそ何が真実なのかかえって見極めにくいのではないでしょうか。巻き込まれた側は何を言っても揚げ足を取られ、批判が間違っていても謝罪もされない。そのバランスをどうとるかも描いたつもりです」

 

お茶会で5人が隠していた秘密が少しずつ明らかになっていく謎解きも見事。そしてラストで、読み手がアッと声を上げるほど驚く“事実”が用意されています。

 

「どの作品も“小説を読者に体験してほしい”と思って書いています。自分ではない誰かの体験を、フィクションを通して追体験することで生まれる想像力があると思う。その力を使いたいんです」

 

発売前から反響が大きく、すでに緊急重版が決定したという本作品。読後、自分の想像力の幅と奥行きが広がるのを感じ、深い感動と充実感を得られるはず。この秋必読の傑作ミステリーです。

 

■呉さんの本棚から

 

おすすめの1冊

カインは言わなかった』文藝春秋
芦沢 央/著

 

「バレエをモチーフにしたノンストップ・ミステリー。『えっ、バレエかよ!』と自分の作品とかぶると焦りました(笑)。演じること、演じさせられることなど僕の小説に通じるところがある力強い小説。おススメです」

 

PROFILE
ご・かつひろ◎’81年青森県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒業。’15年『道徳の時間』で第61回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。’18年『白い衝動』で第20回大藪春彦賞受賞。同作は’18年第39回吉川英治文学新人賞候補、同年『ライオン・ブルー』で第31回山本周五郎賞候補、’19年『マトリョーシカ・ブラッド』で第40回吉川英治文学新人賞候補、『雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール』で第72回日本推理作家協会賞[長編および連作短編集部門]候補。

 

聞き手/品川裕香
しながわ・ゆか◎フリー編集者・教育ジャーナリスト。’03年より『女性自身』の書評欄担当。著書は「若い人に贈る読書のすすめ2014」(読書推進運動協議会)の一冊に選ばれた『「働く」ために必要なこと』(筑摩書房)ほか多数。

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