ビクトリアの滝と彼女のケンタッキーと涙のパスタ 車椅子トラベラー、アフリカをゆく(7)
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ryomiyagi

2020/06/01

著書『No Rain,No Rainbow 一度死んだ僕の、車いす世界一周』で、270日間単独車椅子世界一周旅行を記した車椅子トラベラー・三代達也さん。世界一周に続ける形で、2019年秋、念願のアフリカ旅行を達成しました。その車椅子アフリカ旅行記7回目。ジンバブエに到着です!

 

ビクトリアの滝

 

無邪気な天使の「爆料理」

 

ジンバブエの空港に到着した瞬間に、ムワッとした熱気が僕を包んだ。
今回の旅で最も気温の高いこの場所は、平均で36〜38度という厳しい暑さだ。
旅に出て2週間。そろそろ疲労が隠せないレベルになってきた。
宿に到着したら、そのまま街へ繰り出して食事でもとろうと思ったが、暑さと疲労でキャンセル。宿泊するロッジで食事をとることにした。

 

といっても、ロッジにはレストランがない。どうしようかと思っていたら、レセプションにいた女の子が「作ってあげるよ!」と言ってくれた。

 

いつもだと近くで食材を買ってきて、ティーボーンステーキとライスが定番のセット(約15ドル)らしいが、暑さと疲れで肉を食べきる体力がない。パスタ(ボロネーゼ)でもお願いできないか?とオーダーしてみる。
「オッケー!」と、彼女は笑顔で去っていった。

 

それからざっくり1時間は待っただろうか。パスタってそんなに時間かかるかな……。
不安になった僕がキッチンに向かって、パスタまだかな?と聞くと、

 

「あと5分でできるわよ〜!」

 

と、笑顔で返された。
それからすぐに、キッチンで野菜を切る音や、炒める音が聞こえてきた。
きっと、僕のことをすっかり忘れてしまっていたのだろう。

 

さらに30分待って、空腹も極限を迎えたときに、待望のボロネーゼが出てきた。
目の前に現れたのは、日本で売っているパスタの束3つ分はありそうな量の麺に、パプリカとひき肉を炒めたミートソースがこんもり盛られた、超特大サイズの一皿だった。

 

思い出の特盛パスタ

 

ミートソースは想像と違って、肉と野菜を塩胡椒で炒めただけで、その上から自分で勝手にトマトソースをかけてくれよな!という感じ。トマトソースは人工甘味料と人工着色料のみでできたような化学的な色と味で、怖くてあまりかけることができなかった。

 

くぅ、食ってやるぅ!!

 

恐る恐る、一口。
これは、言うなれば「油そば」だ。麺が、たっくたくに油に浸っている。
どんなに気合を入れても、3割くらいしか食べられなかった。

 

少し経って僕の部屋に来た彼女は、
「どうだった?美味しかった?(ニコニコ)」
と言ってから、残されたパスタを見て、少しだけうつむいた。
そして、それを僕に勘付かせないように、笑ったのだ。

 

「あれ?あぁ残っちゃったんだね♪(ニコニコ)大丈夫だよ♪(ニコニコ)」

 

僕は、食べきれなかったことを激しく後悔した。

 

軽く仮眠を取り、少し涼しくなった夕方、街に出た。
ケンタッキーのドライブスルーがあったので、チキンを「多めに」オーダー。
そしてホテルに戻り、彼女が所用で僕の部屋に来た時に、
「昼はごめんね、外でケンタッキーがあったからさ、買ってきたんだけど……。もし良かったらもらってくれるかな?」
とチキンを彼女に渡したら、喜んで受け取ってくれた。

 

ところが、用事が終わっても彼女は部屋から出て行こうとしない。
「あれ?もう、用事はおわっ……」
と言いかけた瞬間、彼女は僕を正面から抱きしめ、顔を僕の首元にうずめてから、部屋を出て行った。

 

なんだったのだろうか。女心のわからない僕には彼女の心境がわからない。
そんな、ジンバブエ1日目だった。

 

彼女が去った部屋で一人、女心について考えてみる

 

ビクトリアフォールズを空から望む

 

いよいよビクトリアフォールズヘ。ジンバブエを選んだ理由は、世界三大瀑布の一つ、ビクトリアフォールズの滝を見るためだった。
1800年代にイギリスのリヴィングストンさんが滝を発見し、女王の名前を取ってビクトリアの滝と名付けた。

 

前年の世界一周で、同じく世界三大瀑布の一つであるイグアスの滝に出会い、滝の雄大さにたいそう惚れ込んでしまったのだ。
止めどなく流れる大量の水に揉まれて、僕もこのまま落っこちたら気持ちいいだろうな〜なんて本気で思ってしまうくらい、滝の魔力はすごいのだ。

 

駐車場からエントランスまではそれなりにバリアフリーで、スロープなども(完璧ではないが)整備されている。
ゴツゴツした石が敷き詰められたような道が現れ、800メートルほど進むと(アップダウンがあり結構キツい)滝が現れる。

 

まず、滝のミストに驚く。かなり強めな雨をずっと浴びているような感じ。
ハイシーズンだとその威力はさらに強いらしく、ポンチョが必須で写真撮影どころではないらしい。オフシーズンの11月は最も水が少ないらしく、逆に僕にとってはちょうど良かった。

 

きわめて個人的な感想だが、水量たっぷりの雨季にイグアスの滝を見てしまっているので、比べるものではないがややインパクトに欠けた。後にニュースで見たが、この年は100年に1度の水が少ない年だったらしい。

 

そこからヘリポートへ移動し、人生初のヘリコプター体験へ。
ヘリポートで1分ほどコースの説明をされ、乗り込む。ここまでの流れがありえないくらい早い。安全に関する説明とか一切ない。
写真を見てもらうと分かるが、まず一人で乗り込むのは不可能。

 

思ったよりも小さい機体

 

これは大変だと思ったが、強靭なジンバブエ人がたった一人でムンと担ぎ上げて乗せてくれた。半端ないパワー。
ヘリコプターでは常に耳をつんざくような音が鳴り続けるので、ヘッドホンをしないとなんの音も聞こえない。

 

ふわっと上空へ。
上から眺めるビクトリアフォールズは、やはり水が少ないためか、想像超える絶景は見られずに終わった。逆にヘリコプターを体験できたことのほうが嬉しかった。

 

テレビの中継でよく見るような感じだね

 

「あっ」という間にビクトリアの滝観光は終わり、近くのカフェへ。
パーキングでは、本当にたくさんの人に話しかけられた。
それぞれ売り物を持っていて、伝統的な土産物だけでなく、ジンバブエドルまで売っている人がいる。
100億〜100兆ジンバブエドルとか。それらがたった1枚の紙幣で成り立っている。
そして、それらを1〜100ドルほどで売っている。

 

為替が崩壊して使えなくなったお金を売りつけるとは、なかなか強気な商売だ。
でも今思えば、10億ジンバブエドルとか1枚くらい記念で持っていても良かったかな。

 

桁がもうワケのわからないジンバブエドル

 

女の子の謎の態度に困惑したり、滝は100年に一度の小水量だったりと予想外のことが多かったけれど、そういう国こそ、再訪して新たな魅力を発見したいなーと思えてくる。

 

次はこの旅最後の地、南アフリカのケープタウンへ(つづく)。

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一度死んだ僕の、車いす世界一周

一度死んだ僕の、車いす世界一周No Rain,No Rainbow

三代達也(みよ・たつや)

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