コンビニから生まれるかもしれない、優しい世界の可能性
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ryomiyagi

2021/02/11

イラスト/小山健

 

アルバイトの代表というイメージのあるコンビニだが、『100日間おなじ商品を買い続けることでコンビニ店員からあだ名をつけられるか。』の著者もかつてはいろいろな接客業を経験してきたという。お客のなかには楽しい人もいれば、あまり元気のない人、しっかり返事をしてくれる人もいて、長くお店に通っているお客さんを観察していると、少しずつその人の背景が見えてくるのだと著者は語る。

 

「『ひとり暮らしなのかな』とか『月曜日がお休みなんだな』とか『メビウスを吸ってるんだな』とか『夏でもホットコーヒーなんだな』とか。私はあまりお客さんに声をかけたりするタイプの店員ではありませんでしたが、そういう小さい情報からぼんやりとお客さんの背景にある生活を想像するのが好きでした。」

 

色とりどりのおかずのお弁当。雑誌にタバコ、歯ブラシやトイレットペーパーといった日用品まで、ありとあらゆる商品が並ぶコンビニ。そのうえ荷物を送ったり、コピーをとったりなにかと便利なコンビニには、一日中ひっきりなしに誰かが出入りしている。毎日おなじコンビニへ買い物に行くのを生活のルーティンにしている人もいるだろう。

 

イラスト/小山健

 

ここには、子どもからお年寄りまで多くの人たちが集まるが、滞在時間はほんの数分だ。コンビニ店員と交わす会話は1分にも満たない。しかし、特別な会話を交わさなくても、いつもの人がいつもの場所にいるだけでささやかな喜びを感じることができると記したうえで著者は、そうした小さな幸福こそが日々を豊かにするのではないかと読者に語りかける。

 

「私達をつなぐ線はとてもか細いものなのだと思います。お店という場によって引き合う私達はお互いの連絡先はおろか名前すら知りません。しかしそんな間柄の人だからこそ無責任に明るく振る舞うことができ、人を元気づけることができるのではないでしょうか。」

 

イラスト/小山健

 

コンビニ店員とビスコを買いにくる一人の客、と並べてみるとなんてことない場面のようにも思える。しかし、どの人にもコンビニの外に続いている日常があり、家族がいて、仕事があって、落ちこんだり喜んだりしているのだと想像すると、彼らの存在をより深く意識できるようになる。

 

コンビニ店員たちの日常の出来事を想像し、小さな店内での交流を考えることで、互いをより理解できるようになるかもしれない。本書は、その暖かな交流がもたらしてくれるだろう優しい世界の可能性を示しているように思える。

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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