「翻訳」してませんか? 学校では教わらない外国語学習法|マルチリンガルは「脳内辞書」を分けている
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ryomiyagi

2020/05/06

 

何ヶ国もの言語を操る「マルチリンガル」の方を見て、なぜあれほどスムーズに言葉を切り替えられるのか、不思議に思ったことはありませんか? 日本の学校教育では、英語などの外国語を学ぶ際、一般的に、単語の意味や文法的法則を意識的・意図的に学ぶ「顕在学習」をしていきます。しかし脳科学者の大黒達也さんは、多くのマルチリンガルは、スポーツやピアノ演奏のように経験と練習を積み重ねる「潜在学習」を実践しているといいます。彼らの脳内はどんな風に働いているのでしょうか。

 

本稿は、大黒達也『芸術的創造は脳のどこから産まれるか?』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

 

■マルチリンガルは潜在学習のエキスパート

 

多くの実験結果によると、マルチリンガルではモノリンガルに比べて言語の潜在学習(統計学習)能力が優れていることがわかっています。

 

例えば、二言語を流暢に使いこなせる人(バイリンガル)は、第三言語においても高い潜在学習能力を発揮するそうです。単一言語だけ潜在学習した一般的な人よりも、2つの言語を同時に潜在学習した人は、潜在学習の訓練を通常の倍行っているので、第三言語においても潜在学習のエキスパートとなるのです。

 

では、多言語を流暢に使いこなすマルチリンガルの脳は、一般的なモノリンガルの脳と、何が違うのでしょうか?

 

■「脳内辞書」を分ける

 

モノリンガル脳とマルチリンガル脳の例。
ここではわかりやすくするためバイリンガルで説明している。

 

母国語の語彙は、脳内の長期記憶貯蔵庫にある辞書に保存されています。この脳内辞書は、成人になってから新たに学んだ語彙であっても、同じ母国語の脳内辞書にてアップデートしていくことが可能です。

 

一方、モノリンガルが第二言語の語彙を学ぶ際は、母国語の脳内辞書を活用して、和英辞書なるものを作成します(図左)。つまり、モノリンガルが第二言語を話す場合は一般的に(*注1)、一旦母国語で話す文章を考えてから、その翻訳文を作成するのです。

 

つまり、脳内に存在する辞書は一つだけであり、第二言語への翻訳は、あくまで母国語辞書に存在する語彙の範囲内で可能です。

 

一方、マルチリンガルが多言語を学ぶ際は、言語別に辞書を用意しているといわれています。そして、ある言語の語彙を習得する時は、他の言語の辞書をいじらずに、相当する言語の辞書だけをアップデートします(図右)。

 

つまり、モノリンガルが第二言語を話す際は(*注1)、まずは第一言語で考えてからそれを翻訳しているのに対し、マルチリンガルでは話す言語によって、脳の辞書の“スイッチ”を切り替えているのです。

 

潜在学習でも同じことがいえます。マルチリンガルでは言語別に独立して潜在学習(=統計学習)を行い、それぞれの言語の統計的辞書に保存していると考えられています。当然といえば当然かもしれません。潜在学習は、あらゆる知的対象(言語、音楽、運動など)に共通する、普遍的な学習メカニズムです。

 

しかし、たとえメカニズムが同じであっても、言葉から音楽に、または運動から音楽に訳すことは一般的には不可能です。つまり、音楽は音楽、言語は言語、運動は運動でそれぞれ潜在学習をし、獲得された知識は別々の辞書に保存しているのです(*注2)。

 

本来、言語だけに関して考えても、各々の文化で独立して進化してきた別の情報を、文化間である程度共有できるようにするために意図的に翻訳が考えられてきました。実際、辞書では訳として提示されている語彙であっても、文化間でその語彙に対する概念や感覚が少し異なるということは多々あります。

 

言語そのものが、その国の性格や特性に合わせて育ってきたので、本当の意味で言語を獲得するためには、その国の文化そのものを体感しながら、意味や訳を考えずに、潜在的に学んでいく必要があるのかもしれません。

 

■翻訳しない

 

これまで説明してきたことからもわかるように、モノリンガルが英語などの第二言語を流暢に話せるようにするには、外国語を聞いたり話したりする時になるべく母国語を介さないことが大切です。毎回母国語から訳文を考えていると、いつまでたっても脳に“英語独自の辞書”が作られず、英和辞書の「検索スピード」が上がるだけになります。

 

本来、スムーズに何かの情報をアウトプットするためには、その情報のためだけの辞書を脳に作ってあげるのがいいのです。その方法として、例えば洋画を見る時に字幕をつけないなどが考えられるでしょう。字幕があると、映画の内容を理解したいがためにどうしても字幕をみてしまいます。

 

また、第三言語を現地で学ぶと逆に第二言語の英語能力があがることもあるそうです。

 

この現象を脳内辞書の観点から考えてみると、例えば、英語を日本国内で学ぶ時、訳文を日本語で考えてしまったり、英会話中に英語がわからなくなると日本語に逃げてしまったりします。大多数が日本語使用者なので、どうしても便利な日本語を介したくなってしまうのです。

 

一方、例えばドイツでドイツ語を学ぶ時、訳があるとしたらそれは英語で表記されることが多いです。また、会話中にドイツ語がわからなくなった時は、多くのドイツ人が理解できない日本語よりも、ドイツの第二言語である英語を使うことが多いので、少なくとも日本語が介入することはありません。

 

こうやって、脳内の英語辞書と日本語辞書の親密性を強制的に切り離すことが重要です。

 

*注1:第二言語を流暢に話せるモノリンガルを除く。

 

*注2:感覚の一受容系で受け止めた刺激がその感覚器官以外の系統に属するはずの感性反応を引き起こす「共感覚」(synesthesia)という症状もある。例えば、ある色をみると音が聞こえるなど。筆者も弱い共感覚があり、それが即興演奏能力に結びついています。

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芸術的創造は脳のどこから産まれるか?

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大黒達也

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