鈴木紗理奈という「姉」(2) 幾度となく踏みとどまった離婚 じれったいほど悩んだ末に出した結論
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ryomiyagi

2020/05/18

鈴木紗理奈は、不思議な立ち位置のタレントで、女優だ。50万人以上いる、紗理奈のインスタグラムフォロワーは、主に20代後半から30代。ちょうど北極星のように、40代半ばになった紗理奈の「今」は、年下の女たちにとってある種の道しるべになる。つねに夢を見せ続ける存在の松田聖子らとは異なり、ときに自虐的、でも黙っていれば美女、ときにプロの権化、生き方も器用なのか不器用なのか、ひと言では表しにくい。でも、気になる「姉」として輝き続ける。3月に出版したエッセイを傍らに、鈴木紗理奈について考察した。

 

 

先ごろ刊行された、鈴木紗理奈(タレント、女優)の『悩みは武器』(光文社刊)。

 

8LDKの豪邸に住み、数々の習い事をこなした少女が、大阪を飛び出してバラドルとして人気を博する20代、母として女優として輝きを増す30代と年齢を重ねるごとに変容していくさまが本人の言葉で語られる。

 

一見サクセスストーリーと思いきや、ものごとをバッサリ切り、思いどおりに生きてきたようにしか見えなかった鈴木紗理奈が、実はとことん悩み抜き、不安や葛藤のかけらだらけの道を歩いてきたことが分かる。

 

楽しい思い出を作りに来たハワイ旅行の真っ最中のホテルの部屋で、とうとう私たちは離婚の話を始めた。

 

『めちゃイケ』でバラドルとして成功を収めた彼女は、最愛の彼と結婚し母となった。

 

それは、20代の頃の私自身がに描いた人生設計とさほど変わらず(と言っても彼女のそれは圧倒的に華やかだが)、同じように夢を見、似たような幸せを願っていたように思う。

 

最愛の彼は、お嬢さん育ちで芸能界育ちの彼女が目からウロコが落ちるようなまったく異なる世界に生きていて、確かに男として魅力的だ。

 

しかし同時に自由人でもあり、一緒に暮らすと「結婚観」の違いはあまりにも落差があった。そこから生まれるギャップがどんどん彼女を苦しめていく。

 

それは幾らでも耳にする「よくある不幸な結婚生活話」だが、そんな中でも、前述したハワイ旅行のくだりには思わず目を覆った。

 

すでに互いの夫婦生活に大きな隔たりを感じていた彼女だが、少しでも楽しい時間を共有するために家族3人でハワイ旅行をする。

 

ところが、泊まっていた部屋に、誰かへの贈り物が堂々と置かれていた。夫が女性へのプレゼントを部屋に置きっぱなしにしていたのだ。
「これ何なの?」
と聞いたら
「プレゼントだよ、何が悪いんだよ」
と息子がいる前で初めて逆ギレされた。私たちの関係は離れて暮らすことでうまく行くどころか、知らぬ間に、もう修復不可能なくらい大きな溝ができていたのだ。
それどころか、「プレゼントを隠す」という私へのわずかな思いやりすらない関係にまでなっていた。

 

そうして彼女は、それまで口にすることのなかった「離婚」を前提とした話し合いを、仲直りするつもりで行ったハワイ旅行で始めることとなる。

 

互いにエンターテイメントの世界に生きる夫婦だからなのか、ここまで露骨なエピソードは、DVまがいのカップルにからしか聞いたことがない。いや、考えようによっては、これはすでにDVかもしれない。

 

身体的な暴力ではないけれど、精神的な暴力行為に他ならないように思う。その証拠に、以来紗理奈は、現在に至るまでハワイ旅行ができないでいるという。その辺りも、悪い思い出の場所に行くと身体に反応が出てしまうDV被害者の後日談に似ている……。

 

そして彼女は、そんな悲惨なやり取りをついに友人や母親に相談し、初めて離婚を決意する。家族も友人たちも、本心では別れたほうがいい、と思っていたのだ。

 

しかしそれでも、いざとなると、「やっぱり別れるのをやめようかな」と紗理奈の心は何度も揺らいでしまう。はっきり言って、「紗理奈、何迷ってんの!?」である。挙句の果てに、夫が離婚を翻意すると言い出し、紗理奈は実家の母に、離婚しない、と話しに行くのだ。

 

すると母は、
「戻ってもいいけど、ならば母娘の縁を切るね。どちらかあなたが選びなさい」

 

この彼女の母親の一言にこそ、一読者である私の気持ちが代弁されていた。それほどに、紗理奈の結婚生活は理不尽の連続で、一日も早い再出発を促したい思いで一杯だった。
そうして、忌まわしい事件の起きたハワイ旅行から半年後、ようやく婚が成立する。

 

さて、ここからの紗理奈の立ち直りは目を見張るものがある。タレント業と女優業に勤しみながら、子育てに奮闘する生活は、本当に大変だったと思う。

 

