水生大海 五十三階を上る 「宝の山」
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ryomiyagi

2020/03/17

日本で一番高いビル、あべのハルカスの五十三階にはなにが入ってましたっけ。通常はエレベーターでの移動ですよね。一階から六十階までを走り上るハルカス・スカイランというイベントがあると聞いて驚いたものです。

 

五十三階。スマホのヘルスデータが叩きだした、とある一日に「上った階数」のアクティビティの数値です。

 

新刊『宝の山』は、災害に見舞われて人口流出が続き、衰退している山間の村、架空の場所が舞台です。山がこうあり、隣の自治体とはこのぐらいの距離で、とあれこれ設定しました。小説がある程度の形になってから、情景描写を補おうとさらにイメージハンティングに。雰囲気をつかむためなので、観光地を選びます。美味しいものも食べられたらいいな。

 

と思っていたのになぜか、五十三階。

 

その町は山城が有名でしてね。しかしなにを血迷って登る気になったのか。城下町、門の跡、櫓の跡。急勾配の山道は、行けども行けども頂上が遠い。それでも山の上から見る景色は最高に美しく、ハイテンションになってさらに別の山城跡に。おかげで一日トータルの上った階数が、五十三階というわけです。

 

データから確認した最初の山城は、三十五階分に匹敵しました。三十五階でも充分高い。ここに住んでいた人たちは、どれだけ頻繁に麓と行き来していたんでしょう。住んでいるその場所から動けない人もいたのかも。

 

さて。『宝の山』の主人公、希子は災害で家族を失い、育ててくれた伯父の介護に明け暮れる毎日。その場所から動けない、いわば囚われた人です。奇妙な隣人に悩まされてもいます。ところが村を宣伝するために雇われたブロガーが消えたことにより、希子はその宣伝計画に巻きこまれていきます。その結果、山をさらに登るのか、それとも下りるのか。

 

物語が終わったとき、彼女が得たものはなにか。ぜひ本書をお読みになってください。

 


「宝の山」光文社
水生大海/著

 

【あらすじ】かつては温泉客で賑わっていた岐阜県宝幢村。希子は地震で家族を亡くし、伯父夫婦と暮らしている。隣家に住むのは、Iターンしてきた長谷川一家。いつも頑丈に鍵が掛けられ、村人から不審がられていた。ある日、村おこしのために雇われた女性ブロガーが失踪する。

 

PROFILE
みずき・ひろみ 2008年『少女たちの羅針盤』で第1回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞優秀作受賞。’09年に同作でデビュー。著書に「ランチ探偵」シリーズ、「社労士のヒナコ」シリーズなどがある。

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