血液型、漫画キャラ…「あなたは〇〇タイプ」診断の危険性
ピックアップ

ryomiyagi

2020/05/07

「自分とは何か?」就職活動、社会人生活、家庭の中で……。人生の様々な場面でぶつかるこの問いに、就活中の具体的な問題の解説から、心理学、ソクラテス以来の哲学までを横断し、生徒5人とそれぞれの専門家とのディベート形式で迫っていく高橋昌一郎『自己分析論』。その中から、私たちもよく目にする心理カウンセリングに用いられる「類型論」について、ご紹介します。

 

※本稿は、高橋昌一郎『自己分析論』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

 

 

■「スヌーピーでカウンセリング」には問題あり?

 

文学部A 精神科医エイブラハム・ツワルスキーは、アメリカでたくさん本を出版していて、驚きました。日本でも『スヌーピーたちのいい人間関係学』とか『23のマンガによる心理カウンセリング』のように、何冊も翻訳されていますね。

 

心理カウンセラー 漫画の『スヌーピー』は、深い人間観察に基づいた作品だと思うし、大人が十分楽しめる内容であることもたしかね。ツワルスキーは、スヌーピー以外にも、いろいろな漫画を使って心理カウンセリングを行っていることで有名なんだけど、実は私は、彼の処方には賛成できないのよ。

 

経済学部C 漫画を使った心理カウンセリングって、おもしろそうですが、よくないんですか?

 

心理カウンセラー ツワルスキーの心理カウンセリングの様子を学会発表で見たことがあるんだけど、プロジェクターでクライアントに4コマ漫画を見せながら、あなたが家族に対して取った行動はルーシーの行動と同じだとか、仕事上で弱気になるのはチャーリー・ブラウンの精神状態と類似しているなどとカウンセリングしているわけ。

 

経済学部C わかりやすくて、よさそうですが?

 

心理カウンセラー 漫画がよくないというよりも、たった九種類の漫画のキャラクターにクライアントの行動を「類型化」してしまうことに問題があるのよ。

 

『スヌーピー』登場人物のパーソナリティ分類

1 何でも人のせいにする人[ペパーミント・パティ]
2 自分でないものになりたい人[スヌーピー]
3 思いこみが強い人[ウッドストック]
4 人をあやつる人、人にあやつられる人[ルーシーとライナス]
5 いつも自分に自信がない人[チャーリー・ブラウン]
6 自分中心でまわりが見えない人[シュローダー]
7 不機嫌で怒りっぽい人[ルーシー]
8 優等生すぎる人「マーシー」
9 どこかずれている人[ピッグ・ペンとスパイク]

 

医学部E たしかに、安易に「類型化」しすぎる可能性がありますね。

 

■「類型論」の起源は紀元前400年から

 

心理カウンセラー そもそも人間を何らかの「類型(type)」で分類する理論は、古代ギリシャ時代から提唱されてきた。紀元前400年頃、「医学の父」と呼ばれるヒポクラテスは、人間の体液を「血液・黄胆汁・黒胆汁・粘液」の四種類に分けて、このバランスが崩れると病気になると考えたのね。

 

紀元100年頃になると、ローマの医師ガレノスが、これらの体液の量によって、人間の気質に違いが出てくるという「四気質説」を唱えた。血液が多いと「明朗・社交的」、黄胆汁が多いと「強気・短気」、黒胆汁が多いと「憂鬱・不安」、粘液が多いと「冷静・勤勉」といった気質が生じるとみなした。

 

理学部D 古代ギリシャ時代からローマ時代にかけての頃は、世界は「空気・火・土・水」で構成されているという「四元素説」が受け入れられていましたね。

 

心理カウンセラー その「四元素説」と「四気質説」を組み合わせて、「血液・黄胆汁・黒胆汁・粘液」が、それぞれ「空気・火・土・水」に対応すると説明されるようになった。「黄胆汁」が多い人は、「火」が燃え上がるように「強気・短気」だというようにね。

 

この種の「類型説」は、近現代になっても続々と登場した。1921年にドイツの精神科医エルンスト・クレッチマーは、著書『体格と性格』を発表し、人間の「体型」と「性格」に関連があると主張したよ。

 

彼は、精神病院の患者を診察しているうちに、痩せて「細長型」の人は「統合失調症」、太った「肥満型」は「躁鬱病」、がっしりした「筋肉型」には「てんかん」が多いことに気付いて、体型が人間の気質を決定すると信じるようになった。

 

理学部D 僕は、痩せている方に入るのかな?

