もし今の世に赤穂事件が起こったら?
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日本人はなぜ忠臣蔵が好きなのだろう?

 

赤穂浪士四十七人が吉良邸に討ち入ったのが一七〇三年のことで、爾来この事件は文楽や歌舞伎をはじめ、講談、小説、映画、テレビドラマと、様々な媒体の題材になり、数知れない作品が生まれてきた。

 

それは、四十七士の行為を三大仇討ちと呼び、彼らを義士と称賛する世評があったからだと思われる。

 

しかし実際の事件は美談とは言い難い側面を持っていた。

 

浅野内匠頭が、殿中で刀を抜けばその身は切腹、お家断絶となるのを承知で刃傷に及んだのは短慮の謗りを免れず、家臣想いの聡明な殿様像からはほど遠い。事件の構図は切りつけた浅野が加害者で、傷を負った吉良が被害者となる。幕府は規則に従い、浅野に切腹を申しつけた。これで吉良を仇だと見なすのは不条理ではなかろうか。

 

こう考えると、赤穂浪士が徒党を組んで、吉良邸の寝込みを襲ったのは、どの時代の感覚でも、情状酌量の余地のない犯罪行為と映る。つまり、かなり無理筋の話なのである。

 

ところが当時の人々は、浪士たちを武士の鑑と称賛した。江戸時代の価値観としてはそうだとしても、不思議なのは時代が変わり、国家の在り方や世情が大きく変化してきたにもかかわらず、忠臣蔵が好まれ続けてきたことである。

 

そこで、ふと考えた。もし時代を現代に移し、現代のメンタリティを持った人物たちが、赤穂浪士と同じような行動をとったとしても、同じように共感を得られるのだろうかと。

 

今作を書くに当たって、日本人が持つ、忠臣蔵に対するイメージの最大公約数にできるだけ近づけて描くようにしたのは、その答えを知りたかったからにほかならない。

 

仮名手本忠臣蔵の作者が、赤穂事件から三百六十年余り遡った室町時代の話として描いたように、今回は三百十年余りのちの世界を舞台に、同様の試みをしてみたつもりだが、果たして今の人たちの共感を得られるだろうか?

 

 


『蟻たちの矜持』
建倉圭介/著

 

 

【あらすじ】医療精密機器製造会社の若き二代目社長・内野は、ライバル会社社長の陰湿な手口により、暴力団との密会をねつ造されたうえ、海外で身に覚えのない覚醒剤所持で逮捕されてしまう。乗っ取られた会社を取り戻すため、四十七人の社員が企てた驚愕の計画とはーー

 

【PROFILE】たてくら・けいすけ 1952年生まれ。’97年『クラッカー』でデビュー。2006年に刊行した『デッドライン』が「このミステリーがすごい!」でベストテンにランクイン、大藪春彦賞候補となる。

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