栗山監督、無観客でも「どんな状況でも我々は野球に向かって準備していくだけ」
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写真・野口博(flowers)

 

新型コロナウイルスの感染拡大は、スポーツ界にも影響を及ぼしている。プロかアマチュアかを問わずに、様々な競技の大会やリーグ戦が延期や中止を余儀なくされている。

 

プロ野球はオープン戦を無観客で行なっている。各チームは3月20日のシーズン開幕へ向けて準備を重ねているが、事態が収束へ向かわなければさらなる対策を迫られるかもしれない。

 

感染の拡大が懸念される北海道には、パ・リーグの北海道日本ハムファイターズがある。チームを束ねる栗山英樹監督は、「苦しい思いや大変な思いをされている方がたくさんいる。オープン戦が無観客になるとか、そんなことは大したことじゃない」と言葉に力を込める。老若男女を問わずに我慢強さや辛抱強さ、あるいは忍耐や根気が問われる局面だからこそ、他者の痛みを自分事として受け止めるのだ。

 

58歳にしてなお「自分には勉強が足りない」と話す彼は、野球界随一の読書家として知られる。日々の練習や試合について書き留める野球ノートには、『論語』、『韓非子』、『易経』、『四書五経』などの古今東西の古典から抜き取った言葉や、実業家や思想家、あるいは歴史家や科学者などの人生訓までが書き込まれている。

 

新型コロナウイルスの感染拡大という不測の事態に日本全体が見舞われているなかで、栗山監督は何を思うのか。光文社から発売中の『栗山ノート』に、手がかりを見つけることができる。

 

野球ノートから50以上の言葉を抜き出した一冊に、『易経』の「習坎はまことあり。これ心亨る。行けば尚ばるることあり」がある。東洋思想の原点ともいわれる『易経』の教えのひとつを、「大変な苦しみに遭いながら、そこから多くのことを習う。心のなかにある嘘偽りのない思いは何よりも強い。勇気をもって苦しみと向かい、また楽しいときが来ると信じて進んでいく」と噛み砕く。そこからさらに自身の日常を省みて、明日の行動指針として胸に刻むのだ。

 

「苦しみに遭うと、私たちは視野が狭くなりがちです。自分のことで精いっぱいになってしまう。しかし、自分より大変な時間を過ごしている人はいるはずで、そもそも苦しみや悩みを抱えていない人などいないでしょう。『自分の最善を他人に尽くし切る気持ち』を、忘れないようにしたいのです」

 

感染拡大を防ぐために、たくさんの人が汗を流している。「普段どおりの生活」を投げ捨て、不自由を覚悟している。家族のため、友人のため、隣人のため、同僚のため、もっと言えば名前も知らない人のために、自分の欲求を心の奥底に閉じ込めている。

 

栗山監督も同じだ。「どんな状況でも我々は野球に向かって準備していくだけ。国民として、どういう姿勢を見せられるか。プロ野球選手が発信することが大事だと思う」と語り、うがいや手洗いを率先し、不要不急の外出を控え、野球に打ち込んでいる。

 

『栗山ノート』は昨年10月に発売された。新型コロナウイルスのような事態は、もちろん想定していない。それでも、いまこの時点に読んでも共感できる内容となっている。

 

おそらくそれは、古今東西の名著が普遍的な道徳心を定義しているからである。そして、21世紀を生きる私たちにふさわしい解釈を、栗山監督が提示しているからである。

 

スポーツライター 戸塚啓

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