しかし、そんな彼女だからこそ、それまでの片意地と無理でできていた結婚生活では得られなかった、母親の協力や理解を得て順風満帆(?)なシングルマザー生活を送れるようになる(たぶん)。

 

その意味では、堅気の仕事ではなく、エンターテイメントという見えるお仕事だからこそ、周囲の共感が得られやすいのかもしれない。この辺りは、少し羨ましいかもしれない。

 

シングルマザーとなった彼女には、はやばやと好意を寄せる男性が現れる。それも、イケメンの年下男性が……。これだから、やはり華やかな世界に生きる彼女たち「芸能人」は違うんだと思った。

 

しかし彼女は、ある出来事をきっかけに、

 

私は息子が何よりも大切だ。
自分よりも大切だ。

 

と、シングルマザーを貫くことを改めて決意する。その姿はある意味とてもストイック。

 

レベルこそ違うが、似たような相談を友人からされた際、もしかすると同じような話をしたかもしれない。けれども、果たしてそれが私自身のことだったなら、彼女と同じ決意を持てただろうか。

 

それでも彼女は、女としての自分磨きは止めない。ま、それは当然。

 

今は、再婚しないときっぱり心は決めていつつ、プライベートな時間は女として生きてもいいし彼氏と過ごす時間があってもいいということが、自分の中での結論。
息子が巣立ってからの再婚はあるかもしれないけど、今はひとりで生きていく覚悟ができている。

 

ここまで読んだ私は、「その通り」とやっと胸をなでおろした。

 

確か、彼女がシングルマザーになった当時、芸能界にはちょっとした「ママタレブーム」が来ていたように思うけれど、彼女はそんなブームには乗らなかった。

 

それも、彼女一流の「自己分析」によるものだが、結果論かもしれないが正解だと思う。やはり彼女は、もっともらしく母親キャラだけを見せるより「可愛い顔して本音をしゃべるちょっと蓮っ葉なギャルのお姉さま」的なタレントでいて欲しい。

 

 

気づけば鈴木紗理奈という女性の生き方に共鳴・共感している私がいた。

 

親として子供に背中を見せていく中で、0か100かだけでなくて、50という闘い方もあることに気づいた。(中略)
十代二十代は、捨て身で仕事をしていた。(中略)
親となったこれからは50:50のバランスで仕事をしていけたらと思っている。
親になるということは本当にすごい。

 

とここでもまた、悩んで悩んで悩み抜く、鈴木紗理奈ならではの思考で結論を出していく。

 

昨年秋、紗理奈は最愛の息子を単身海外留学させた。息子さんは、まだ小学校高学年だというから驚きだ。私はそんなことは決意できない。小学生の子どもなんて、まだまだ溺愛したい年頃だ。

 

毎日私の手料理を食べて欲しい、毎日一緒にお風呂に入って話したい、毎日抱きしめたい。一緒に寝たい。

 

と、母として当たり前の逡巡を繰り返す彼女に、彼女のお母様は

 

「行かせた後悔は彼自身で取り戻せるけど行かせなかった後悔は取り戻せないよ。仕事が手につかないほどあなたが追い詰められたら、息子と話して帰国させればいいじゃない」
これ以上はないと思える素敵なアドバイスをしている。
そして彼女は、可愛い息子を、遠くイギリスのボーディングスクールへと送り出す。

 

そういえば先日、昨今のコロナ感染拡大に対するコメントを求められた彼女が、「息子から聞いた話」と前置きしてイギリスの例を例えにコメントしていた。

 

それも、日本とは全く違った篤い支援策を披露していたが、本書を読む以前の私にとっても説得力のあるコメントだった。

 

この本を読み、「あんな風に人生経験がコメントに生かされるんだ」と改めて彼女のタレント力を思い知らされた気がする。「人には、外から見ては分からない一面があるんだ」と思い知らされた。

 

画面越しに見ていた鈴木紗理奈と言うタレントからは、本書に描き出された悩んで悩んで悩み抜く女性像など微塵も感じさせられなかった。

 

こういう風になりたいと、いつもいつもイメージしていると、それがいつしか当たり前の精神状態になるから、自然にそうなっていく。だから、常に思い描いて、実践している。
たとえば、
「女優業うまくいっている」
「バラエティもうまくいっている」
「子育て絶好調」
「みんなが私の生き方を理解してくれている」
「正直に発信していることに、周りの人たちが共感してくれている」
「スタイルをキープできている」
こんな風に、そうなっていたいということをイメージしてきた。
そして今40歳、振り返ってみると、以前は憧れでしかなかったことも、気がついたら、それが普通の状態になっている。

 

と、本書の最後は締めくくられる。

 

本来ならば鼻持ちならない言葉だが、ここまで読んだ私が、スッキリとこの言葉を聞けていることに私自身が驚かされた。

 

『悩みは武器』(光文社刊)は、鈴木紗理奈と言うタレントが好きになり、また母として女優として応援したくなるような、そんなズルい一冊だ。

 

文・森 ヒロコ

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