湊かなえさんが初めて書く「美容整形」をめぐる物語|最新刊『かけら』
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ryomiyagi

2020/06/20

 

『贖罪』がエドガー賞候補になるなど、世界中の本読みを夢中にさせる湊かなえさん。新作は美容をテーマにした長編ミステリーです。「容姿をめぐる固定観念をあぶり出したいと考え、今回は登場人物の外見への価値観を意識した」と湊さん。物語に込めた思いを伺いました。

 

“容姿をめぐる固定観念”をあぶり出してみたいと思ったんです

 

カケラ
集英社

 

読んだ後に嫌な気分になるミステリー“イヤミス”というジャンルを世間に広めた湊かなえさん。寺島しのぶが主演したドラマ『ポイズンドーター・ホーリーマザー』をはじめ、映像化された作品の多さからも人気の高さがわかります。

 

新刊『カケラ』は湊さんが初めて美容をテーマに描いた野心作。

 

物語を進めるのは、ミス・ワールドビューティーコンテスト日本代表で美容外科医の橘久乃。ある日、同郷で幼なじみの志保が来院し「痩せたい」と訴えます。カウンセリングをするなかで、志保は太っていた同級生・横網八重子とその娘・有羽の話を持ち出します。関係者によれば、中学時代まで明るくて人気者だった有羽が、高校卒業後にドーナツがばらまかれた部屋で亡くなっていたとのこと。高校2年のときには130キロを超え、不登校になっていた有羽。八重子が揚げるドーナツが大好きだった彼女に、何があったのか――。

 

「この作品の担当編集の方がみなさん女性で、ファッションや美容の話をよくされていたんですが、私はついていけなくて……。勧められて美容診断テストみたいなものをやったら“あなたはおしゃれを放棄した人”と診断されてしまいました(苦笑)。たしかにこれまでの人生において美容は触れずにきたテーマ。興味がない立場から書いたら、違う景色が見えるかもしれないと考えました」

 

湊さんは笑って“美容外科の取材にも行きました!”と続けます。

 

「クリニックに行くと、四方八方全部鏡! 肌が荒れている、太っている、髪も薄くなったと気づかされました(笑)。縁がないと思っている人でも一歩踏み込んだら、ここもあそこもという気持ちになることがよくわかりました。美容外科は人生の節目に行ったり、女優やモデルの人が行ったりする場所だと思っていたんですが、年齢を問わず、構えて行くようなところではありませんでした」

 

そう気づいた湊さんは、物語の軸を外見への価値観に置くことにします。

 

「多くの人が“かわいい”“美しい”“幸せ”など目に見えないものの基準を、自分の物差しでのみ判断しているのではないかと思ったんです。多様性という言葉だけが先行していて、自分の価値観を他人に押し付けている人がたくさんいるような気がしています。たとえば、太っていることは不幸なのでしょうか。そもそも見た目から生じる幸せって皆が同じなのでしょうか?」

 

実は湊さんは作家になって10キロ以上太ったのだそう。ですが、体重が増えることに対して何とも思っていなかったと言います。

 

「太っていても作品が面白ければいい、と思っていたから気にならなかったのか? ということは見た目と承認欲求はリンクしているのか? ならば、人が“求めているモノ”の核にあるものは何なのか? ……あれこれ考えていくうちに、“欲求の真ん中にあるもの”は人それぞれ違うと意識しておくことが大切だと考えました。どれだけ他人を理解したと思っても真ん中にあるものは本人しかわかりません。もしかしたら本人自身、真ん中が見えていないこともあるかもしれない。美容外科は、そんな欠けているところや喪失したものを埋めるためにあるのかも、とも感じました。
生きづらいと思っている方も、自分のカケラがどういう形をしているか思い描いたら、自分に合った場所が見えてくるのではないかと思っています」

 

はたして有羽はなぜ亡くなったのか? 想像を裏切られる結末に、あなたもきっと驚くはず。価値観にとらわれることの残酷さを描いた逸品です。

 

■湊さんの本棚から

 

おすすめの1冊

ザリガニの鳴くところ
ディーリア・オーエンズ 著
友廣 純 訳
早川書房

 

「6歳で家族に見捨てられたカイアは一人で生きていかねばならなくなり……。最近、読んだなかで面白かった一冊。主人公の波乱に満ちた、でも豊かな人生をそのまま追体験できます。読書の醍醐味を味わって」

 

PROFILE
みなと・かなえ◎’73年広島県生まれ。’07年「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞、受賞作を収録した『告白』でデビュー。同作で’09年本屋大賞を受賞。’12年「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞短編部門、’16年『ユートピア』で山本周五郎賞を受賞。’18年『贖罪』がアメリカのエドガー賞ペーパーバック・オリジナル部門の候補となる。

聞き手/品川裕香
しながわ・ゆか◎フリー編集者・教育ジャーナリスト。’03年より『女性自身』の書評欄担当。著書は「若い人に贈る読書のすすめ2014」(読書推進運動協議会)の一冊に選ばれた『「働く」ために必要なこと』(筑摩書房)ほか多数。

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