「月に水はある?」――論争の舞台裏と残る謎
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ryomiyagi

2021/01/26

人類初の人工衛星、宇宙飛行に月面着陸……20世紀は人類が宇宙への進出を始め、冷戦により宇宙開発競争が活発に行われた時代でした。そして21世紀の現在、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の春山純一助教は、この世紀が「人類が再び宇宙を目指した時代」として歴史に刻まれるだろうと言います。中国、インド、アメリカ、イスラエル、韓国、そして日本など各国が月を目指した宇宙開発を進める今、私たちはどのような宇宙の世紀を創り出していくことになるのか。『人類はふたたび月を目指す』では、春山純一助教が今までの宇宙開発を振り返りながらその展望を語ります。 

 

 

アポロ後途絶えた月の探査

 

1969年、人類は初めて月に降り立ちます。

 

「これは、一人の人間にとっては小さな一歩かもしれないが、人類にとっては大きな飛躍である」

 

見事月面着陸に成功したアポロ11号のアームストロング船長はこのような言葉を残し、前人未到の功績をたたえました。

 

しかしこの“飛躍”の後、人類の月への挑戦はしばらく途絶えることになります。アポロ11号を含む米航空宇宙局(NASA)の「アポロ計画」で調べられた月面はわずか6ヶ所。月の裏側や極域など多くの未知の部分を残してアポロ計画は1972年に終了し、その後人類の興味は月探査から離れる時期が続きました。

 
そんな中、状況を一変させる出来事が起こります。1994年、NASAの月探査機「クレメンタイン」が月の極域の観測に成功したのです。月の極域には、太陽の光が一切当たらず常に影になっている「永久影」という部分が存在します。「クレメンタイン」の観測結果は、砂漠のように渇いた土壌の月であってなお、そこに水が蓄えられている可能性があるという仮説に脚光を当てました。

 

もし月に水があれば、飲み水や燃料として利用できるかもしれません。地球から宇宙に持っていく水は、打ち上げコストから計算すると地上の金よりも高くなります。もし月の極の永久影に水氷が堆積していて利用できるならば、一気に宇宙開発が進むと思われたのです。

 

本書の著者・春山純一助教は、人類が再び月探査へと漕ぎ出していった経緯をこのように説明します。

 

賛否両論で揺れる水の存在

 

「月に水はあるのか」。この論争をめぐって唱えられてきた様々な可能性が、本書では紹介されています。
「クレメンタイン計画」では、月の永久影の電波反射に非常に特異な反射が見られたことから「月の極の永久影に水氷がある」という報告がされました。
しかしそれに対して、電波科学の専門家らは、「クレメンタイン」の観測で行われた電波発射とその反射による観測と同種の実験を行い、水氷の存在を否定する結論を出しています。また他にも、「クレメンタイン」のデータを再解析し、反射が水氷によるものではないと主張する究者も多数います。

 

こうした月の極域に水氷がある可能性を否定する論が多い一方で、月に水がある証拠が見つかりつつあると春山助教は言います。

 

今世紀に入り、分析技術が向上して、「アポロ」が持ち帰った試料に水が含まれていた証拠が次々に見つかり始めました。2008年、ブラウン大学の地球惑星科学者、アルベルト・サールらは、アポロ試料の火山ガラスから4~46ppmの水酸基が含まれているのを見出しました。……(中略)
その後も、サンプル内の水発見の報告が相次ぎました。中には6000ppm(0.6パーセント)にもなる水の存在が報告されています。

 

水が月からは失われていないという考えは、2017年の東北大学の鹿山雅裕博士(現在は東京大学)らの報告で、より可能性が高まったと私は思っています。その報告の内容は、月の隕石の中に、水がなければできない鉱物「モガナイト」を発見したというものでした。月の形成時から水は月の地下深くに残っていたかもしれません。それを上昇してきたマグマが持ち上げて、水を浅い部分にもたらし、そこでモガナイトを形成したとも考えられるでしょう。

 

月のいたるところに水がある?

 

月の火山ガラスや隕石から水の痕跡が見つかっているのと同時に、月探査機の調査でも水の存在を裏付ける新たな証が見つかっています。
2009年、インドの月探査機「チャンドラヤーン」に搭載している分光撮像機器「エム・キューブ」のデータから、水酸基の存在を意味する波長帯で光吸収が見られると発表されました。その後の解析によると、今まで水があるのではないかと予想されていた極域だけでなく月面の様々な部分に水酸基が多くある箇所が散らばっていることも分かりました。つまり、月のいたるところに水があるかもしれないのです。

 

同様の可能性を示唆する研究結果が、2010年代に相次いでいます。
2013年には、月にある直径約60キロメートルの「ブリアルディスクレーター」の中央にそびえる山からも、「エム・キューブ」で観測したのと同じ波長帯での光吸収が見られ、月の内部に水があった証拠ではないかと推測する報告がありました。
また、2018年には米国の衛星「LADEE」が宇宙の塵が出す水関連の粒子を測定したデータから、月のあらゆる所、表面から数センチメートル下には200~500ppm(0.02~0.05パーセント)程度の水が存在するのではないかという結論が出されています。
さらに2020年にも、水の存在の兆候を示す観測データが、NASAとドイツ航空宇宙局が共同運航する天体望遠鏡を積んだ飛行機「ソフィア」によって得られています。

 

月の極域に水がある可能性は低い、しかし月には水が点在している兆候が見られる。こうした状況について春山助教は「問題は、濃集量と形態、そして存在する場所であり、また、その利用を目的とするなら、調査・開発を含めたコスト評価」と冷静に分析する一方で、次のような未来の可能性を語ります。

 

資源になるほど農集した水が月で大量に発見され、それを利用できるほどの技術が開発されれば、数百年前のアメリカ西部のゴールドラッシュのような時代がやってくるかもしれません。今、中国をはじめとする国々、さらには民間企業が月を目指すのは、そんなフロンティアの可能性が月にあるからです。

 

月にはまだまだ謎や課題が多く、月の水に手が届く日はまだまだ遠いかもしれません。しかしだからこそ月は無限の可能性を秘めているとも言えるようです。そしてそれこそが、私たち人類が月を目指す理由なのかもしれません。

 

文/藤沢緑彩

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