“反対派”ドイツが「クオータ制」に踏み切った結果から学ぶこと 男女間に横たわる「無意識の偏見」をなくせ
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ryomiyagi

2020/05/28

日本は153カ国中121位ーー。2019年12月に世界経済フォーラムから発表された、ジェンダー・ギャップ指数での順位だ。G7では最下位である。その背景には、多様化する市場には「人材の多様化」も必要不可欠だと気付き、強い危機感から迅速な変化を自国に課してきた他の先進国の存在がある。中でもドイツは、日本と類似した課題を抱えつつ、女性の幹部登用を実行してきた。日独の差はどこで生まれたのだろうか。

 

本稿は、野村浩子『女性リーダーが生まれるとき 「一皮むけた経験」に学ぶキャリア形成』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

 

 

■女性監査役のクオータ制(割当制)がもたらした変化

 

「女性に下駄をはかせてまで昇進させるのかーー」
「数値目標を掲げないと、女性幹部はなかなか増えない」

 

女性活躍推進の旗振りのもと、幾度となく聞かれた賛否の声だ。平行線を辿ったままの議論に、そろそろ結論を出してもいいのではないか。そのヒントを探るため、クオータ制(割当制)を導入したドイツを訪ねた。

 

女性役員を増やすためのクオータ制が欧州連合(EU)各国に広がるなか、ドイツは一貫して反対の立場をとってきた。ところが一転して2016年1月、大手企業の監査役会を対象に「女性を3割以上にすべし」というクオータ制を導入した。従業員2000人超の大手上場企業で、監査役会の従業員代表と株主代表が同等である約100社が対象である。

 

女性の候補者がいない場合は空席とするとしたところ、ほぼ全社がその目標を達成した。同時に「フレキシブル・クオータ」と称して、上場企業のうち約1750社に、取締役からその2段階下の管理職まで、女性比率と数値目標の公表を求めている。

 

ドイツ企業の監査役会は日本と違い、取締役を選解任するなど重要な決定権をもっている。監査役の女性を増やすことで、女性の取締役、管理職を増やしていこうというものだ。

 

■ドイツの女性幹部にとっての壁は、日本と似ている

 

G7のなかで女性の登用が最も遅れている日本が、ドイツから学べることは何か。ドイツ企業を取材するなかで、必ずといっていいほど聞かれた言葉が「透明化、可視化」であった。

 

クオータ制導入により、現状を透明化して、問題を可視化する。さらには幹部候補の女性がいることを可視化する。監査役の割当制、さらに数値目標の公開義務が、可視化、透明化の大きな契機となっている。

 

日本で2019年に成立した改正女性活躍推進法では、公開が義務付けられるのは男女均等、仕事と家庭の両立の2分野の任意項目でそれぞれ最低ひとつでもよい。女性管理職比率や採用率、男女の育児休業取得率などだ。これでは透明化は不十分である。公開を義務付ける項目を増やすべきだろう。

 

さらに反対意見も多いクオータ制はどうか。ドイツでは自然の変化に任せていては、各階層の男女均等を実現するのに90年かかるという試算もある。さらに遅れをとる日本では、100年以上かかるのではないか。変化を加速させるために、期間限定でのクオータ制導入を、日本でも検討すべき時期にきているのでないか。

 

女性活躍を阻む壁をみると、日本とドイツには共通点が多い。性別役割分業意識の強さ、子育て期のキャリアの遅れといった傾向だ。同様の課題を抱える日独を比較すると、女性の幹部登用においては、ドイツは日本の半歩先をいく。ではドイツの女性幹部はどのような道のりを経て現在に至ったのだろう。女性取締役に「一皮むけた経験」を3つ語ってもらった。成長につながった経験、その職場環境が日本とどう違うのか、あるいは共通するのだろうか。

 

■子育てと仕事の両立は、世界中のキャリア女性にとっての課題

 

ーーーー「生後3カ月の子供を連れてシンガポールに家族で赴任」

 

化学会社BASF欧州 取締役
サオリ・デュボワさん(47)※2019年2月取材時点

 

欧州最大の化学コンツェルンBASF欧州で取締役を務めるサオリ・デュボワさんは、娘が生後3カ月のとき、シンガポール赴任の打診を受けた。出産間もなくでためらうデュボワさんの背中を最初に押したのは、夫の一言だった。

 

「50歳になっても同じソファーに座っているのか」

 

家族3人でシンガポールに渡ることを決め、赴任先ではヘルパーにも助けられた。「仕事に子育てとダブルで大変だったが、出産はキャリアの障害とはならなかった。その逆だった」と言う。

 

BASFでは、デュボワさんのようにキャリア志向のカップルが増えているとして「デュアル・キャリア・プランニング」の支援を行っている(203ページ)。デュボワさんもまた、赴任の折「会社に手厚い支援をしてもらった」と感謝する。

 

デュボワさんの両親は、日本人とドイツ人。「私のなかには2つの文化がある。両方の視野から文化を理解することが私の強み」だという。例えば、孔子の言葉「花が咲いてリンゴがなる」をどうとるか。欧米ではリンゴが実っていないことに焦点を当てるが「日本には花が咲いていればそれを愛でる。現状を重んじる仏教的な考えがある」という。

 

こうした視点が、アジア統括責任者となったときに生きてくる。上司もまた、そうした異なる視点が会社の発展につながると評価してくれたという。その資質は早くから見いだされ、32歳の若さにして、自社開発したおむつ用の高吸水性素材を製品化するため、業界大手と交渉する大きなプロジェクトを任された。そして欧州全体で550億円を超える売上高となる事業に育てあげた。これがビジネスの最適化を学ぶ大きな成長につながったという。

 

デュボワさんは今農業、バイオビジネス部門を率いており、プラスチック廃棄物や二酸化炭素排出など、最先端の社会課題に取り組んでいる。「次世代がよりよく、より住みやすい未来をつくる」。これがデュボワさんの原動力になっている。

 

【3つの成長体験】

・30代前半から何百億ドルという単位の投資プロジェクトなど大きな責任を負わせてもらった。

・娘が生後3カ月でシンガポールへ。自分の考えをどうポジティブに変えるかを学ぶ。

・アジア全体の統括者となり自分のなかの2つの文化に助けられた。

 

女性リーダーが生まれるとき』光文社
野村浩子/著

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