受け手もメディアも様変わりした現代の広告のあり方とは?
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ryomiyagi

2020/05/28

 

ここ最近、SNSを中心にたびたび話題にあがる自治体のPR動画や企業CMの炎上。何となくふっきれない思いのまま、記憶の彼方に押しやられがちなものがけっこうある。その中には「これはアリなんじゃないか」「笑いをとろうとしているだけでは」と思うものがいくつかあって、一般の反応が過剰すぎるように感じられることも少なくない。もちろん、広告にたいする受け手の反応はさまざまだから、炎上した広告にも賛否両論あるだろう。

 

しかしCMの現状は、こうした炎上を放ってはおけない。ジェンダー論の専門家である著者は「あるターゲット層を明確にし、そこに訴求することを目指したCMは、制作者の意図はもちろん時代の意識を浮き彫りにする」と述べたうえで、これにはジェンダー問題が深く関係しているために、世の中で議論を呼び起こすのだと指摘する。

 

不幸にも炎上してしまったCMは、いったい誰にたいして何の共感をもとめていたのだろうか。本書は、ここ数年で批判の的にされたCMやPR動画が世間に公開された背景と批判された理由をひもとくことで、日本が今まさに直面している家庭のあり方や家事労働の課題、それへの可能な対策の探索に矛先を据えようとする。したがって、本書には、どこかで見かけたけれどいつの間にか消えていた類の問題広告がいくつも登場する。いっとき話題になっていたせいだろうか、数年前にちらりと見ただけなのに、不思議にも、そのほぼすべての広告をすぐに思いだすことができた。

 

例えば、ある家庭のお母さんの一日をオリジナルソングにのせて描いた味の素の企業CM。この動画は現在、公式サイトから削除され、簡単には見られなくなっている。結局、問題とされたのは、育児と家事は母親の仕事だと誤解を与えかねない(動画のお母さんは、朝は子供の準備に追われ、仕事が終わると子どもを迎えに行き、買い物をして食事の支度をし、食べさせる。父親はちらりとしか映らない)イメージが、視聴者に性差別ととらえられたのだ。こうした場合、性役割分業意識を強化しようとするから、問題視されるのだと著者は言及する。

 

また、NHKがノーベル賞解説サイトにバーチャルユーチューバー「キズナアイ」を起用したことや、日本赤十字が献血ポスターに漫画「宇崎ちゃんは遊びたい!」を使って炎上したのもまだ記憶に新しい。

 

どれも興味をもってもらおうと意識して制作されたのは分かる。しかし、受け手もメディアもひと昔前とは様変わりした。ストライクの広告を作るのが難しい時代に必要なのは、半歩先を見据えることだと著者は説明する。最後には、マイノリティの問題に広告はどう関わるべきなのかが言及される。これも、私たちがこれから向かいあうべき課題のひとつだろう。

 

炎上する広告を4つのモデルに分けたり、問題となったCMのリストも挙げてくれていて、その炎上CMを知らない読者にとって行き届いた構成になっている。フレッシュな話題がたくさん詰められているので、現代社会で耳にする言葉の表現に違和感を持っている読者にぜひ読んでほしい一冊。

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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