これからの日本社会を支える「チーム8人」のプロフィールと、その深刻な分断
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◇【若年大卒女性】――多様な人生選択、都市部で最多数派

それでは30代以下の若年層に目を移していきましょう。若年大卒女性の特性は、生き方の多様性です。これは、社会に出てからの年数が比較的短い彼女たちが、職業キャリアや家族形成の過渡期にいるために生じている状況だとみることができます。

 

まず、やや意外なことに、彼女たちの4人に1人は無職です。確かに、高学歴専業主婦ということもいわれますし、さまざまな事情から、仕事を休んで家庭に入っている人がいるのでしょう。他方で、有職者についてみると、多くが威信の高いホワイトカラー職に就き、就労時間も比較的長く、同世代の大卒男性と肩を並べる働き方をしています。そして彼女たちの3人に1人は、最初の勤務先をやめることなく働き続けています。

 

個人年収は必ずしも多くはないのですが、彼女たちの6割は結婚しており、配偶者の7割は大卒層であり、既婚の世帯は一定の豊かさの水準にあります。
次世代を産み育てるということについては、現時点での彼女たちの子ども数は0・91人ですから、子どもはいないか、いても1人だけという状態の人たちが多数だということになります。これは同世代の非大卒女性や、上の世代の大卒女性と比べるとかなり少ない実績にとどまっており、今後の動向が注目されます。

 

彼女たちは、半数以上が大卒家庭をバックグラウンドとしており、地方居住者が少なく、逆に都市部では、彼女たちが最多数派の「若者」となっています。

 

◇【若年非大卒女性】――不安定な足場、大切な役割

若年非大卒女性については、経済基盤の脆弱さが気がかりです。個人年収は「8人」のなかで最も少ない140・2万円で、月当たりの労働時間が短く、世帯年収も多くはありません。何かのきっかけで貧困に陥りかねないところにいる女性たちだということです。

 

仕事をしている人たちの職種は、ホワイトカラー職が半数、販売・ブルーカラー職が半数という比率です。既婚者はおよそ7割ですが、そのうち10人に1人はすでに離別しています。そして彼女たちのパートナーの多くは、やはり社会経済的に不利な境遇にいる若年非大卒男性です。

 

このような不安定な生活条件にありながら、彼女たちは、わたしたちの社会に対してたいへん大きく重要な貢献をしています。それは、若年層のなかでは飛び抜けて子ども数が多いということです。そして20~30代という年齢を考えれば、この後も彼女たちの子ども数は増えていくことが見込まれます。20歳までに社会人となって、ライフステージを早めに進行させ、既婚率も高い若年非大卒女性たちが、現代日本の少子化を遅らせる重要なはたらきを一手に担っているのです。

 

母親として子どもを産むということは、他の人たちが代わって担える役割ではありません。他の「7人」は、他人事だと思わず、彼女たちの生活の基盤の安定と水準の向上について、直接的、間接的にサポートをする心構えをもたなければなりません。

 

◇【若年大卒男性】――絆の少ない自立層

若年大卒男性は、若年層の4セグメントのなかで最も個人年収が多く、非正規雇用率も低く、ホワイトカラー職に従事している人たちが多く、しかもその半数は専門職です。その結果、管理職や経営者は年齢的にまだ少ないにもかかわらず、職業威信は全体の2番目の高さです。

 

ただし、かれらを壮年大卒男性と比べると、収入面でも雇用面でも職業威信でも、現時点では大きく水をあけられています。また彼らの半数以上が、すでに最初の従業先から離職しているという流動性の高さも、上の世代とは異なる特性だといえます。

 

彼らは、同世代の若年層のなかでは、社会経済的地位が最も安定しているのですが、ほぼ半数が未婚者で、子ども数は「8人」のなかで最も少ない0・84人にとどまっています。この親密な絆の少なさを、自由を謳歌しているとみるのか、寂しい状態にあるとみるのかは難しいところでしょう。ただ、若年層とはいいますが、彼らの6割は30歳を過ぎているわけですから、未婚率の高さはやはり気になります。
彼らは半数以上が大卒家庭出身で、居住地は都市部に集中しています。

