「ビスコ」を通して生まれたコンビニ店員との、ささやかな交流物語
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ryomiyagi

2021/02/09

イラスト/小山健

 

本書は、コンビニで毎日おなじものを買うことで「店員さんにあだ名をつけられるか」と考えた著者が、近所のコンビニに通いつめるなかで体験したコンビニ店員との出会い、そして「ビスコ」を通してのささやかな交流を描いたものだ。しかし、この本にドラマチックな展開を期待するのは間違いである。2020年1月にnoteに記事をアップして以来、SNSを中心に話題を巻き起こした記事を書籍化した本書の魅力はなんと言っても、著者をとりまくありふれた日常感だ。

 

あだ名をつけられるかという検証をするために著者が選んだのは、家から通える範囲の3店のコンビニ。「職場で食べやすく、手軽でおいしい」そのうえ「なぜか身体に良いようなイメージがあり、たくさん食べても罪悪感が少ない」との理由から、著者が100日間連続して購入するのはビスコ。著者はビスコだけを求めて、100日間毎日コンビニに通い、タイミングをみて店員に自分のあだ名を聞いてみようと計画を立てる。そのためのルールも設けた。

 

1 今回行くお店ではビスコ以外の商品を買ってはいけない。
2 店員のほうから話しかけられるまで、こちらから声をかけてはいけない。
3 目立つ格好、行動をしてはいけない。
4 ビスコを入荷してください、という働きかけをしてはいけない。

 

「ただし、一度でも店員側から話しかけられれば、それ以降はこちらからコミュニケーションをとっても良い」との特別ルールつきだ。

 

イラスト/小山健

 

店員さんとのあいだにちょっとした変化が生まれたのは8日目。義務的に業務をこなしていた店員さんがついに著者を「毎日午後8時頃ビスコだけを買って必ずレシートを要求する男」と認識しはじめたのだ。2週間も経つと、行きつけのコンビニの店員とのあいだに会話が生まれるようになる。「ビスコ、好きなんですか」と予期せぬタイミングでの店員からの質問にびっくりする著者。「相手に認知されていると思うと店に行くのが途端に恥ずかしくなる」そんな経験をしたことがあるのは著者だけではないはずだ。

 

イラスト/小山健

 

「きょうは行くのが本当に億劫だった。なんでわざわざ毎日30分かけてコンビニまで行かなくてはならないのか理解に苦しむ」と検証に疑問を持ちはじめた22日目。しかし1ヶ月を超えると、店員のお姉さんが仕入れ用のプラスチックボックスからわざわざビスコを出してくれるまでの関係に発展する。

 

「どうしてそんなことをしているのか」と思われた読書の方も多いであろう。そのような方々にこそぜひ本書を手にとって頂きたい。そして、この小さな日常で起きた100日間の検証の結果がどのようになったのか、ぜひ確かめてもらいたい。

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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