会社従属型雇用の弊害から脱け出す新マネジメント『失敗しない定年延長』(4)
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BW_machida

2020/11/04

 

戦後の焼け野原から、アメリカの庇護の下ではあるが奇跡的な復興を果たした日本には、独特の企業理念と従属型のサラリーマン像が理想的な在り様として根付いてしまった。この、かつては必要悪であったカタチが、21世紀を迎えて悲鳴を上げている。

 

ここに『失敗しない定年延長 「残念なシニア」をつくらないために』(光文社新書)という、低迷する日本経済に加えてのコロナ禍に苦しむ経営者と、それを挽回するための労働力となりうるシニア層にとって、バイブルともなる一冊を見つけた。

 

1945年の敗戦後、日本社会全体の混乱と困窮は、現代の社会人世代にとっては想像を絶するものであり、日本国民の多くが、長期間にわたって日々の生活すらままならない状態に陥りました。そのため、日本社会が戦後の混乱から立ち直り始めると、企業は「社員の生活の安定」を前提とした賃金制度を整備していきました。仕事内容にかかわらず、独身社員には1人分の生活を賄うための賃金、扶養家族がいる社員には家族全員を養うための賃金が支払われるべき、という考え方に基づく賃金制度です。
国民全員が困窮していた戦後すぐの日本社会では、この賃金制度こそが時代の要請だったのです。

 

こうして時代に求められるままに、日本企業には年齢・勤続年数・家族構成に基づく終身雇用制度が暗黙のうちに形作られていったことは想像に難くない。
そうして社員と企業との間には、「働けば報われる」という約束が結ばれて、企業との相互信頼関係を築きあげた日本のサラリーマンは、世界中が目を見張るほどの勤労努力を見せて奇跡的な高度経済成長期を迎えることとなる。
そんな日本の企業とサラリーマンの姿を、当時の世界はエコノミックアニマルと揶揄し、やがてその在り様そのものがガラパゴス化していくのだが、近年中国に抜かれたとはいえ、今もって世界第3位の経済大国の座を守る日本のポテンシャルは、このエコノミックアニマルと揶揄された方々の力による。

 

「1960年代:高度経済成長期に始まった会社従属型雇用」
この会社で同じ釜の飯を食う仲間(新卒で入社した先輩・後輩達)と一緒に頑張っていけば、報われる。そんなマインドが正規社員の間で暗黙的に共有され、会社と社員の運命共同体化が進み、会社従属型雇用の土壌が整いました。

 

「1970年代:転勤前提のキャリア形成」
組織を構成するメンバーの若さと企業に対する信頼感の双方が相まって、社員本人達は「会社に従属している」という事実を全く意識することなく、実態として会社に従属するようになりました。

 

「1980年代:(1)安定経済成長期の労働法改正」
高度経済成長期に定着してしまった「男性社員ががむしゃらになって長時間労働をし、女性社員がそれをサポートする」という就労スタイルを見直して、先進国に相応しい、労働者の生活の向上や長期的な雇用機会の確保を前提とする働き方への移行を狙った政策が展開されていきました。

 

「1980年代:(2)職能資格制度の活用」
職能資格制度によって資格の基準が明確化され、それに基づく人事考課・昇進査定と昇給・賞与のルールが制度として社員に開示されるようになっていきました。

 

「1990年代:バブル経済崩壊(1)40時間労働と派遣法」
(労働者派遣法の)改正は労働者派遣を「臨時的・一時的な労働力の需給調整に関する対策」として位置付けたものであり、バブル経済崩壊後の不況の中、固定費(=正規社員の雇用)の増加を避け、労働力不足を変動費(=非正規社員の雇用)で対応したいという企業のニーズに合致していました。

 

「1990年代:バブル経済崩壊(2)成果主義人事制度の導入」
成果主義そのものの考え方は、悪いものではありません。しかし、結果的にこの試みは多くの企業で失敗に終わったと言っていいでしょう。

 

「2000年代:伸びない賃金、増える非正規社員」
バブル経済崩壊後の企業は、社員が頑張っても報われない疲弊の場に変容してしまったのです(中略)この変容は、社員の企業に対する信頼感を大きく毀損する結果となりました。

 

「2010年代:中高年社員の悲哀」

 

2010年代の中高年社員と言えば、戦後から昭和にかけて醸成された終身雇用を前提とした会社従属型のバリバリの企業戦士だった方々であろう。そんな彼らが、終身雇用でもなければ会社に対する従属意識も無い非正規社員を手足のように使うなどできるはずがない。
かつて奨励されたガムシャラや長時間残業は悪とされ、様々なコンプライアンスに息を潜めて自らのサラリーマン人生を振り返り「これでよかったのだろうか?」と嘆くさまは決して他人事ではない。

 

しかし時代は変わるのである。たとえそれが不慣れで息苦しかったとしても、だからと言って後戻りはできないのである。
そしてシニア世代と呼ばれ、定年を目前にして老後を考えざるを得ない現在、この時代が求めるドラスチックな変換を「好条件の到来」と考えた方がいい。

 

なぜなら、かつて親しんだ会社従属型の働き方など、シニアの身には過重労働でしかなく、年齢でのみピリオドを打たれる定年制も、迫りくる危機的状況以外の何ものでもないからだ。
いよいよ「シニアの黄金期到来」と、前向きに時代と向き合うべきである。

 

そして現在、少子高齢社会となった日本は、かつての従属型・終身雇用から脱却し、シニア世代に熱い目を向けている。
本書によれば、早晩「ジョブ型人材マネジメント(=職務請負型)」が導入されるらしい。
そんな「ジョブ型人材マネジメント」の一部を紹介しておく。

 

基本的考え方/個々のポジションの職務内容を職務記述書によって明示し、その職務を担う社員を配置。
採用要件/個々のポジションの職務を担うために必要な経験・知見・適正
キャリア形成/社員は自らのキャリアを自律的に形成し、自己学習する
報酬/個々の職務の価値によって決定されるため、同一職務であれば同一報酬。職務変更に連動して報酬も増減する。
昇進/ポジションが空席の場合、最適な社員を登用または社外から採用
特徴/処遇から年功序列的要素はすべて排除される。

 

これを見る限り、すでに数十年間の継続勤務をしてきて、本音では「ちょっと一休み」したいと思っている身にはやや厳しくも見えるが、考えてみればいずれもシニアには好条件ではないだろうか。

 

『失敗しない定年延長 「残念なシニア」をつくらないために』(光文社新書)は、会社経営者や企業マネジメントを志す人たちへの提言と言う形こそとってはいるが、その内容は、定年を目前にしたシニア層こそが読むべき教えと気付きに満ちている。

 

文/森健次

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失敗しない定年延長「残念なシニア」をつくらないために

石黒太郎

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