時を駆けたような不思議な気分にさせられる、これまでにない東京案内
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ryomiyagi

2020/07/30

 

21歳で上京してから60年ものあいだ東京にレンズを向け続けた写真家・森山大道。渋谷、銀座、神田、新宿、上野……森山が捉えた現代の東京の街並みを載せた本書は、東京を案内するガイドブックということだけれど、通常のガイドブックとはまるでちがう。

 

日本を代表するスナップショットの名手が見つめるのは、なんでもない日の街の風景だ。

 

 

銀座のスポーツカー、ちょんまげのマネキン、食品サンプル、飲み屋、魚屋の店先、無数の広告。線路が縦横に走り、高層ビルが立ち並んでいる。横断歩道を渡る人たち、外国人旅行客の姿もたくさんある。オリンピック・パラリンピックのために新設されたスタジアムにもカメラは向けられている。

 

森山氏の視点で東京を見ていると、東京オリンピックが開かれた56年前の東京も、現代の東京もそう変わらないのではないか、と思えてくる。あの時代から確かに時間は流れているはずなのに、つい最近の路上スナップのはずなのに。モノクロの写真のせいだろうか、まるで時を駆けたような不思議な気分にさせられる。

 

この本は、スナップ写真で巡る東京のガイドブックだから、地図や目的地の住所もしっかり載っている。紹介されているのはどれも、旅行客が訪れるような東京の名所ばかりだ。

 

 

しかし、東京にこんな場所があったかしらと、たびたび首をかしげてしまう。東京は不思議な街だ。しばらく離れて東京に戻ってくると、私は東京で生まれたにもかかわらず、まるで外国人にでもなったような気持ちになる。それは絶え間なく変化し続ける街の性格にあるのかもしれないし、出たり入ったりする人の流れの激しさのせいかもしれない。

 

東京とは、個性際立つ街々の集合体、得体のしれない混成都市のようだと著者は語る。「初めて東京の街並みに触れて覚えた強烈なときめきは、ある意味、ぼくの時間を止めてしまったのかもしれない」とも。この本には、そんな「あの日のときめきを追い求め、路地に這い蹲るようにして彷徨き続けた末、ぼくなりの視点で捉えた、現代の東京の街並み」が掲載されている。そして、読者もまた本書を片手に森山氏と同じ風景を見に出かけることができるのだ。

 

日本を代表する写真家ですらその正体を掴みきることができないと語る、世界に二つとない混成都市、東京。

 

森山氏の想いで切り取られた東京の街は、静止しているようでいて、常に動き続けており、街が生き物であることに気づかされる。最初から最後まで東京の街を彷徨い続けているような、そんな不思議な気持ちでページをめくっていると、どこからか街の喧騒が聞こえてくるようだった。

 

Tokyo』森山大道

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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