暇や退屈は脳の「あたため期」になっている 科学が証明する、“ぼーっとする時間”の必要性
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広い地域で外出自粛が要請されてからしばらくが経ちました。命の危険、生活の危険。様々な苦しみが私たちを襲う中で日々は閉塞的になり、どうしようもない無力感に苛まれることもあるかもしれません。ただ、現在ケンブリッジ大学で音楽の神経科学を専門に研究をする脳科学者・大黒達也さんは、数百の論文を参照した上で、暇な時間、退屈な時間、何も考えずぼんやりする時間は決して無駄でなく、自由な発想やひらめきを生む大切な時間…「あたため期」であるといいます。今だからこそ、自分自身をあたためてあげませんか。

本稿は、大黒達也『芸術的創造は脳のどこから産まれるか?』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

 

■暇な時間=「あたため期」

 

机に向かって何時間もずっと考え事をしている時よりも、その場から離れて散歩したりぼんやりしたりしている時に、ふとアイデアや解決策が降ってくるというような経験はないでしょうか。

 

例えば、ギリシャの学者アルキメデスは机に向かって考えている時ではなく入浴中にアルキメデスの原理を思いついたそうですし、フランスの数学者のアンリ・ポアンカレは、行き詰まっていた問題から一度離れ散歩のために馬車のステップに足をかけた瞬間に突如答えが降ってきたというエピソードが知られています。

 

彼らは、我々にはない非凡な何かを持っているのでしょうか? これらのエピソードに共通することとして、「問題を考えていない時」に大発見が起きているようです。

 

ノースカロライナ大学のキース・サウヤー教授は、50年以上にもわたる創造性に関する研究をまとめた著書『Explaining Creativity』の中で、創造的な発想を生み出すためには、ある共通的なプロセスが必要であると報告しています。このプロセスをよく表しているモデルとして、社会心理学者グラハム・ワラスによる「創造性が生まれる4段階」が特に用いられています。

 

 

第一段階「準備期」では、創造性を生み出すための下準備をし、第二段階「あたため期」では、一度その問題から意識的に離れます。そして、第三段階の「ひらめき期」にて創造的発想が突然生まれ、最後の第四段階「検証期」では、その発想が正しいかどうかを確認する作業が行われます。

 

このうち、第三段階「ひらめき期」は、どのように解決策が導かれたのか本人にもわからないような唐突なひらめきの瞬間であり、アルキメデスやポアンカレが発見した瞬間に相当するでしょう。よって、ひらめき期にたどり着くためには直前の第2段階の「あたため期」に何をしているかが重要になってくるのがわかります。

 

■孵化効果

 

第一段階の「準備期」では論理的思考に基づいて問題解決に熱中していますが、これはおそらく真面目にかつ本気で問題解決に取り組んでいるヒトなら誰でもしていることだと思います。よって、大発見できるか否かの大きな鍵は、第二段階の「あたため期」を持つかどうかにかかっているようです。

 

「準備期」で満足のいく解決策が見つからない時「あたため期」では一度その問題から離れ、休息したり無関係なことをしていたりします。休息しているがゆえ問題解決から遠ざかっているように感じますが、実はこの「あたため期」では潜在的に思考が熟しつつあり、何らかの解決策が自然に出てくるのを無意識的に待っている期間ともいえるのです。

 

この「あたため期」をしっかりと持つことで、ついには「ひらめき期」がやってきます。このように、暇な時間をとることがクリエイティブな思考を生み出すことに繋がると考えられています。

 

特に散歩はその一つで、散歩の習慣がある人とない人とでは、創造力に大きく差が出るといわれています。このように、一旦問題から離れることで解決が促進される効果を「孵化効果」と呼びます。孵化効果を最大限に利用するためには、必死に考える(準備をする)~一旦休む(あたためる)~急に何かを思いつく(ひらめく)というプロセスを意識して行うことが大切なのです。

 

■マインドワンダリング

 

孵化効果を促進する重要な要素として、マインドワンダリングという概念が注目されています。マインドワンダリングとは、いわゆる「心ここにあらず」といわれる現象であり、今この瞬間に起こっていることに注意を向けず、関係のないことを考えて心が彷徨っている状態のことをいいます。

 

マインドワンダリングは特に、退屈な時や疲れを感じている時に生じることが明らかになっています。また、このマインドワンダリングが頻繁に生じる状況というのは、認知的負荷の低い状況で脳を休憩させている期間ともいえます。

 

実は、世界中の様々な研究機関にて、このマインドワンダリングが創造的思考を促すのではないかと、近年報告されています。

 

カリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究チームは、被験者に認知的負荷の低い簡単な課題、または認知的負荷の高い簡単な課題を行ってもらい、さらに創造的な問題も解いてもらいました。その結果、認知的負荷の低い簡単な課題を行った群では、そうでない群に比べて頻繁にマインドワンダリングが生じ、再度取り組んだ創造的な問題解決の成績も向上したそうです。

 

神経生理的実験においても、マインドワンダリングが行われている時では、内側前頭前野を含むネットワークで、自由で創造的な思考やアイデアの発想、ぼーっとしている時に活性化するといわれているデフォルト・モード・ネットワークが活動することがわかっています。

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