 

経済学部C D君は、B君よりは痩せているけど、細長型ではないでしょう?

 

法学部B いやいや、僕の方がD君より体重は少ないはずだよ。でも、僕よりはD君の方が筋肉質だと思うけど……。

 

心理カウンセラー あはは、そこがポイントなのよ! そもそも人間の体型を「細長型・肥満型・筋肉型」のたった3種類に分けること自体、あまりにも大雑把で適当でしょう?
だからクレッチマーの類型説は、現代では学説として認められていないわけ。

 

■類型論が偏見を生んでしまうことも

 

理学部D 「血液型性格判断」も、たった四種類の「A型・B型・AB型・O型」の血液型で性格が決まると言っているわけだから、とてもサイエンスとはいえませんね。「O型タイプ」というだけで何千万人もいるわけだから、あまりにも杜撰なタイプ分けとしか言いようがない。

 

心理カウンセラー さきほど話した精神分析医ユングは、人間を「外向型」と「内向型」の二種類に大別した。さらに彼は、物事を論理的に捉えて理屈で判断する「思考タイプ」、自分の好き嫌いや喜怒哀楽を重視する「感情タイプ」、物事を理屈抜きに捉える「感覚タイプ」、物事の本質を閃きで捉える「直観タイプ」の四種類に分類した。

 

つまり、ユングは人間を2×4の8種類に分類したんだけど、あなたたちは、自分をどのタイプと思うかしら?

 

文学部A その分類だと、私は「内向型─感覚タイプ」のような気がします。でも「内向型─直観タイプ」かもしれません。

 

法学部B 僕は、「外向型─思考タイプ」かな。というか、それが僕の「理想自己」なんだよね。

 

経済学部C 私は、「内向型」でも「思考タイプ」でもないことは明らか。「外向型─感情タイプ」になるのかな。でも「外向型─感覚タイプ」の面もあるし、「外向型─直観タイプ」かもしれない。

 

理学部D いやいや、とてもマトモな分類とは思えませんね。僕は「内向型─思考タイプ」に分類されるのかもしれないけど、「感情」や「感覚」がないわけではない。そもそも「直観」が何を意味するのかも明確に定義されていないし……。

 

医学部E D君の言うとおりですよ。ユングは、かなり有名な精神分析学者だと教科書に登場しますが、こんな占いのようなタイプ分けを主張していたとは、驚きましたね。

 

心理カウンセラー それに気付いてほしかったのよ! 世の中には、「あなたは○○タイプ」と決めつける「類型論」が溢れているんだけど、これらはすべて極端な「ステレオタイプ」と思って間違いないわ。

 

経済学部C 「ステレオタイプ」って、どういうことですか?

 

心理カウンセラー 少数に当てはまる事例を、全体に当てはまるに違いないと信じ込んでしまうこと。私たちは「認知バイアス」と呼んでいるんだけど、ユングのような専門家たちでさえ、この種の「偏見」を抱いてしまうことも多いのよ。

 

理学部D 「アメリカ人は○○だ」とか、「中国人は○○だ」と決めつけるのがステレオタイプ。何億人もの人間のことを、たった一言で言い表せるわけがないじゃないか。この種のステレオタイプが嵩じて、ヘイトスピーチのようになってしまうこともあるから、僕らは注意しなければならないんだよ。

関連記事

この記事の書籍

自己分析論

自己分析論

高橋昌一郎

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を

この記事の書籍

自己分析論

自己分析論

高橋昌一郎