妻の妊娠を知った夫、その“身体に起こる大変化”とは? 男がイクメンに進化するまで。
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ryomiyagi

2020/01/06

 

おむつを替え、本を読み聞かせ、習いごとの送り迎えをするような、ごく普通のお父さんたち。父親のイクメン化は、実は50万年前に始まった人類の生存と繁栄のために必要な「進化」だったのである。最新研究で明かされる現代の父親たちの驚くべき秘密について、オックスフォードの気鋭の研究者による新刊『進化形態はイクメン』から、抜粋・再構成してお届け!

 

体が変化するのはママだけではない

 

「男性は生まれたばかりの赤ちゃんを抱っこしてはじめて父親となり、そのときに赤ちゃんとの関係がはじまるのであって、パートナーの妊娠はある意味、自分とは無縁のできごとだ」、何年もそう思われていた。

 

しかし、意外に思われるかもしれないが、身体の大変化により行動の大変化が生じ、その結果、男性は父親になる。進化はそれを利用して、赤ちゃんが生まれる前から男性を家族にしっかり引きつける。

 

オキシトシンは長年、女性特有の愛情ホルモンだと見なされてきた。出産と授乳に関連するホルモンだからというのが主な理由だが、近年になって、女性だけでなく男性の人間関係にも決定的に重要だとわかった。

 

また、人間の子育てチームが形成される際にも欠かせない。最近の研究によると、妊娠期間中に同居している父母は、オキシトシンの血中濃度が同じようなレベルになるという。

 

この発見にたずさわったグループを率いていたのは、イスラエルのバル゠イラン大学の発達心理学者、ルース・フェルドマン博士だった。

 

フェルドマンのグループは、父親の神経化学に関する貴重な情報をもっとも多くもたらしてくれたといっても過言ではない。

 

しかし、もうすぐ子供が生まれる夫婦間のオキシトシン濃度が似たような値になるという驚くべき事実――どの夫婦でもそうだから、単なる偶然だという可能性はない――が明らかになっても、フェルドマンたちにさえ、その理由ははっきりとはわからなかった。

 

子供にとってきわめて重要な子育てチームの成立過程となんらかの関連があるはずだと推測するしかなかった。

 

やがて、何時間にもおよぶ行動観察の結果、固い絆で結ばれた恋人同士がとても似た行動――同じいいまわし、同じしぐさ、同じボディー・ランゲージ――をとることとの類似が示唆された。ふたりの人間が密接な協力関係にあるとき、それは発話や行動の模倣となって表れるというのだ。

 

さらに、心拍数、体温、血圧といったさまざまな指標(いわゆる生理学的指標)も同期することが確認された。研究者たちは、夫婦間における行動学的、生理学的な同期現象の観察をもう一歩進めることによって、オキシトシン濃度が同期する仕組みが解明されると考えた。

 

そして夫婦の脳が同じような活動を示し、ホルモン全般(長期の関係にとって重要なホルモンも含まれる)の濃度も似てくるからこそ、夫婦間の親密な関係ができあがるのではないかと仮説を立てた。

 

あたかも夫婦が同じ神経化学的報酬を得られるようにして、子供が生まれてくる前から、夫婦が同じ目線で子育てにのぞめるよう進化してきたかのようだ。

 

父親に関する他の多くの研究と同様、この研究も緒についたばかりだ。とはいえ、もうすぐ親になる夫婦間のオキシトシン濃度がとてもよく似通うのは、このメカニズムで説明できるように思われる。

 

 

子どもができると性格も変わる

 

さらに、生物行動学的同期は神経生物学的な現象にとどまらない。両親の心理状態もがらりと変化するのだ。オキシトシン濃度と同様に、妊娠期に同居している夫婦は性格もいくらか変化し、お互いに似てくるようだ。

 

わたしも自分の研究から、父親の性格が変化することに気付いていた。子供ができる前は辛抱強い性格だったのに、父親になったら気が短くなったり、気が小さかったのが自信家になったり。

 

しかし、ベルギーのルーヴァン・カトリック大学のサラ・ガルディオロとイザベル・ロスカムは、子供が生まれたばかりの親に関する研究により、父親のこうした変化には母親の変化が投影されているという確固たる証拠を発見した。

 

ふたりは長年にわたり、子を持つ204組の夫婦を対象に、妊娠期から出産一年までの研究をおこない、子供のいる夫婦はいない夫婦に比べて、開放性、協調性、精神的安定性の度合いがそろって強まることを突き止めた。

 

どれも自分以外の人生経験に目を向け、それを受け入れる準備を整えさせる要素であり、家族が健全に機能するための基盤となるものだ。

 

性格がある程度同期することによって、夫婦は互いの経験に共感し、赤ちゃんの経験に心をひらき、家族に対する脅威に目を光らせる準備が整っていく。

 

一方、新米のママとパパ家族思いの一面では同調するものの、夫婦の枠外での楽しみや報酬を求める要素(外向性)の面ではちがう。

 

新米ママの場合、この要素は親になっても変わらないが、新米パパの場合には、この要素が人格に占める割合が大幅に減少する。

 

親になる途上にあると、男性は外の経験を好む性格から内向きな性格に変わる。なじみ深くて心地よいもの、すなわち家族へと気持ちが向く。

 

先述のナイジェルの話にも、この性格の変化がはっきり表れている。もうすぐ父親になるときのこうした生物学的、心理学的な同期や不同期が物語るのは、男性は進化上の要請としてパートナーとともに育児チームとして働くよう求められているということだけではない。

 

パートナーの妊娠期においても、男性は傍観しているだけの関係者などではなく、生物学的にも心理学的にも育児チームをしっかり支える支度を整えているということなのだ。

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進化形態はイクメン

進化形態はイクメン

アンナ・メイチン/著 熊谷千寿/訳

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