内澤旬子の島へんろ記(1)悟りの世界よ、こんにちは 
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四国の中の、香川の中の、さらには小豆島だけで88箇所の札所があることを知っていますか?島に移住して6年目の内澤旬子さんが、いつかはやりたいと思っていた島へんろに挑戦。ヤギ飼いのため長期間留守にはできず、半日単位でコツコツと札所を回る「区切り打ち」。迷い、歩き、また迷い…。結願するまでの約2年を描いたお遍路エッセイ『内澤旬子の島へんろの記』の一部を、数回にわたって掲載します。

 

 

 小豆島のお遍路回ってみようかな。そんな気持ちになったのは、小豆島に移住してから三年ほど経った頃のことだ。島に遊びに来た友人を案内していて、お遍路回りをしてみたいのだけどどうしたらいいのかと聞かれ、愕然とした。あれ、そういえばどこに連れて行けばいいのだろう。
 小豆島というのは、瀬戸内海の、香川県と岡山県の間あたりに位置している。豊島、直島などとともに香川県に属する。小さいようで大きく、大きいようで小さい。いや、たぶん瀬戸内出身でもなく、島マニアでもない人は、名前の通り豆粒みたいな島で、港のまわりに寄り添う個人商店で買えるもので暮らしを賄う、というイメージを持つのではないだろうか。それよりは、はるかに大きい島です。

 

小豆島全図(イラスト/大林慈空)

 

 瀬戸内海に浮かぶ島の中で、淡路島に次ぐ大きさ。この中に全行程150キロ、88以上の霊場がある。

 

 人口およそ二万八千人。こないだまで三万人と言われていたけど少子高齢化の波に押されて、ガックリ減ってます。海も綺麗だし景色もいいので、香川県の中でも移住者は多いのだけど、減るほうが多い。で、二万数千の規模というのがピンとこない人に続けて解説しますと、つい先年ひとつに合併するまで高校が二つもあった。そして昔は三つ、今は合併して土庄町と小豆島町の二町で構成。極め付きがコンビニの数。五つもある。全部セブンイレブンですが。
 スーパーマーケットもあれば、ドラッグストアもあるし、百円ショップもホームセンターも、カラオケもある。ただし田舎の定番、イオンモールはありません。映画館も、なし。そんな感じです。少しつかめてきたでしょうか。
 そして肝心の本土と島をつなぐ命綱、フェリーが就航する港が、なんと六つもある。土庄、福田、大部、坂手、草壁、池田。多すぎる。何年経っても全部一気に言えずにひとつ忘れてしまう。行き先もさまざまで、高松、神戸、岡山、姫路。昔は大阪に行く船もあったとか。瀬戸内海ってどこにでも海でつながってしまえるのだなあと思わされること、しきり。

 

高松―小豆島間を結ぶフェリー

 

 関東で生まれ暮らしてきた身としては、島といえば東京都下の伊豆七島を思い浮かべるので、港は各島ほとんどひとつか二つだし、つながりも、伊豆半島か、東京方面かという具合で、方向的にはひとつ。本州に無理矢理しがみつくようなイメージ。一方、まるで蜘蛛の脚のように四方に航路を延ばしている小豆島は、孤立感が非常に少ない。本州の中にいるようなものだ。瀬戸大橋ができて、四国が本州とつながって以降、余計に生け簀、じゃなくて内海の中にいる感じが強い。
 という島である。当然のことながら、一日歩けばぐるっと一周できるなどという広さではない。はじめて来た時は、車で朝から夕方まで、一日かけて海岸線を一周、案内していただいたくらい。当然お遍路巡礼も、一日で回りきるなどということは、できそうにない。なにしろ札所の数は四国と同じ、八十八もあるのだ。
 そう、四国と同じで八十八の霊場があるってことは、なんとなく知っていた。車でその辺を走っていれば、「第○番札所 ○○寺」という看板に出くわす。歩いていると「へんろ道」と書いた指さし看板も、ちょこちょこついている。え、ここが!?けもの道じゃないの? というような山の小道を指していることも多くて、ぎょっとするのだ。

 

 四国の八十八か所を歩いたことがあるわけではない。高松近辺のいくつかのお寺は車で立ち寄ったことはある。どこも島の寺院に比べて巨大で、はじめの門をくぐって大木が並ぶ風情ある参道を歩くだけで、まあまあ大変であり楽しめた。ただし、友人のエッセイスト宮田珠己氏の『だいたい四国八十八ヶ所』(集英社文庫)によれば、巡礼路の全体を俯瞰すると、ほとんどが国道のつまんない道だという。そりゃそうだろうなと当時は妙に納得した。あれだけ大きい島、じゃないや、四国なのだもの。
 ともかく足のマメが痛いことと、イマドキの全国一律同じデザインのチェーン店が軒を連ねる国道を延々と歩くシーンばかりが記憶に残っているのだけれど、面白かった。いや、あれだけつまらなそうな道中なのに一冊退屈させずに読ませてしまう宮田さんの筆力に、ひたすら感心したのだった。(つづく)

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