 

◇【若年非大卒男性】――不利な境遇、長いこの先の道のり

最後にみるのは、若年非大卒男性(レッグス)です。すでにおわかりのとおり、「8人」のなかで彼らだけは、他からやや切り離された位置にいます。
まず、その生い立ちは、両親の8割以上が高卒または義務教育卒です。彼らは、出産育児や家事負担をあまり考えないであろう、いわば「働き盛り」の男性たちであるにもかかわらず、5人に1人が非正規・無職で、正規職に就いているのは5人中4人にとどまります。

 

職歴を省みると、一度就業した従業先を離れた経験をもつ人は63・2%で、3カ月以上の失業・職探しの経験者は34・0%、すでに3度以上の離職経験をもつ人が24・0%と、職業人としての歩みがたいへん不安定であることがわかります。

 

読者のなかには、彼らと日常的な接点が少なく、実像をつかみかねているという人もいるかもしれません。彼らが現在就いている職業名は次のとおりです(SSM2015における職業小分類をとりまとめたもの。カッコ内は従事者の比率)。

 

機械・器具の組立・修理工(9・2%)、鉄工・板金工などの金属加工工(6・8%)、運搬・自動車運転者(6・3%)、販売職(6・1%)、左官・とび職(4・9%)、自動車組立・整備工(4・6%)、土工・道路工夫・配管工(4・4%)、介護員・ヘルパー(3・4%)、総務・企画事務員(3・4%)、電気工事作業者(3・2%)、現場監督・建設作業者(2・4%)、料理人(2・4%) 、外交員(2・4%)……ここまでで6割。ほかに、看護士、一般事務員、自衛官、製図工、労務作業者、出荷・受荷事務員、ガラス・セメント製品製造作業者、 倉庫夫・仲仕、清掃員、理容師、美容師、娯楽場等の接客員、監視員、食品製造工……。

 

これらを総合したこのセグメントの平均職業威信は、他の男性たちよりも有意に低く、同世代の女性たちと同水準にあります。彼らのうちの有職者の労働時間は、他の男性たちと同程度に長いのですが、個人年収は、「先輩」にあたる壮年非大卒層より150万円近く低い、300万円台前半にとどまっています。
こうした不利な状況にありながら、彼らはこの先、「8人」のうちのだれよりも長く、日本の労働市場に居続けなければならないのです。

 

 

以上のとおり、現役世代の内部には、壮年大卒男性を最上位に、若年非大卒男性を最下位においたコントラストが見出されました。
現代日本の現役世代のチームは、たとえていえば、キャプテンがエースを兼ねていて、ちょっとずる過ぎるくらい活躍の場を独占しているような状況にあります。それが壮年大卒男性です。

けれども、このチームには、攻撃にも守備にも参加させてもらっていないメンバーがいます。それが若年非大卒男性です。よって、この先で日本社会の陣形が崩れていくことがあるとすれば、若年非大卒男性のポジションからだということは容易に予測がつきます。

この歪みは、20世紀の成長の恩恵に与ることができた上の生年世代の人びとと、21世紀の停滞のなかでの自由競争のデメリットをまともに被った下の生年世代の人びとが、現役世代内に共存しているために生じている、構造的な問題だと理解することができます。

ここで描き出した「8人」のプロフィールは、あらゆる人にピタリとあてはまるものではありませんし、セグメント間には特性の重なりもあります。それでも、それぞれの置かれた入れ替わることのできない社会的な立ち位置に、明らかな分断があることが、あなたにもみえてきたと思います。

 

※以上、吉川徹氏の新刊『日本の分断 切り離されるレッグス(非大卒若者)たち』(光文社新書)を元に作成いたしました。

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日本の分断切り離される非大卒若者たち

吉川徹(きっかわとおる)

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