栗山英樹監督が明かした「人の和」を感じさせる組織作りの要諦
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撮影 野口博(flowers)

 

スポーツの取材をしていると、スポーツの専門知識だけでは語れない場面にしばしば出会う。

 

野球でもサッカーでも、ラグビーでもバスケットボールでも、選手一人ひとりの技術と監督の戦術・戦略が、勝利への必要条件となる。ところが、選手が最高の技術を発揮し、監督が理に適う采配をふるっても、勝利をつかめないことがある。その一方で、劣勢を予想されたチームが勝利をもぎ取ることがある。

 

なぜか。

 

血の通った人間がプレーするスポーツは、eスポーツではない。選手も監督も、技術不足や戦略の失敗をカバーする手立てを持っている。一時的にはチームを窮地へ追い込むミスが、結果的にチームを奮い立たせるのは例外的でない。スポーツには数値化も可視化もできない力があり、それこそが筋書きのないドラマを生み出す。

 

撮影 野口博(flowers)

 

北海道日本ハムファイターズの栗山英樹監督は、7年の選手生活で飛び抜けた実績を残したわけではない。引退後に指導者としてキャリアを積み上げ、満を持してファイターズの監督になったわけでもない。

 

ところが、12年の監督就任初年度にパ・リーグを制した。16年にもパ・リーグ覇者となり、広島を破って日本一にも輝いた。19年はパ・リーグ5位に終わったものの、20年は9年目のシーズンを戦う。連続在任年数は、球団最長となった。いまでは「名将」との表現も使われる。

 

選手としても指導者としても経験の少ない栗山監督は、いかにしてチームを組織しているのか。彼が裏付けとしているものが、「学びの姿勢」である。

 

プロ野球チームの監督という職業を、栗山監督は組織のリーダーとしてとらえている。野球を極めたエキスパートがセオリーに則ってチームを管理・指揮するのではなく、組織をいかにまとめ上げるのかという視点に立つ。そもそも読書家だった彼は、監督就任とともに古今東西の古典にあたっていった。

 

『論語』、『韓非子』、『易経』、『四書五経』などから京セラ創業者の稲盛和夫氏の経営論までを渉猟し、心に残る言葉を野球ノートに書き留めていく。シーズンインから一日一日のチームの歩みにふさわしい言葉を、数多くの文献を読み込んで抜き出していったのだ。

 

撮影 野口博(flowers)

 

19年10月に光文社から発売された『栗山ノート』は、そのなかから監督自身が厳選した言葉を整理したものである。5つの章に分けられた言葉を、彼は自身の日常に置きかえて説明している。ファイターズのファンには身近な話題が多いと同時に、ファイターズのファンでなくても、もっと言えばプロ野球に興味のない方でも、思わず頷ける言葉とエピソードが連なっていく。

 

「プロ野球チームとしてレベルを上げていくのと同時に、無言の紐帯ともいうべき心の絆で結ばれた集団を作り上げる。選手の心を動かし、まとめ上げていくことに精魂を極めるのが、私の仕事だと感じています」(『まえがき』より)という思いが、私たちの日常にも当てはまる人生訓となっている。

 

胸に響く言葉ばかりである。そのなかから、第5章「ともに」に収められた「天の時は地の利に如かず。地の利は人の和に如かず」を紹介したい。

 

孟子によるこの言葉は、天の時=好機を得ても、地の利がなければ成就することはできない。地の利を得ても人の和に欠ければまた成就できない、という意味である。そこから天の時よりも地の利が、地の利よりも人の和が重要であり、人の和を生み出すためにリーダーの資質が問われる、と栗山監督は自らを戒める。

 

そのうえで、失点につながるミスを責めない選手たちの姿勢を、「誇らしい」と綴る。そこからさらに、「敗戦を無駄にしない。負けてなお勇敢に明日に立ち向かっていくことの大切さに気づかされた」と結ぶ。

 

「人の和」を感じさせるファイターズという組織を作ったのは、栗山監督に他ならない。自らの功績と言っていいその点にはまったく触れないところに、彼の人間性が浮かび上がっている。人のために尽くすことにためらいがなく、つねに等身大の自分でいるところに、栗山英樹という人間の魅力があると思うのだ。

 

スポーツライター 戸塚啓

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