「自分らしく生きる」とは他人と同じ「数値」を目指さないこと|柚木麻子さんインタビュー
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ryomiyagi

2020/03/21

短期集中連載の最終回は、首都圏連続不審死事件にヒントを得た『BUTTER』が話題の柚木麻子さん。小説のモチーフにも重なる「自分らしく生きる」というテーマに、柚木さんが出した答えとは…。

 

©齊藤 晴香

 

同じ数値を目指すのではなく“自分の適量”を探すこと

 

柚木麻子さんの長編小説『BUTTER』は、過日、週刊誌のデスクと獄中結婚したことで世間を驚かせた木嶋佳苗死刑囚の事件がモチーフ。主人公である30代の週刊誌記者・里佳が、殺人事件の容疑者・梶井真奈子を取材しながら“自分らしく生きる”とはどういうことかを模索する物語です。

 

柚木さんは「自分らしく生きるためには、自分の適量を探すことが必要ではないか」と指摘します。

 

「これは『BUTTER』のテーマの一つでもあるのですが、作中、里佳は食べたいものを食べて10キロ太ります。私は“全員が太らなくちゃだめ”ということを言いたかったわけではないんです。里佳はファッションにさほど興味がなく、仕事が忙しくて体力勝負なところもあるから健康的な体形のほうが合っているというだけのこと。それが“自分の適量を知る”ことです」

 

柚木さんは料理雑誌の編集者から聞いた話を紹介します。

 

「レシピに“塩少々”と書くと何グラムと書いてくれないと失敗するとクレームが来るそうです。でも塩の適量は人それぞれ違うはず。自分の判断に自信が持てないから、一様に同じ数値を目指す人が増えているのかもしれません。自分らしく生きるとは“同じ数値を目指さない”ことでもあると考えます」

 

ではなぜ「自分の適量がわからない」のか。柚木さんは続けます。

 

「失敗を繰り返さないと、自分にとっての適量はわかりません。でも、失敗を恐れるようになる背景も理解できるんです。やせているほうがいい、控えめなほうがいい、透明感のある女性がいいなど、女性にとっての不自由な言説はたくさんあります。どれも女性に対する暴力や侮蔑の表れ。それなのに、世の中には歯を食いしばって超人的努力ですべてを手に入れる体力、気力がある人がまれにいるので、完璧にできる自信がない女性はますます失敗を恐れるようになる。
結局“自分らしく生きる”とは日常に潜む差別と闘うこと。女性男性関係なく身近な差別に気づき、問題が起きても“私が無能だから起こった”と思わないことです。この考えを捨てて“本当に私のせいか”と考えることが自分らしく生きることには必要だと思うのです」

 

鋭く分析する柚木さんが自分らしく生きるために必要なのは、寝る前に海外ドラマを見ること。

 

「ハマっているドラマは『マーベラス・ミセス・メイゼル』で主婦がコメディアンになる話。日本では女が失敗したらやるべきじゃなかったと言われますが、メイゼルは失敗しようがなかったことのようにしてちゃんと進んでいく。そこに、本当に元気をもらえます」

 

では、あなたはどうします?

 

■柚木さん一押しの「自分らしく生きる私」の背中を押してくれる3冊

 

結愛へ 目黒区虐待死事件 母の獄中手記』小学館
船戸優里 /著

 

「目黒区虐待死事件の被告の一人である母親の手記。“再婚した夫が連れ子のわが子に暴力をふるうのを見て見ぬを振りをした悪い母親”と世間では思われているが、彼女も夫からのDVの被害者だった。彼女が自分の声を取り戻し、事件を振り返る。自分らしく生きるとはどういうことなのか考えさせられる」

 

愛という名の支配』新潮社
田嶋陽子/著

 

「田嶋陽子さんといえばテレビで怒っている人のイメージかもしれないが、本書を読めば彼女が言っていることが至極全うだとわかる。初版本は’92年だがまったく古くない。学術的フェミニズムではなく母親との関係のなかから女性への抑圧を語り、彼女自身もまた自分らしさを取り戻していく過程をつづる」

 

ルイーザ・メイ・オルコットの日記 もうひとつの若草物語』西村書店
ジョーエル・マイヤースン/ダニエル・シーリー/編
マデレイン・B・スターン/編集協力
宮木陽子/訳

 

「『若草物語』の著者が10歳から亡くなる4日前まで書いていた日記。父親は社会活動家だったが生活力もなく愛人もいたらしい。そのためオールコットは姉妹たちを学校にやるために作家になるのだが、そこには複雑な感情も。引き裂かれた気持ちを抱えながら、仕事をもって自分らしく生きた彼女に胸を打たれる」

 

■柚木さんの新刊

 

BUTTER』新潮社
柚木麻子 /著

 

男を3人だまし、金を奪って殺した罪で捕まった梶井真奈子。だが彼女は若くも美しくもなかった。週刊誌で働く30代の女性記者・里佳は、梶井への取材を重ねるうち、欲望に忠実な彼女の言動に振り回されるようになる。

 

PROFILE
ゆずき・あさこ◎’81年、東京都生まれ。’08年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞を受賞。’10年に同作を含む『終点のあの子』でデビュー。’15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞受賞。ほかに『本屋さんのダイアナ』『マジカルグランマ』など。

 

聞き手/品川裕香
しながわ・ゆか◎フリー編集者・教育ジャーナリスト。’03年より『女性自身』の書評欄担当。著書は「若い人に贈る読書のすすめ2014」(読書推進運動協議会)の一冊に選ばれた『「働く」ために必要なこと』(筑摩書房)ほか多数。

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