事業の説得力を高める「PEST分析」4つのポイント
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ryomiyagi

2020/03/06

 

外部環境が激しく変わり、プロダクトやサービスのライフサイクルがどんどん短命になる現代では、より早く、より多く新たなビジネスを生み出す組織・人材が必要とされる。イノベーションとは何か? そして継続的に新規事業を創出する企業に共通する「科学」とは。

 

※本稿は、田所雅之『御社の新規事業はなぜ失敗するのか?』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

 

■現状を正確に把握する

 

外部環境においてどのような変化が起きているか。これからどんな方向に社会が変化していくか。そうしたトレンドを大まかに掴むことは、未来を構想するために必須である。

 

「外的環境の変化」を察知していくためには、具体的にどんなことに注意していくべきなのだろうか。そこではいわゆるPEST分析が一つの有効な手段になるだろう。

 

PEST分析とは、政治(Politics)、経済(Economics)、社会(Society)、技術(Technology)の頭文字をとったもので、事業環境を分析する際のフレームワークの一つである。それぞれについて簡単に説明しよう。

 

Politics(政治、規制、国際情勢)

 

法改正や条例制定・変更など政治に関係した動向はどうなっているか? たとえば、特定の市場において規制が緩和されるような動きはないか? 逆に、規制が厳しくなるようなリスクはないか? それらの変更により、マーケットにはどのような需要が生まれるのか?

 

これらは市場のルールそのものを変える典型的な要素であり、イノベーション云々以前にまず押さえることが欠かせない。法改正などに向けた動きは、ある程度リサーチすれば比較的簡単に把握できるし、少なくとも現時点で、自分たちの業界を取り巻く規制を知っておくことは大前提になる。

 

逆説的であるが、「規制が強い業界」のほうが、チャンスが大きい。「規制が強い」ということは、ユーザーは、「悪いUX」を強いられている場合が多い(多くの書類提出、わかりにくいプロセス、規制対応など)。

 

そこを抜本的に改善するUXを提供することができれば、一気に市場を席巻できる糸口を掴める。たとえばSmartHRなどは、まさに、規制が強く、さまざまな書類が必要な人事労務業務に対して、最適なユーザー体験を提供し、PMFを果たし、大型調達して、急成長している。

 

また、業界によっては法整備が現実に追いついておらず、「未法」状態のまま放置されているような領域がある。その場合には、自分たちでルールそのものをつくっていく余地すらあるかもしれない。一定の余剰価値を生み出せるようになったスタートアップ企業に対しては、私はある程度のロビー活動を行っていくことも勧めている。たとえば、コンソーシアム/協会のような「横のつながり」をつくって、政治に対して働きかけを行っていくことも、場合によっては検討するべきだろう。

 

Economics(経済、消費動向、所得の変化)

 

マクロ経済の動向はどうなっているか? 人々の所得はどう変化しているか? 消費スタイルはどう変わるか? 要するに、顧客を取り巻く経済状況がどのようになりそうかを理解しておく必要がある。これは、ユーザーの「買い方」や業界のバリューチェーンのあり方に大きな影響をもたらすからだ。

 

たとえば、「所有型」から「利用型」への消費スタイルのシフト。かつては一家に1台の車を「所有」するのが一般的だったが、カーシェアリングや配車サービスのように、必要なときに必要な機能を「利用」するかたちにお金の使い方が変化している。

 

サブスクリプション(定額課金)型のビジネスも、このようなトレンドのなかで理解されるべきだろう。音楽業界やビデオコンテンツ業界は、すでに、「買い切り型」よりも「ストリーミング配信型」のシェアが高くなった(音楽はSpotify、ビデオコンテンツはNetflixが代表格だ)。

 

ソニーも一定タイトルのゲームを上限なく楽しめるPlayStation Plusという定額サービスを開始している。このように、業界の古株や大手も、このサブスクリプションモデルに参入することでトレンドはますます加速し、ありとあらゆる業界に広がっていくだろう。

 

このようなエコノミーが一般化すると、企業と顧客との関係性にどのような変化が生まれるだろうか? おそらく、「商品を売ってそれで終わり」という従来のビジネススタイルは、しだいに廃れていくだろう。むしろ、これからは「売れたあとの世界」が大事になってくる。

 

顧客と継続的につながるなかで、どんなバリューを購入後にも継続して提供していくかという視点が不可欠になる。

 

Society(社会、人口動態、人の嗜好性/価値観の変化)

 

人口動態の変化は、市場に最も影響を及ぼす要素の一つであり、比較的、高い精度で予測できる。5年後、10年後には、各世代の人口比率はどうなっているのか? 家族構成は、どう変化するか? これは政府機関が出しているオープンデータに当たれば、簡単に調べがつくことである。

 

社会についてもう一つ押さえておくべきなのが、人々の嗜好性である。これは人間の需要構造にダイレクトに影響する。たとえば、先進国を中心にして、人々の健康(Well-being)に対する意識は大きな高まりを見せている。それに伴って、喫煙率はどのように変化してきたか? 今後、新興国でも同じような動きが出てくるとすると、どんなビジネスチャンスがあるだろうか?

 

あるいは、環境に対する意識なども、価値観の変化の一つと言えるだろう。SDGsが注目されサステナビリティが重視される現代のような時代では、地球環境に著しい負荷をかけるビジネスモデルは社会に歓迎されないし、実際に継続していくことは難しい。

 

Technology(技術)

 

テクノロジーの動向を理解するために、テクノロジーを成り立たせている原理原則やその歴史を理解することを心がけるべきだ。またその技術には何ができて、何ができないのかを大づかみでいいので知っておくようにする(現時点、3年後、5年後、10年後の実用可能性の範囲)。

 

たとえば、「AI(人工知能)が人々の仕事を奪う」というような言説を前にして思考停止に陥ってはいないだろうか? 人工知能は決して「全知全能の神」のようなものではない。汎用的人工知能は少し先の未来でないと実装ができないと言われるように、人工知能は現在何ができるのか、今後5〜10年で何ができるようになり、何ができないのかはわかるはずだ。そのうえで、自分たちのビジネスにはどんな活用の余地があるのか、逆に、どの部分では強みを維持していけるのかといったことを検討していく必要がある。

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