中国、インド、Googleも…加熱する21世紀月探査レースが行き着く先とは
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ryomiyagi

2021/01/28

人類初の人工衛星、宇宙飛行に月面着陸……20世紀は人類が宇宙への進出を始め、冷戦により宇宙開発競争が活発に行われた時代でした。そして21世紀の現在、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の春山純一助教は、この世紀が「人類が再び宇宙を目指した時代」として歴史に刻まれるだろうと言います。中国、インド、アメリカ、イスラエル、韓国、そして日本など各国が月を目指した宇宙開発を進める今、私たちはどのような宇宙の世紀を創り出していくことになるのか。『人類はふたたび月を目指す』では、春山助教が今までの宇宙開発を振り返りながらその展望を語ります。

 

米ソの月探査競争がもたらした成果

 

第二次世界大戦後、世界は米国を中心とする自由主義陣営とソ連をリーダーとする社会主義陣営に分かれて対立する「冷たい戦争」の時代に突入しました。そして同時期に、宇宙開発は本格化の兆しを見せます。

 

終戦から12年が経った1957年10月4日のことです。ソ連が人工物体を打ち上げて、地球の周りで回し続けることに成功しました。人類史上初の「人工衛星」が生まれた瞬間です。その名はスプートニク1号。わずか直径58センチメートル程度の球体で、カメラなどは搭載せず、電波を発する機能しか備わっていませんでした。しかし、その成功は米国に多大な衝撃を与えたのです。

 

史上初の人工衛星、「旧ソ連」のスプートニク1号 (C)NASA/NSSDC

 

宇宙開発の技術はミサイルなど軍事開発にも転用できるものであり、世界への影響力を強めることにもつながります。だからこそ、米ソは躍起になって宇宙を目指し始めたのです。宇宙の中でも両国が目的地にしたのが月でした。1959年、ソ連がスプートニク1号に次いで打ち上げたルナ1号が月の軌道に到達すると、米国も追いつけ追い越せというように1962年にレインジャー3号で月を目指し、その後も米ソは続々と月探査機を飛ばし続けます

 

1950~1970年代前半の月探査機の歴史

 

こうした熾烈な月探査レースは、米国のアポロ11号が人類初の有人月面着陸を成し遂げたことで一応米国が勝利したかのようですが、勝敗よりなによりも、この競争の末飛躍的に進んだ宇宙研究にこそ成果があったと春山助教は言います。

 

アポロ計画で持ち帰った岩屋砂などの試料(サンプル)は、合わせて400キログラム近くにも上ります。これらの試料からは詳細な岩石学的なデータが得られました。また、月の周りを回る周回衛星で、遠隔観測(リモートセンシング)による広範囲な地形・地質・鉱物に関するデータも得られました。これらの成果で、月についての科学的な情報が飛躍的に増大し、月のみならず、地球の、そして太陽系の形成についてさまざまな知見が人類に蓄積されていったのです。

 

21世紀の月探査レース

 

冷戦後は、国際宇宙ステーションの建設をはじめとして国際協力が広まりましたが、月探査競争は今世紀に入ってからの中国や民間企業の参入によって再び熱を帯び始めています。

 

中国は2000年代に入って月周回、月面着陸を次々に成功させ、2020年11月24日には月からのサンプル持ち帰りをミッションとする「嫦娥」5号を打ち上げました。春山助教は「月への有人月面着陸も時間の問題」と中国の宇宙技術のめざましい進歩を評価します。
中国とライバル関係にあるインドもまた、月を目指して2019年には「チャンドラヤーン」2号で月の無人着陸に挑戦し、米国は人工衛星「GRAIL」や「LADEE」を相次いで投入したほか、月へと人を送り込むことのできる超大型ロケット「スペース・ローンチ・システム」の開発も完了させています。他にも、イスラエルが月軟着陸に挑戦し、韓国も月への着陸実験を準備中とのことで、各国月を目指しての競争が再び起きつつあると春山助教は指摘します。

 

月探査に乗り出そうとしているのは国の機関だけではありません。

 

21世紀、新たな重要プレーヤーとして出てきたのが民間企業です。大きなモチベーションを与えたのは、2007年にGoogleがスポンサーとなって開催された月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」でしょう。いち早く月に軟着陸し、500メートルの移動、月面写真を撮ることに成功したチーム(国家宇宙機関は除く)には20億円の賞金を出す。そんな前代未聞のレースに数十もの企業や団体が挑戦したのです。

 

結果としては2018年の期限までに達成チームが現れなかったものの、これを機に「月を目指そう」という機運が民間企業の間で高まったことは事実です。
例えば、米国の実業家イーロン・マスクが設立した企業「スペースX」は2018年、民間月旅行計画を発表しました。日本人では「ZOZOTOWN」の創業者・前澤友作氏が搭乗者として名を連ねているとのことで話題を集めています。

 

月探査から宇宙滞在へ

 

人類はなぜ月を目指し続けるのか。再び月探査に世界の注目が集まる今、春山助教は冷戦時代をと同様に「技術力誇示」の側面があると言います。

 

2019年1月、中国は「嫦娥」4号での月の裏側への無人着陸に成功します。これは、米国が成し遂げていないことです。リレー衛星を利用した中国の着陸成功は、全世界、特に米国の宇宙関係者に大きな衝撃を与えたと思います。……(中略)
「嫦娥」4号の成功は、実益を強く求めるトランプ政権に対しても、国の威信に関わる問題と認識させたのかもしれません。その2か月後の2019年3月、トランプ政権はトランプ政権は月有人着陸計画「アルテミス」を計画します。

 

2020年代半ばに女性宇宙飛行士を月面に立たせるというトランプ政権によって発表された米国の「アルテミス計画」 (C)NASA

 

貿易摩擦に端を発した米中対立が深まる中、宇宙技術開発の分野でも競争が始まっているのです。国の威信を示す、他国に先んじて優位に立つ、その象徴として月探査がすすめられているという面がある一方で、春山助教は人類の可能性の拡大として宇宙への、月への進出を実行すべきだと考えます。

 

月にはまだまだ未知のことがあり、宇宙科学、地球科学の重要な課題を解く鍵があふれています。未知のことを知っていく知的探求の場として、月は最高級のフィールドです。
さらに、月には地球と異なる新しい世界が広がっています。読者の皆さんは、これを魅力的だと思いませんか。
重力は地球の6分の1です。地球ではできない体験ができるでしょう。そこで撮影された非日常の動画は、月の世界を地球上の人々に夢見させ、憧れさせ、いつか自分も生きたいと思わせることになるでしょう。障害のある人や老齢者が、6分の1重力の世界で、素晴らしい活力を得ることができるかもしれません。月がユートピアになることは、十分にあり得るのです。

 

さらには、月に滞在を始めた人間たちをAIが組み込まれたロボットがサポートするという近未来社会の試行の場になるだろうとも春山助教は予想しています。地球から一番近い天体である月には、競走以上に意味のある未来が待っているようです。

 

文/藤沢緑彩

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