『夜想曲……別れ』著者新刊エッセイ 早坂真紀
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2021/03/31

介護のあと

 

夫が逝ってから三年が過ぎた。

 

生活を共にして五十三年。数字だけみると長い月日だけれど、過ぎてみればあっという間だった。特に脳梗塞で倒れた夫を介護した三年半と、見送ってからの三年は、本当に信じられないほど束の間だった。

 

まさか自分の夫が脳梗塞で倒れるだなんて、夢にも思わなかったし、想像さえしたことがなかった。生まれてきたからには必ず死を迎えるのだということは、知識では知っていた。両親も死んだし、我が溺愛犬のキャリーだって死んだ。それでも夫が脳梗塞の後に死ぬなどと、まして私が夫の介護をするなどと想定外だった。

 

平均寿命までまだ何年かあるから、これからは穏やかに暮らそうと二人で夢を見ながら、自分たちはどんな形の死を迎えるのだろうかなどと、茶飲み話のように話していた。現実感はなかったが、それは突然やってきた。そして三年半の闘病の末に亡くなって三年が過ぎた。

 

介護……。それはきれい事ではない。昔のような大家族ならまだしも、終わりの見えない介護は老夫婦にとって精神的にも肉体的にも半端ではない負担がかかる。老々介護の末の無理心中も、今なら理解できる。

 

その時の経験を元にして『夜想曲……別れ』を書いた。正直に言うと介護というものは、する方もされる方も実際はこんなきれい事ではない。これから介護が始まるかもしれない方は、これはあくまでも実体験を元にしたものの、小説であるということを含んで、お読み下さい。

 

しかしすべては終わった。最期に夫が微笑みを浮かべて逝ってくれたことが、どんなにか私の救いになったことか。

 

介護のあと、これからの時間はすべて自分のために使おうと思ったら、新型コロナ騒ぎで『お家時間』。お籠もりは、夫との思い出を振り返ってばかりの時間になってしまった。

 

『夜想曲……別れ』
早坂真紀/著

 

【あらすじ】
長く勤めた大学の職を離れ、専業作家になった直後、病魔が作家を襲う。不自由な体が、次第に作家の心を蝕む。妻は、悩み、苦しみ、生命の尊厳を自問し、夫の介護に懸命に努める(表題作)。作家・内田康夫の妻でもある著者が、実体験をもとにした表題作を含む短編集。

 

【PROFILE】
はやさか・まき
1995年、詩集『軽井沢に吹く風』でデビュー。『軽井沢の芽衣』『芽衣の初恋』の「芽衣シリーズ」など、詩情あふれる小説、エッセイを発表。夫・内田康夫との共著に『愛と別れ夫婦短歌』。

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